デジタル庁にこそ、バリューが必要な理由【策定プロセス前編】
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デジタル庁にこそ、バリューが必要な理由【策定プロセス前編】

デジタル庁で人事・組織開発を担当しています、唐澤です。私は非常勤での民間人材の一人として、2021年7月1日からデジタル庁の立ち上げにおける組織づくりに携わらせていただいています。

組織づくりというとやることは盛り沢山ですが、その中でも特に、デジタル庁の組織の中核となるミッション・ビジョン・バリューの策定に注力してきました。
9月1日のデジタル庁のスタートと同時にミッション・ビジョンを発表、そして今日10月1日にはバリューを発表するに至りました。

このnoteでは、デジタル庁で働く職員が共通して信じる価値観や判断基準となるバリューについて、その策定プロセスをオープンに共有するとともに、どういった議論を経てバリューができあがったのか、その経緯や背景についてお伝えできればと思います。

デジタル庁で私が働くに至った経緯や私のこれまでの経歴などについてはこちらご参考ください。


そもそも、ミッション・ビジョン・バリューとは何か?

民間企業ではミッション・ビジョン・バリューのほかに、「経営理念」だったり「社是」「社訓」「パーパス」「フィロソフィー」「クレド」「ウェイ」など、様々な形態で存在しています。
いずれの表現であれ、組織としての目指す世界観や、大切にする価値観といったものを、組織内で言語化して共有化するために用いられます。

デジタル庁では、このように定義をしています。

ミッション:デジタル庁は、誰の何のために存在するのか
ビジョン: デジタル庁が目指す、組織としてのあるべき姿とは何か
バリュー: 職員はどのような価値観を持ち、日々どのように行動すべきか

ミッション・ビジョン・バリューの定義は、組織によって異なるため、必ずしも上記が正解というわけではありません。また、ミッションではなくビジョンの方を上位概念に置くケースもあったりして、本当に千差万別です。
(ミッション・ビジョンの整理や、バリューを中心とした組織づくりについては、拙著『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』をよかったらご参考ください)

いずれにせよ、ミッションとは組織が社会のために果たすべき役割・使命や存在意義としてのWHYであり、ビジョンは目指したいあるべき姿としてのWHAT、そしてバリューはそれをメンバーがどう実現するかのHOWだと言えます。

ミッション、ビジョン、バリューの関係性を示すピラミッド構造の図。一番下にバリュー、その上にビジョン、さらに一番上にミッションが配置されている。

(それぞれの説明文は、ピーター・ドラッカー提唱のミッション・ビジョン・バリューを元に筆者が加筆して作成)

ここで、少し身近に感じてもらうため、これを「グループでの山登り」にたとえてみます。

ミッションとは、「最高の景色を見たい」といった山登りの目的です。対してビジョンは、その目的を達成するためのあるべき状態の定義として、「朝の5時に富士山の頂上に到達してご来光を見る」といったものになります。

では、バリューはというと、山の登り方の方針のことです。たとえば、「迂回路を通って緩やかに登りたい」というグループもいれば、「断崖絶壁を這い上がってでも最短距離で登りたい」というグループもいますよね。この登り方の方針を決めることがバリューを決めることだと言えます。

山の登り方には、正解も不正解もありません。
バリューとは、ミッション・ビジョンを実現する上で「こういう登り方が自分たちは好きだ」「僕らにとってはこの登り方の方がビジョンを実現しやすい」という価値観であり、好みの方を選択すれば良いのです。

この価値観がそもそも擦り合ってないと、「その登り方はリスクがある」とか、「それじゃ時間に到達するかギリギリだ」など、正解のない議論が延々と続いてしまい、結局時間までに頂上に到達できないということが起こってしまいます。

組織においても、前提の考え方が揃っていないと、正解のない哲学論争をいつまでも続けてしまって、本来するべき事業の中身の議論ができなくなり、組織のスピード感を失ってしまいます。
そうならないためにも、バリューを言語化し、全員で前提としての価値観や行動指針を揃え、組織を一枚岩にしていくのです。

そして、このバリューが組織の中心となって、人事評価や採用、人材育成、福利厚生の設計など、様々な組織づくりの営みと連動しながら、メンバーの日々の言動や行動が積み重なって組織カルチャーを形成していきます

山の尾根を登っていく登山者たちの様子。遠景に山々が連なる。

Pexelsより)

デジタル庁のミッション・ビジョン・バリューとは?

