技術検証事業に関する取り組み:文章認識・不正利用防止技術の実証
こんにちは。デジタル庁・デジタル法制推進担当です。
この記事では、デジタル庁の「技術検証事業に関する取組」のうち、
の技術概要や検証技術のメリットなどを解説します。
我が国では、法令に基づき、文書閲覧時の立ち会いや公的機関の記録・調書の改ざんの有無に関する利用者からの問い合わせ、火薬やガスの取扱所での書類や環境の確認、船舶の環境や設備・保護具などの定期検査について、現地で人が目で見て、その結果を書類に記入するなどして点検・監視、判定することが義務付けられており、 効率面の課題などが指摘されています。
一方、近年では画像解析やデータ改ざん・流用防止、AI、オンライン会議システムなどの技術が進歩することで、文書などの改ざん・流用リスクを防止できる技術や、遠隔から現地環境や書類を読み取り、送信・記録できる技術が発展しています。
現在デジタル庁では、こうしたデジタル技術を活用して安全かつ効率的に遠隔で点検・監視・判定を代替できる可能性について、法規制を所管する他府省庁や民間事業者などと連携しながら技術検証に取り組んでいます。
具体的にどのような技術を用いて、どのような検証をしているのか。技術検証の概要やポイント、検証している技術のメリットや課題などについて、参加事業者の方たちによる解説を紹介します。
技術検証の概要について
株式会社テクノロジックアートによる技術検証の概要
北山氏:「公害紛争の処理手続等に関する規則」の第 64 条第 1 項及び第2項においては、閲覧申請をして公害等調整委員会の許可を得た当事者等が、また、「鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律」の第 39 条第 2 項ではだれでも 、申請によって記録や調書の閲覧ができることが定められています。
従来、公的機関の記録や調書を閲覧するには、公害等調整委員会などから許可を得た本人が指定の閲覧室に出向き、立会人の監視のもとで閲覧することとなっています。立会人は本人確認をし、複製や書き写しなど不正の有無を監視します。
このような立会人による監視を不要にし、閲覧者の利便性向上を図るために、オンライン上で文書を閲覧できることが求められています。しかし、電子文書の改ざん・流用などの不正リスクもあります。
今回は、申請者本人がPCやスマートフォンなど一般に普及しているデバイスで、どこからでも電子文書を閲覧できるのか、また、改ざん・流用の不正リスクを排除できるのかという点について、検証をおこないました。
まず、ウェブブラウザ対応のアプリケーションを開発しました。文書の形式をPDFに限定しましたが、技術的には他の形式の文書でも対応できます。
このアプリケーションでは、閲覧申請者本人かどうかの個人認証をして、覗き見などの第三者による不正な閲覧がないかをAIの顔認証技術を使って監視することで、不正に利用できないようにしています。
改ざん・流用防止にあたっては、文書ファイルの書き写しやコピー、印刷、ダウンロード、改ざんなどが一切できないことが重要です。
そこで、文書情報の真正性を確認し改ざん・流用防止のため構築した「文書管理システム」には「ブロックチェーン技術と、偽造できない鑑定・所有証明付きデジタルデータ「NFT」を活用しました。
なお、本人のデバイスを特定するために申請登録やログインする際に、一度限り発行される「ワンタイムパスコード」を送って判別するしくみも入れています。
一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会による技術検証の概要
田中氏:私たちも北山さまと同様の法令に取り組んでいます。
今回の検証は、公的機関の記録や調書の改ざんの有無について、利用者からの電話などによる問い合わせに文書保管機関が逐一対応していることを改善するためのものです。
文書を入手した時点でチェックできれば、問い合わせに対する業務負荷を減らすことができるのではと考え、スマートフォンからでも電子文書の改ざんの有無を確認できるアプリケーション「ドキュメントトラスト基盤」を構築しました。
私たちの取組では、原本の文書から生成されたトラストデータがドキュメントトラスト基盤内に構成したブロックチェーンの「分散型台帳 」[※]に保存・記録・管理されているので、万が一原本を改ざんされたとしても検知可能なしくみです。
具体的なしくみとしては、電子文書に記録された特定のファイルを識別するための値である「ハッシュ値」が、閲覧者のデバイスからドキュメントトラスト基盤に送信されます。
