多様な人材が一枚岩となって前進する「組織カルチャー」を創る
デジタル庁で人事・組織開発を担当しています、唐澤(非常勤の民間人材)と津脇(行政官)です。デジタル庁が直面してきた組織課題とその背景、解決に向けた奮闘の様子をシリーズでお伝えします。
第三弾の今回は、採用され各プロジェクトにアサインされた多様な人材が連携しながらパフォーマンスを発揮するための、組織カルチャーについてお話しします。
組織の目標・価値観の共有と、フラットなコミュニケーション
幹部を含めた双方向型コミュニケーション
試行錯誤しながら進んでいたデジタル庁発足当時、現場には「幹部に自分の声は届いているのだろうか」、「ちゃんと対応してくれているのだろうか」、「幹部は一体何を考えてどう進もうとしているのだろうか」と言った見えない不安があり、幹部も「具体的に現場は何を求めているのか、何から対応すればいいのか」、確信が持てない状態でした。
第一回組織サーベイの結果は、こうした組織の状況をデータがはっきり示していました。そこで、トップと現場が直接コミュニケーションをとることができ、大臣・副大臣・政務官などの政務や幹部と直接話したり質問して、直接返事をもらえる、自分が困っていることや意見を直接聞いてもらえ、対応してもらえるという、フラットに意見が言いやすいカルチャーを作るために、組織としてアクションを起こすことにしました。
まず、All-Hands(オールハンズ)という全職員が参加できるオンラインミーティングを月に一回開催することにしました。大臣・副大臣・政務官やデジタル監などを含む幹部も参加し、組織としての取組みや方向性、幹部の考え方などを説明し、チャットや発言を通じて寄せられた意見や質問に幹部自らが答えたり受け止めたりしています。
すでに6回ほど開催しており、毎回300~400人程度が参加、時間の都合がつかなかった職員のためにアーカイブしています。
All-Handsはフラットなコミュニケーションを職員全員で体感する象徴的な場です。他の会議においても、現場の職員が幹部にも意見・質問しやすい、チャットでのコミュニケーションがしやすい文化に少しずつ変わってきていると思います。
立場関係なくデジタル庁で働く全員がフラットに参加できるカジュアルな勉強会も多く開催されるようになりました。
民間専門人材の幹部による技術動向の説明や、エンジニアの海外出張報告、役人幹部による政策の説明や現場職員による取組みの紹介など内容も説明者も様々です。
互いに学び合い、専門家も行政官も立場を越えて直接質問して議論できる、誰が何を言ってもいい雰囲気が少しずつ醸成されてきているのではないかと思っています。
また、デジタル監から毎週月曜日の朝に全職員に発信があり、幹部の考え、方向性、取組みの共有を少しずつ進めています。
第二回組織サーベイでは、幹部の組織目標の達成への取組みやデジタル庁内の情報共有など、組織としての目標と価値観の共有に関連する項目が軒並み大幅に改善しました。
まだ十分ではなく改善が必要な部分ではありますが、幹部が組織にコミットし、目指すゴールを提示し、職員一人ひとりと向き合うべく努力したことが、一定程度は評価されたと感じています。
多種多様な人材が一体的に動ける組織を目指して
デジタル庁は官民多様な人材で溢れています。同じ官でも、それぞれの出身省庁や自治体によって考え方やお作法が異なります。同じ民間といっても、ベンチャー出身もいれば外資や大手SIer出身もいる。これだけバックグラウンドが異なる人材が2021年9月1日にデジタル庁という一つの組織になってスタートしました。
新卒で先輩の背中を見て育つというメンバーシップ型雇用特有のカルチャーをもつ中央省庁を、価値観も仕事の進め方もまったく異なる多様な人材で立ち上げるわけです。当然、議論をしていても前提が揃わず噛み合わなかったり、そもそも論で折り合わないということが起こります。
その分かりやすい例が「スピーディ」の捉え方でした。「スピーディに行こう」という考えには全員が「いいね、いいね」と同意できます。
しかし、これを受けた具体的な行動について議論をすると、民間スタートアップの感覚を持つ職員は「完璧でなくていいから、まずプロダクトをリリースしてお客さんの反応を見ながらアジャイルで改善していこう」と考え、役所感覚を持つ職員は「100点でないものをリリースしてエラーやミスがあると手戻りが多く時間がかかるので、100点に仕上げて一発で出す方がスピーディだ」と考えることがわかりました。同じ「スピーディ」で合意しても、その後の行動が全く違うわけです。
デジタル庁のように多様な背景や考え方を持つ人材が一つ所に集まり、一つの目的に向かって進む必要がある組織においては、言葉のすり合わせを行い、何がデジタル庁らしいのか合意形成しないと、それぞれが違う方向に走ってしまったり、哲学・宗教論争が続いたりして、事業運営のスピードの妨げとなりかねません。
このために、デジタル庁としては目指すべきゴールとしての「ミッション」「ビジョン」、そして、迷ったときに判断する価値観・行動指針としての「バリュー」を定めることにしました。
デジタル庁発足後1か月の昨年10月1日にバリューが策定・発表され、その浸透に向けた取組みを本格化すべく、有志による40人程度のバリューアンバサダー制度を立ち上げました。
統括官クラスの役人幹部から自治体研修員や民間専門人材もいるー所属グループも役職もバックグラウンドも多種多様な人が有志で集まり、立場を超えてフラットに多様な目線で議論し、草の根的に行動していくことで、さらに周りに輪が広がっていくような取組を進めました。
例えば「ミッション」「ビジョン」「バリュー」(MVV)のポスターを作って庁内の会議室に貼ったり、職員の自己紹介リストをオンラインポータル上に作ったり、相互理解のための全職員向けの「MVVラジオ」の番組を開催したりしました(とても人気で今でも継続中)。MVVラジオでは、民間と行政官がそれぞれ「聞き慣れないことば」を教え合うという機会があり、それが面白かったのでちょっと紹介します。