デジタル庁では、目指すゴールとしてのミッション・ビジョンを以下の通りに定めました。(デジタル庁ホームページより)

■ミッション
「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を。」
一人ひとりの多様な幸せを実現するデジタル社会を目指し、世界に誇れる日本の未来を創造します。

■ビジョン
「Government as a Service」
国、地方公共団体、民間事業者、その他あらゆる関係者を巻き込みながら有機的に連携し、ユーザーの体験価値を最大化するサービスを提供します。
「Government as a Startup」
高い志を抱く官民の人材が、互いの信頼のもと協働し、多くの挑戦から学ぶことで、大胆かつスピーディーに社会全体のデジタル改革を主導します。

ミッションとビジョンは、閣議決定された発表済みの「デジタル社会の実現に向けた重点計画」をもとに、職員との議論を重ねて最終化しました。

そして、デジタル庁がこのミッション・ビジョンを実現していくにあたって欠かせないのが、バリューです。

■バリュー
「この国に暮らす一人ひとりのために」
私たちは、この国とともに歩む人々の利益を何よりも優先し、高い倫理観を持ってユーザー中心のサービスを提供します。声なき声にも耳を傾け、一人ひとりに寄り添うことで、誰もがデジタルの恩恵を受ける社会をつくります。

「常に目的を問い」
私たちは、前提や慣習を前向きに疑い、世界に誇れる日本を目指し、新しい手法や概念を積極的に取り入れます。常に目的を問いかけ、「やめること」を決める勇気を持ち、生産性高く仕事に取り組みます。

「あらゆる立場を超えて」
私たちは、多様性を尊重し、相手に共感し、学び合い補い合うことによって、チームとして協力して取り組みます。また、相互の信頼に基づいて情報の透明性が高い、オープンで風通しのよい環境をもとに、自律して行動します。

「成果への挑戦を続けます」
私たちは、過度な完璧さを求めず、スピーディーに実行し、フィードバックを得ることで組織として成長します。数多くの挑戦と失敗からの学びこそがユーザーへの提供価値を最大化すると信じ、先駆者として学びを社会へと還元しながら、成果への挑戦を続けます。

これら4つのバリューを職員全員が大切にする価値観として日々の行動や言動として積み重ね、組織カルチャーを構築してゆきます。

机の上でチームメンバー全員が手を重ね、団結を示している様子。

Pexelsより)

伝統的な日本の組織では、バリューの必要性は高くない

民間企業においても「バリュー」や「行動指針」などを掲げている企業は多くあります。しかし、それが浸透し、意思決定の際の判断基準となり、行動指針として日々の行動や言動に落とし込まれているかというと、必ずしもそうではありません。
では、行動や言動がバラバラで組織が統制取れずに崩壊しているかというと、そんなことはなく、多くの企業は一定の方向に向かって推進し成果を挙げています。

これについては、日本企業では新卒採用が中心となっていることが理由として挙げられます。
新卒で採用され、上司・先輩の行動や言動を見ながら、その会社らしい動き方を身につけてゆきます。そして、定期的な異動を繰り返しながら、組織全体として共通した「その会社らしさ」が共有化されてゆきます。
こうした組織としての凝集性の高さが日本企業の強み
と言えますし、ジョブローテーションによるゼネラリスト育成を重視した、いわゆる「メンバーシップ型」の雇用形態によって、こうしたことが可能となっています。

これは、従来の省庁においても同様です。国家公務員として新卒で入省・入庁し、2年ごとに異動しながらゼネラリストへと育ててゆきます。
そのため、省庁組織においては、バリューがなくても自然と価値観は共有化されて凝集性の高い組織ができあがっているのです。


デジタル庁にこそ、バリューが必要なわけ

では、デジタル庁はどうなのか?というと、この「メンバーシップ型の雇用形態を前提にしたゼネラリスト育成」という、日本的な組織づくりの根幹が成り立たない中での組織づくりに挑戦することになります。

それは、専門性の高い民間人材を組織内部に取り込んでいるからです。

彼らは(私もその一人ですが)、そもそも省庁らしい仕事の進め方を身につけていません。
省庁内で上司や先輩から脈々と受け継がれてきた考え方は、役人としては当然なので説明不要です。しかし、民間人材からすればその前提が共有できていないので、どう仕事を進めていいかわからない。