ドキュメントトラスト基盤に記録されている正式なハッシュ値と合致すれば、改ざんされていない正しい文書であることがデバイスの画面に表示されます。
逆に電子文書が改ざんされていた場合は、デバイス側のハッシュ値がドキュメントトラスト基盤に保存された正式なものと異なるので、改ざんされたことがわかるしくみになっています。
技術的にはさまざまな形式の文書に対応できますが、今回は一般に広く普及しているPDFファイルを対象とし、改ざんを100%検知できるよう検証を重ねています。
アレドノ合同会社による技術検証の概要
小野寺氏:「火薬類取締法施行規則」の第44条の7第2項及び第44条の9第2項と「高圧ガス保安法」の第59条の35及び第62条では、火薬取扱所やガスプラットフォームなどで、有資格者による立入検査や現地検査が義務付けられています。
有資格者である検査官(専門官)が現地に出向いて、保管施設や設備、整備状況、品質表示の適切性、帳簿類などを検査し、保管施設の関係者へ質問もします。
文書を読み取る「書画カメラ」やオンライン会議システムを活用することにより、検査官が現地に行かなくても、オンラインで遠隔から同等の検査ができないかという検証をおこないました。
検証に使用した具体的な機材は、ビデオ会議専用機器(Cisco製デバイス)や、PC、Webカメラ、スマートフォン、タブレット、書画カメラなどです。通信は、携帯電話の電波である4G・LTE(Long Term Evolution)やWi-Fi通信を利用しています。
現地と遠隔地の検査官をつなぐしくみは、チャット機能を含む「Webex Meetings」ソフトウェアと、オンライン会議システム「Cisco Webex」のクラウドプラットフォームを連携させています。このプラットフォームは官公庁でも使用されている一般的なものです。
ビデオ会議専用機器とPCを使い保管施設の関係者へ質問をして、専用の書画カメラで写した高精細な画像で書類の内容を確認しながら、コミュニケーションをとることができます。
また、保管庫や施設の安全基準は、現地の関係者がスマートフォンを持って移動しながら、遠隔地の検査官が指示する箇所をカメラ機能で写して確認できます。
これらの手順で、立入検査や現地検査などがリモートで実施可能であるかを検証し、効率化・省人化に有効かどうかを精査しました。
株式会社フツパーによる技術検証の概要
大西氏:「船員法施行規則」の第3条の9及び「船員労働安全衛生規則」の第45条では、船長や船舶所有者は、船舶設備や船内にある保護具などの定期点検が義務付けられています。
私たちは、これらの点検・整備作業を、カメラやセンサー、AI解析などの技術を用いて、自動化や効率化が可能かを検証しました。
今回の検証は、日本国内の貨物輸送に使用する「内航船」が対象ということで、コンテナ船や旅客船などを想定しました。
定期点検は、自主的におこなうものも含め、船長が実施する項目と、船員が実施する項目とがあります。
具体的には、月一回以上の頻度で、救命設備や保護具、救命艇などの常備状況の確認や、非常の際に脱出するための通路や昇降設備、出入口などの点検・整備作業を、デジタル技術を導入して点検しました。
点検・整備作業は、人が目視で確認する項目が多いため、カメラ機能を中心に開発したシステムになっています。
救命胴衣や保護具などの点検は、カメラ映像から傷や損傷がないかを「画像認識AI」で判別します。また、製造番号・年度などは、情報タグ(RFIDおよびBeacon)に事前登録された数値を「光学センサー」で読み取りました。
固定のカメラでは見えない死角や、全容を把握する必要がある場合は、レーザーの反射光から高精度に距離を計測する「LiDAR (ライダー、Light Detection And Ranging)」や、超音波センサー類を併用して確認する検証もしました。
このように、カメラ、センサーを活用してデジタル化することで、将来的には「AIが問題の可能性ありと判定したところ」だけを人が確認することや完全に自動化することで、省人化や働き方改革にもつながります。
検証している技術のメリットや課題とアナログ規制見直しの効果について
北山氏:私たちの取組をあらためてまとめると、ウェブブラウザ上のアプリケーションとブロックチェーンおよびNFTを合わせ、文書管理システムとして構築しました。
ブロックチェーンには、比較的高速に処理でき参加者を限定できる「プライベートブロックチェーン」のシステムを利用します。