例えば民間側は「ポキポキ(端的な文章でまとめたもの/え?ポキ丼?ハワイ?)」「デマケ(役割分担/え?デジタルマーケ?)」「レク(レクチャー/え?レクリエーション?楽しいの?)」「短冊(関係するところだけ切り出したもの/え?七夕?)」などの行政官言葉に困惑しており、逆に行政官側は「オンボーディング(え?オリエンや説明会と何が違うの?)」といったカタカナ言葉で盛り上がりました。
1年近く一緒にいても今でも使う言葉の違いが見つかるので、効果的な取組みとしてこうした会話は継続しています。
この他、所属グループ毎にランチ会を開いたり、様々な取組が自発的に進められ、結果、第二回組織サーベイでは、MVVに対する認知や理解がベンチマークとする国内民間組織の平均値を上回るスコアとなりました。
次は、どう行動・体現するかのフェーズです。組織サーベイでも「何をしたら体現していると言えるのかわからない」「やりたいけど考える時間がない」といった声が強く出ました。
行動・体現を促進する施策の一つとして、「MVVアワード」を創設しました。個人を表彰する4つのバリュー賞とM V P、そしてチームやプロジェクトを表彰する2つのビジョン賞について、All-Handsでどっきり表彰しました。
皆でMVVを最も体現した例として称賛することで、「この人みたいな動き方がバリューに沿っているのだな」というロールモデリング効果を期待しています。第二回組織サーベイでも「パフォーマンスへの称賛」は最も改善幅が大きかった項目でした。今後、表彰された個人やチームのインタビューをnoteで掲載予定ですので、お楽しみに!
また、人事評価にバリューを組み込み、上長からのフィードバックを通じてバリューに沿った行動を促す取組みも進めています。
まず、行政官については、各省共通の能力評価基準がありますが、この解釈運用をバリューに基づく行動を評価できる体系に変更しました。今まで評価制度そのものがなかった民間人材等についてもこのバリューによる評価(レビュー)を導入しています。
その際、プロジェクト制からくる難しさ(前述)を踏まえ、本人が所属している複数のプロジェクトそれぞれのメンバーの声を聴いた上で、人材マネジメント上の上長が本人にフィードバックできるよう360度レビューを官民含む全職員に導入する方針にしました。まずはこの夏に民間人材から開始し、今年度中にデジタル庁全ての職員を対象に実施予定です。
心理的安全性を確保し、協働しやすい環境を創る
前回ご説明したように、普通の行政組織では、人材は課室に貼りついているため、所属課室や上司は一意であり明確ですが、デジタル庁の場合、プロジェクトベースで兼務しているため、どの業務の上司がメインで自分を評価や労務管理してくれるのか不明瞭になってしまいがちでした。そのため、人材マネジメント上の上長・所属長を一意に決めることにしました。
縦割りを排除するためのプロジェクト制導入により、多くの人材がプロジェクトベースで縦横無尽にフラットにつながる状況が生み出せたものの、階層構造・ヒエラルキーが見えなくなり職員が孤独感を感じるという弊害も生まれてしまっていました。
一人の人間がマネージできる範囲は限られていることを前提に、縦の人材マネジメントラインを一意に定め、階層構造を作ることが重要だと再認識させられました。
その上で、上司と部下が1対1で対話を行う「1on1」を原則、月に1回、全職員について実施することとしました。
マトリクス組織においては人材マネジメント上の上司が必ずしも当該職員の担当しているすべてのプロジェクトの上司でないため、何をしているか、何に困っているか全てを把握していないことがよくあります。このため、上長が対話により職員の状況を把握し解決に動くことが通常の組織より重要になります。
管理職の中には「忙しくて時間がない」と言う方もいらっしゃいますが、そういう方にこそ、おススメです。私たち自身、実践してみて、通常の組織においても円滑なコミュニケーション、信頼関係の構築、高いパフォーマンスの実現に相当効果があると確信しています。こうして、一人ひとりと上長が向き合うことで安心感と信頼関係を作っていきました。
もう一つ、官民セットで動く「バディ制」を試験的に導入しました。民間人材からしたら、行政のお作法や動き方、関係者の巻き込み方がわからず、行政官に推進してもらったり、その方法を学んだりする必要があります。
行政官からしたら、システム開発をしたり民間的手法でプロジェクトを進めようとする場合、民間人材の力を借り、またそのやり方を学ぶ必要があります。
官民の混成チームで実際に動いてみて、どちらが責任者・意思決定権者というより、相互で補い合う仕組みや関係構築こそが重要と痛感しました。まずは、トライアルということで、リーダークラスにバディ制を一部導入しました。
実際、このnoteを書いている唐澤・津脇自身も、民間と役人のバディとしてセットで動き、民間の感覚と役所の感覚とを掛け合わせて、デジタル庁ならではといえる施策をチームメンバーのみんなと共に推進してきました。
第二回組織サーベイでは、国内民間組織の平均値と比べ、成果最大化のため各グループ/チーム内において協調しながら働けているという結果が出ました。
しかし、まだまだ不十分であり、取組みの実施状況にもチームによってムラがあると認識しています。また、今後はグループやチームを超えた協働に向けたアクションを強化していく必要があると思っています。
※続き(第4回)は以下のリンクをご覧ください。
◆シリーズ「デジタル庁組織改革の歩み」(全4回)は以下のリンクをご覧ください。
◆デジタル庁の中途採用に関する情報は以下のリンクをご覧ください。
◆これまでの「デジタル庁の組織文化」の記事は以下のリンクをご覧ください。