さらに、民間人材はゼネラリストとしてではなく、何かしらの専門性に特化したスペシャリストとして採用されています。
異動しながら組織に慣れていくという育成を前提にした省庁において、専門家に時間をかけてゼネラリストになるための育成をするわけにはいきません。ましてや、即戦力の専門家として採用しているわけですから、すぐに成果につながる動きが求められます。

こうした、官僚と民間という異なる前提を持った人材がフラットに同居する組織というのは、日本では恐らく初めてなんですね。
従来も民間人材の出向など少数が混ざることはあったと思いますが、デジタル庁では、約200人規模の民間人材と、約350人規模の役人出身とのセットで、これだけの割合で民間人材を受け入れたことはないと聞いています。

こうした、考え方の前提が異なる人材が混ざり合う組織運営の難易度はとても高いものになります。

「とりあえずリリースしてA/Bテストしながらブラッシュアップして進めましょうか!」
「いやいや、完璧なものに仕上げてからリリースしないと、結局手戻りが多くなって工数がかかるよ」
「うーん、何が完璧かなんてわからないんで、リリースして反応を見てしまった方が、最終的には早くないですかね?」
「そもそも、完璧でないものを国民に提供して何か問題を起こすわけにいかないから、仕上げ切ってからリリースしないと」

こんな感じの論争が延々と続いてしまうことになるわけです。

でもこれって、どれか一つの考えが正解というわけじゃないんですよね。
もっと言うと、「完璧」の定義とか、「とりあえずリリース」のレベル感とか、前提が結構ずれたまま話している可能性が高い。

こうしたずれは、これまで経験してきた背景の違いから起こります。

たとえば、ベンチャー企業で大胆に挑戦しながら、失敗を繰り返して、その中から学び、改善を繰り返しながら良いプロダクトを作ってきた方がいます。一方で、省庁において、法令という定められた基準がある中、国民からの大切な税金を使っているのだから、失敗なんて絶対できないと思ってきた方もいます。

どちらの立場の気持ちもよくわかるんですよね。そういう価値観の中で働き、育てられてきたのですから。
こうした異なる背景の人たちがたくさんいる組織がデジタル庁です。話が噛み合わないなんてことは起こって当然です。

そうした中では、判断基準を全員で揃え、同じ基準を持って職務に当たる必要があります。だからこそ、共通の価値観としてのバリューが欠かせないのです。

8人の男女が、お互いにぴったりと寄り添い一列に並んでいる様子。それぞれの腕を両隣の人の肩や背中に回している。

Pexelsより)

どんなバリューを作っていくか

共通の価値観としてのバリューを策定するにあたっては、細かいルールや規則で縛ってはいけないと考えました

ルールや規則を作って、細かい決めごとの中で確実に仕事をさせれば、失敗も起きにくいですし、組織運営する側としては安心です。

しかし、ルールや規則で縛ってしまうと創造性が失われます。一人ひとりが、何が最適なのかを自分で考え、自律して行動して成果を挙げていくには、自分で考え決められる余地が必要です。

一定の価値基準を揃えながらも、そこには解釈の余地があり、議論しながら最適解を探していく。そのためのバリューです。

ルールではない。自分で考え、適切な議論をするためのバリュー 。

前提を揃えた上で、それぞれの異なる強みを活かし合いながら、組織としてのパフォーマンスを最大化するためのバリュー。

そんなバリューを、職員全員で作っていこうというのが今回のチャレンジです。

後編では、デジタル庁で実際に行った策定プロセスと、そこでの議論の背景などを共有したいと思います。

(前編のおわりに宣伝させてください!)

なお、デジタル庁では、PMやエンジニアをはじめ、民間からの非常勤職員の募集を新たにスタートしました!
私と一緒にチームになって、人事・組織開発をリードするメンバーも募集しています。もしご興味が少しでもありましたら、ぜひ、お声がけください😀


ありがとうございます🙂
デジタル庁の公式アカウントです。私たちの大方針でもある「オープン・透明」をまっすぐに遂行すべく、いま取り組んでいるプロジェクトや法案の解説、想い、気付きなどを発信します。この発信文化があらゆる省庁や自治体に広がり、ひいては日本全体の「行政の透明化」に寄与すれば幸いです。