NFTは、閲覧者が申請した文書を閲覧するための“許可証”の役割を担います。今回の検証でたとえると、「閲覧者が許可された該当文書かどうか、今日が閲覧許可の期間内か」など、立会人が閲覧前におこなう作業を代替しています。
改ざん・流用防止のしくみとしては、文書閲覧の申請許可が下りたとき、文書管理システムに保管されている文書ファイルのNFTに許可された閲覧者が記録され、閲覧者のデバイスのみに表示することが許可されます。
閲覧されるとNFTの所有者は文書管理システムに変更されます。すなわち、NFTを、文書管理システムと許可を受けた本人のデバイス間でやりとりすることで、真正性や唯一性を確立しようという試みです。
現段階では、本人認証や閲覧許可された文書の認証、改ざん・流用の検知、不正防止など、多くのテーマはクリアできました。アプリケーションで表示している文書のコピーや印刷、ダウンロードはできないように制限しています。
画面を第三者が覗き込んでいることをAIが検知したら、画面を消して文書が閲覧できないようにブロックする対策を講じました。
この技術を導入することで、閲覧者が閲覧室に出向く手間と費用をなくして利便性を向上させる、また、立会人が閲覧を監視する必要をなくし省人化を図るといったメリットがあります。
一方で課題もあります。たとえば、有線もしくは無線を用いて別のモニターに画面を表示されてしまうと第三者の閲覧が可能です。
また、閲覧者が筆記用具で書き写す行為を防止するには、360度カメラなどの周囲に死角がないことを確認する機器を用いるなどの検証が必要だと考えています。
閲覧環境の多様化を考えると、現時点のデジタル技術をもってしても、立会人の代わりに不正を完全に防止する技術は見つからないことが課題です。
取組を進める上で、本システムを事業化する際のビジネスモデルやマネタイズにも課題を感じています。今回検証した文書閲覧の件数はそれほど多くないので、他の省庁や自治体への横展開や、同様のニーズを持つ企業がどの程度あるかの市場調査も必要だと感じています。
田中氏:今回検証したドキュメントトラスト基盤は、4つの手順で技術検証を実施しました。
1段階目は、PCで電子文書に改ざんができない「ブロックチェーン※1」技術を活用し、作業履歴を記録する「トランザクション・データ」の中に管理組織名(発行元)、発行場所、発行日時、有効期限などを記述します。
2段階目は、改ざん有無判定の技術検証のために、インターネットを利用して、任意の情報デバイス(PC、タブレット、スマートフォン等)で閲覧した情報から改ざん文書を作成します。
3段階目は、一般に普及しているPCやスマートフォンを使って電子文書の改ざんの有無を判定します。
4段階目は、ドキュメントトラスト基盤にトランザクション・データとして登録されている管理組織名などの情報を、「トラスト検証アプリ」が照合し電子文書の改ざん判定結果を表示します。
公文書などの場合、それが正しいものかどうかという電話などでの問い合わせに対して、役所の人が対応しているケースがあります。また、問い合わせる側にとっても電話がなかなかつながらないなどの不満を持たれることもあるようです。
今回のシステムを活用して、閲覧者自身がシステムの自動判定で改ざんの有無を確認できるようになれば利便性が上がり、問い合わせや照合にかかる人件費の削減など、社会的にメリットがあると考えています。
利用者はブロックチェーン技術を意識する必要は全くありません。トラスト検証アプリは身近なスマートフォンで閲覧できるように開発したもので、使い方もとても簡単です。
文書管理システムは一般的に、国や自治体、一般企業ごとで別のしくみのものが利用されていると思います。それぞれの文書管理システムと検証しているドキュメントトラスト基盤をつなぐことで、改ざん防止の社会インフラにもなり得ると考えています。
課題としては、一般企業や組織が契約書や証明書などに、ドキュメントトラスト基盤を利用し事業化する場合、資金調達や利用料金の徴収方法など、マネタイズやビジネスモデルを確立する必要性があると感じています。
また、別の側面として、デジタル化の過渡期にはデジタルと紙の文書の併用が想定されるので、紙の文書についても同様の安全性が求められるでしょう。
紙に印刷された文書の場合は、特殊なIDコードを紙面に印刷することで、デジタルと紙が併用できるようになると考えています。IDコード入りの文書を、スキャナーでスキャンする、あるいはスマートフォンのカメラで撮影して、紙文書の改ざんの有無を検知できるしくみも検討しています。
小野寺氏:ビデオ会議専用機器や書画カメラなどを活用し、対面と同様に遠隔地間でも正常にコミュニケーションできることは、双方にとってメリットがあります。
ビデオ会議専用機器を活用した理由は、だれにでも簡単に遠隔地と接続できるからです。一般的なビデオ会議システムは、会議のスケジュールや利用コード、ログインパスワードなどの煩雑な設定が必要なケースが多いです。
その点、今回使用した機器は、電源を入れて予定のボタンを押すだけで、簡単にオンラインでつなぐことができます。
また、PCや書画カメラ、スマートフォンなどを接続できることも利点のひとつです。たとえば、会議室では書類を書画カメラ、保管施設にはスマートフォンと、Web会議の機能の使い分けができることもメリットとなります。
さらに、現地に機器がない場合に備え、アタッシュケースほどの大きさにまとめて持ち運びできる可搬性の高さも大切です。
今後の可能性として、オンラインでの検査内容を映像でアーカイブ化する、また書類を光学文字認識装置「OCR(Optical Character Reader)」でテキスト化する、音声を文字起こしして記録するといった展開ができると考えています。
映像や書類の画像、音声など検査データのデジタル保存が可能になれば、二次利用などのメリットにつながると考えています。
検査のプロセスは変わらないため、デジタル化により効率が上がることはないかもしれません。しかし、検査全体で見れば、移動時間の短縮やコストの削減といった効率化がはかれることが最大のメリットだと感じています。
移動の時間がなくなれば、少人数の検査官で複数拠点を検査するなど、1日に検査できる件数を増やすことが可能になり、人材不足の解消にも寄与できると考えています。
課題となりうる点を挙げるとすれば、危険物を保管する施設は市街地から離れた場所が多いため、4Gなどの携帯電話の電波が入りづらいケースが考えられます。通信環境の確保については事前の確認が必要になります。
携帯電話の電波がない場合も想定して回避策を用意しています。施設の状況を、スマートフォンで動画として撮影しておき、Wi-Fiがある事業所で動画を検査官に送り、それを見ながらやりとりする方法を今回の検証で試しています。
大西氏:船舶設備・保護具などの定期点検が、カメラやセンサー、AI解析などによって自動化されれば、省力化のメリットは大きいと考えます。
一般的に画像認識AIは、対象とする項目をその都度学習する必要があります。その点、私たちの独自技術を活用した汎用的に検出可能なAIの基盤モデルや光学センサーを用いることで、船舶の定期点検をデジタル化できる可能性があります。
ただ、船舶のサイズにより環境はさまざまで、かつ、場所によっては影になることもあります。また、船の揺れや照明の都合で、製造番号・年度などが隠れてカメラやセンサーで読み取れないなどの懸念もあります。
カメラやセンサー類はなるべく常設しほぼ自動で常時点検ができて、現在よりも明らかに手間が減るシステムにする必要があると感じています。
もうひとつの課題は、通信環境が必ずしも良くないことです。海上を航行中でも点検することが想定されるので、クラウド上で全てを処理する設計にはできませんでした。
そのため、通信が途切れた場合を想定して、船舶に搭載したデータ処理装置「エッジデバイス」で、画像保存やテキスト化などの作業を処理して、記録できるように設計しました。
また、エッジデバイスに保存したデータや処理しきれない作業については、帰港時や通信環境が復帰した時点でクラウドサーバに送信して記録の保管や後処理ができるように、二重のしくみを導入しています。
あとは環境対策にも工夫が必要でした。機器やカメラは潮風にさらされないよう、海水や雨風に対する塩害対策や、船の強い揺れに耐えうる堅牢性にも留意しています。
文章認識・不正利用防止技術の広がりについて
北山氏:公的な文書や記録は、閲覧を許可された人であれば、全国どこからでも簡単に閲覧できるべきものです。
しかし、同時に不正や悪用を防ぐ必要があります。そこで、私たちが着目したNFTとブロックチェーン技術が鍵となってくるのです。
仮想通貨で知られるNFTが登場し、アートや著作物などデジタルコンテンツごとに、唯一無二の所有者の情報を付加できるようになり、デジタル作品とその所有に価値を持たせることができるようになりました。
このNFTを応用すれば、「だれが」「どの文書を」「いつからいつまで」閲覧できるのかなどの情報を付加することで、許可された個人のデバイスだけに許可された文書を表示できるため、不正や悪用の防止につながります。
田中氏:日々進化している技術を鑑みると、文書が改ざんされることを完全に防ぐのは難しいため、ブロックチェーンを活用し、文書のトラストデータを分散型台帳に記録することで、改ざんが発生したときに、「改変がある」ということを判定する技術の重要性は増してきています。
小野寺氏:立ち入り検査のデジタルによる遠隔化も、検査データをいかに安全に、改ざんできない状態で保存し運用していくかということが非常に重要で、今後の課題になってくると思います。
ただ、この検証を踏まえた上で率直な感想を言えば、まだアナログ作業のプロセスを「デジタル技術を使ってどのように効率化し、自動化を追求していくか」を探っている段階だと感じています。
法律を改正するのは時間と労力がかかります。そのため、デジタル化に移行しやすいように業務プロセスそのものを時代に合わせて変えていくという検討も重要です。
大西氏:私たちの取り組んだ点検内容も、まだほとんどが目視などのアナログ手法だったので、取得した画像・映像などの情報をデジタルに置き換えることから始める必要性を感じました。
デジタル化の次のプロセスとしては、人による認識から判断までを自動化することです。そこまで進めば、報告書などのデータの改ざん・流用防止が重要視されていくと思います。
田中氏:私が一番気にしているのは、報告された内容がその後に改ざんされるリスクです。たとえば監査などで、改ざん後の報告に関して対応することは難しいです。
大西氏:人が入力する場合は、意図的でなくとも間違えたデータを入れてしまうこともあります。映像であればそのまま残すこともできますが、文書の場合は難しいです。こういった場合には、データ入力時と修正時の履歴を残し更新できたほうがいいと思います。
小野寺氏:映像自体の改ざんでいうと、たとえばウェブ会議システムでも、フィルターを使って加工可能です。カメラから送るデータでも、肌ツヤを良くして目を大きくするなど、自分の顔を変えることができるわけです。
北山氏:顔認証にも関係しますが、今のカメラでは自分のことを簡単に“盛れ”ます。そのため、受け取ったデータを“正しいもの”として捉えるしかないと思います。その分、デジタル技術で守るというのが基本だと思います。
小野寺氏:何が改ざんに当たるのかということが焦点になってきましたね。その点、今回の取組では申請書類をその場で確認できるように書画カメラなどを使い、現場で写し込んでいるものについては、装置のシリアルナンバーなどを確認します。「改ざんする・しない」よりは、データ管理の運用のしくみを整えないといけないのかなと思います。
田中氏:正しい文書を発行するプロセスと改ざん・流用を防止するしくみを確立して、作成する時点で不正がないか監視し抑止するという意識付けも重要ですね。
課題は、発行元の信頼性を担保することです。その点でデジタル庁は、法人・個人事業主向け共通認証システムとして「GビズID」の提供を開始しました。ひとつのID・パスワードで、複数の行政サービスにログインして利用できるので利便性が高いです。
このように政府が提供するシステムを活用しながら、文書の発行と閲覧する意識付けも含めて、デジタル文書の真正性を高める検討をすることが良いのではないかと感じています。
文章認識・不正利用防止技術とAI技術の組み合わせについて
大西氏:船舶設備・保護具などに有効期限が記載されている場合、OCR機器で写すことで、有効期限の文字を判別し自動的に記録することができます。
この記録された文字の解析にAI技術を取り入れたものが「AI-OCR」です。画像内のどこに、どんな情報が書かれているかを判別して、項目ごとにテキスト化して保存します。
最近は、AIによって手書き文字なども高い精度で判別することができるようになっています。ある程度のあいまいさを許容して読み取ってくれるところは人に近いと感じます。
また、AIが読み取れないところがあれば、人がそこだけ目視で確認する協働作業によって効率化が図れると思います。
北山氏:文書でのAI活用については、正常なパターンと同様、異常なパターンを認識し判別させることもできると思います。
田中氏:異常なパターンを隠すようなAIを使えば、異常検知報告の改ざんがわからなくなってしまう可能性もありますね。こういったいたちごっこが続かないように、自動判定技術を高めながら、さまざまなケースに対応できるよう進化させないといけないと考えています。
小野寺氏:リモートコミュニケーションの分野でもAIの活用は進んでいます。
たとえば、通信環境が良くない、通信の帯域幅が充分に確保できないなどの環境では、映像や音声が途切れるなどの「パケットロス」が起こります。
こういった現象に対して、AIが過去の情報とそれをもとに学習した情報を用いて、映像や音声の途切れを補完することで自然なやりとりができる技術が研究されています。
また、映像や音声データをAIによってなるべく少ないデータ容量で通信するために、送信時にデータを圧縮や変換し受信時に復号する技術「コーデック」の研究も進められていて、現在の16分の1ぐらいまで圧縮できる可能性があります。
つまり、AI技術によって、非常に少ない帯域で、音声も映像も送れて、かつ、パケットロスによる映像の乱れを補正してくれるのです。
大西氏:金融業界の活用例ですと、クレジットカード決済で、普段は少額決済が多いユーザーが突然高額な決済をするなど、統計的に見て普段と異なる買い方を検知するアラートを通知し、場合により決済をブロックするといったことを、AIが判断するケースが増えています。
先ほどの話にもあった、「入力された情報の確からしさ」を見るというポイントとまさに近い技術だと思っています。
監査法人も、不正の記録がないかなどの一次チェックにAIを使うなど、活用分野は広がっていて、AI技術の精度や進化はすごい勢いで進んでいます。
北山氏:クレジットカード決済の場合、サインの読み取りにも関係すると思います。
サインの原本をいかに正確に保存するか、またサインは少しずつ変化していくものですので、どれだけサンプルとして取っていけるかにかかってくると思います。
保存されたサインのサンプルが“正しいもの”なら、ブロックチェーンの値の中に画像自体を入れてしまうということもできると思います。
大西氏:AIとブロックチェーンの連携は、最終的に行きつく技術手法だと思います。ただ信頼性の担保という点では課題があると思っています。
たとえば、生体認証を取って、サービスにアクセスした時間や利用内容を全て残して、その履歴が後から書き換えられてないかを確認するといった一連のプロセスを突き詰めていくと手間がより増えるため、解決しないといけない課題だと思います。
デジタル化は省人化につながります。ただ、限りなく問題ないようなことに対して、いろいろな技術を盛り込むことで、逆に仕事が増えてしまう懸念を検討しなくてはならないですね。
田中氏:信頼性という点では、組織ぐるみで不正があるといった場合には、発見は本当に難しいです。発行元の信頼性というのをいかに担保するかということを考えていくべきですね。
文章認識・不正利用防止技術の展望、活用の見込みについて
大西氏:船舶の定期点検の現場では、船員の数が減っていると聞きました。しかし、安全点検業務は法律で義務付けられていて、怠ると事故につながります。
点検規則ができた当初は、おそらく紙で実施していたのだと思いますが、AI-OCRやセンサー、画像認識AIなどの技術で代替し自動化することで、安全性を維持できるようにしたいですね。自動化が進めば人による点検作業そのものがなくせるかもしれません。
小野寺氏:今後はAI技術の進歩もあって、4Kや8Kの高精細な映像や、没入感が高くなる「イマーシブオーディオ」のようなリアリティの高い音声技術が、オンラインコミュニケーションシステムに導入されていく可能性もあります。
たとえば、話者がしゃべったときに抑揚があるといった感情の表現も、AIがサポートして臨場感を盛り上げるといったことです。
このような、対面での対話により近づける技術が進歩していけば、遠隔からのオンライン会議システムや映像を駆使することで可能になる業務も格段に増えていくかもしれません。
北山氏:私がブロックチェーンに関わりはじめた10年くらい前より、ブロックチェーンを採用する企業が増えてきたものの、発展という意味では大きくは変わっていないと感じています。
しかし、社会生活で使う人は気づかないかもしれませんが、ブロックチェーンが活用される機会は少しずつ増えていくと思います。
とくに、医療分野で保険証が「マイナンバーカード」に変わっていくことで、カルテや服薬などの医療データや、統計値などの情報のやりとりは増えるでしょう。こういった場合は、ブロックチェーンのような堅牢なしくみが必要で、データの改ざん・流用を防止するニーズは早期に高まると予想しています。
また、会計事務所が会計監査をするときに、監査結果を保証するために、「会計システムの中には全部ブロックチェーンでデータを保護してください」といったことになるかもしれません。ブロックチェーンにデータとして入っていれば絶対に変更できないためです。
田中氏:いろいろなものが紙からデジタルに変わっていくでしょう。その際、改ざん防止などのリスクと対策を考えながら、文書管理システムを活用していくことが必要不可欠です。
また、紙とデジタルを併用する過渡期で、デジタル手法をもっていない人もいる、ということも注意が必要です。
対策のひとつとして、PDFなどのデジタルデータに限らず、紙文書の中に個人を判定するブロックチェーン情報を埋め込む方法が考えられます。発行側はカメラで撮って改ざん防止の有無を判定すれば、利用者はデジタルも紙も利用可能です。
これは一例ですが、だれも置いてきぼりにしないデジタル化へ移行する社会インフラが、将来的には重要だと思っています。
大西氏:日本は、少子高齢化が進み、生産年齢人口が今後減少していきます。また、「カーボンニュートラル」のような環境問題への意識はより高まると思います。そのため、紙での作業や、人が時間をかけてするような仕事がなくなっていくのは間違いないと考えています。
ただ、現場の方々は、今までのやり方を変えることに拒否感を覚えるかもしれません。そういった技術面以外の障壁をどう変えていくかが大事かと思います。
AIの活用という点では、「ChatGPT」に代表される言語や画像を大量に学習し利用者の問いに適切に答えてくれる「生成AI」モデルに、より一層カスタマイズを加えたアプリケーションの社会実装が進みます。
また、AIとロボットの組み合わせによる作業の自動化や最適化が、工場全体やサプライチェーン全体、そして社会全体へ波及すると考えています。
規制緩和との調和を取りながら、世の中全体に技術が受け入れられ、メリットが享受される社会の発展を期待したいと感じています。
参考資料・関連情報
検証対象となっている法令及び法令に基づく業務
一般社団法人 ビジネス機械・情報システム産業協会
株式会社テクノロジックアート
法令:公害紛争の処理手続等に関する規則第64条第1項等
法令に基づく業務:記録の閲覧(総務省)
概要:当事者は、中央委員会の許可を得て、あつせん、調停又は仲裁に係る事件の記録を閲覧することができる。
法令:鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律第39条第2項
法令に基づく業務:調書の閲覧(総務省)
概要:何人も、公害等調整委員会規則の定める手続に従い、調書を閲覧することができる。
アレドノ合同会社
法令:火薬類取締法施行規則第44条の7第2項及び第44条の9第2項、高圧ガス保安法第59条の35及び第62条
法令に基づく業務:現地検査、立入検査(経済産業省)
概要:経済産業大臣が行う保安検査・完成検査は、書類検査及び現地検査により行う。経済産業大臣は、法律を施行するため必要があると認めるときは、その業務に関し報告をさせ、事業所に立ち入り、帳簿、書類その他の物件を検査させることができる。また、経済産業大臣又は都道府県知事は、公共の安全の維持又は災害の発生の防止のため必要があると認めるときは、事務所、営業所、工場、事業場、高圧ガス若しくは容器の保管場所又は容器検査所に立ち入り、その者の帳簿書類その他必要な物件を検査させることができる。
株式会社フツパー
法令:船員法施行規則第3条の9及び船員労働安全衛生規則第45条
法令に基づく業務:点検・整備(国土交通省)
概要:船長は、非常の際に脱出する通路、昇降設備及び出入口並びに救命設備を少なくとも毎月一回点検し、かつ、整備しなければならないとされている。また、船舶所有者は、船員に使用させるべき保護具については、他の法令の規定により備える保護具を含めて、これを必要とする作業に同時に従事する人数と同数以上を船舶に備え、常時有効、かつ、清潔にこれを保持しなければならないとされている。
関連情報
・デジタル関係制度改革検討会 テクノロジーベースの規制改革推進委員会
・アナログ規制見直しの取組
・デジタル臨時行政調査会作業部会テクノロジーベースの規制改革推進委員会(廃止)
・テクノロジーマップ・技術カタログの取組
・技術検証事業に関する取組
参考資料
・テクノロジーベースの規制改革の検討経緯(2023年8月)(PDF/4,810KB)
◆これまでの「技術検証事業に関する取り組み」紹介記事は以下のリンクをご覧ください。
◆これまでの「デジタル庁Techブログ」の記事は以下のリンクをご覧ください。