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膨大な“行政文書”を確実に管理し、未来につなぐ。デジタル庁の文書管理プロジェクトの使命

デジタル庁の省庁業務サービスグループ(以下、省庁G)では、国の行政機関や地方自治体を対象とするITインフラやサービス提供(職員の業務環境、アプリケーション、システム基盤など)に関する業務を担い、行政機関の生産性向上や効率的なシステム整備への貢献を目指しています。

省庁Gには30を超えるプロジェクトがあり、新たな人材を募集しているチームがあります。その一つが「文書管理」プロジェクトチームです。

現在、デジタル庁では文書管理と電子決裁機能を備えたシステムを整備し、各府省庁にサービスを提供しています。また、デジタルを活用した確実かつ効率的な公文書等の管理を実現するという政府方針に基づき、公文書等の管理をデジタル化する(紙を使わずに保存や移管を行う)ため政府共通の新システムの整備も進めています。

今回のデジタル庁noteでは、こうした業務に関わる「文書管理」プロジェクトの山村真紀子(参事官補佐)にプロジェクトの概要や背景、仕事のやりがい、新たな人材の募集に際して求める人材像などを聞きました。

プロフィール:
省庁業務サービスグループ/参事官補佐
山村 真紀子

行政機関の文書管理を、より効率的かつ確実に。


インタビューに応じる山村のバストショット。オフィスで窓ガラスを背景に話をしている様子を、右斜め前から撮影している。
インタビューに応じる省庁業務サービスグループの山村

――はじめに、山村さんのこれまでのお仕事について教えてください。

山村:

もともとは民間のシステムエンジニア(SE)として、県庁や自治体などを対象とした公共向け業務アプリケーションの事業企画や開発・整備、利用される顧客の課題に応じたカスタマイズなどに17年ほど携わっていました。

仕事は面白く、SEとしてのスキルも一定程度は習得できましたが、条例や制度に則った機能をつくるだけのポジションではできることに限界 もあるため、行政業務の制度や仕組みから検討する側に関わってみたいと考えて、内閣府に転職し、公文書管理専門職を務めました。

その後、システムエンジニアや内閣府での経験が生かせると思い、行政の業務改革を推進する総務省行政管理局に入局しました。2021年9月にデジタル庁が発足すると、所属チームが丸ごとデジタル庁に移管され、現在に至ります。

――山村さんが現在携わっている「文書管理」プロジェクトは、どのような背景から生まれ、どのような役割を担っていますか。

山村:
2009年7月に「公文書等の管理に関する法律(以下、公文書管理法)」が公布され、行政文書を含む公文書等の管理方法が定められました。

公文書管理法は、国の行政文書等を適切に管理し、保存する制度です。「文書管理プロジェクト」は、制度で定められた各種管理簿や行政文書の実体などを適切かつ効率的に管理するため、政府共通のシステムを構築・運用しています。

かつては、おおむねの行政文書を紙媒体で保存していましたが、現在は行政機関では数多くの文書(行政文書)をパソコンで電子的に作成しています。また政府としても、作業の漏れや誤りの抑止には紙媒体よりも電子のほうが優れた点が多いことに加え、文書管理業務の処理を自動化して作業負担を軽減することを目指すことを目的に、文書管理業務全体を電子化することを推奨しています。

過去に、公文書に関してはその扱いについて問題となった事例も発生しています。これらの問題はシステムを改善するだけで解決するものではありませんが、例えば厳密な履歴の記録を設けたり、メタデータ(書誌情報)の付与により文書の所在を容易に把握できるようしたりするなど、システム機能の充足によって防げることがあれば、より適切な管理に近づいていくと思っています。

こういった背景により、ますます文書管理システムの重要性が高まっています。

「新文書管理システムが目指すもの」と書いている図表。図には「組織的検討を終えた文書は記録用領域に同期・保存。メタデータ(書誌情報)を用いて自動的に管理簿へ反映が行われ、文書は読取専用となる。」「メタデータ(書誌情報)による管理簿・文書の一体化かつ詳細な検索を実現することで、用意に文書の所在を把握することが可能となる。」「文書そのものと、管理簿情報を連携させることで、管理簿登録漏れや、保存期間満了や廃棄同意の前に廃棄する紛失・誤廃棄などがなくなる。」と記載している。
新文書管理システムが目指すもの

――行政文書の作成と管理は、行政機関においては欠くことができない業務です。どの現場でも使いやすいシステムを構築するために、どのような工夫をしていますか。

山村:
日々の業務の中で作成や修正がなされる行政文書はとても多く、また多種多様な業務に即した使われ方が想定されます。行政機関の組織規模もさまざまで、数百人規模のところもあれば数万人規模の官庁もあります。システムを使用する政府職員は全体で約45万人にのぼります。

これらの行政文書において、公文書管理法やガイドライン・各行政機関の文書管理規則等で定められたルールに基づいた適正な管理が行われ、かつ日々の業務の効率を下げないシステムであることがとても重要となります。 

当システムは2021年度から2022年度にかけてシステム更改を実施しましたが、その際には従来使われていたシステムをどのように使っていたかを各府省庁からヒアリングし、多様なニーズを汲んだ上でプロトタイプをつくり、各行政機関にも複数回にわたってフィードバックを求め、構築していきました。

また、UI/UX開発にも力をいれました。ISO(国際標準化機構)が定める国際基準に通じた専門家に参画いただき、利用する政府職員に寄り添った「人間中心」の設計で開発を進めました。

例えば、従来のシステム上で何らかの決裁を得たい場合は、承認者や決裁者を一覧で表示していましたが、人数が多い場合や並列で行いたい場合、決裁者と閲覧者が混在する場合などは視覚的に分かりにくいという欠点がありました。

そこで新システムでは、決裁ルートを図で表示。ルートを視覚的に分かりやすくすると共に、名前と名前の間を押すだけで承認者を追加できるなど、直感的に操作できるUIに改良しました。

民間で鍛えたスキルやマインドを生かせる場、それがデジタル庁

インタビューに応じる山村のバストショット。オフィスで壁を背景に話をしている様子を、左斜め前から撮影している。

――プロジェクトに携わってきた中で、特に印象に残っている出来事はありますか。

山村:
最大の窮地に陥ったのは、従来のシステムから新システムへのデータ移行時ですね。多くの行政文書が格納されているため、データ容量が非常に多く、古いクラウドから新しいクラウドへ移す作業に膨大な時間と手間がかかりました。

ネットワークでのデータ送信で、試算の10分の1ほどしか速度が出ず……。状況を解決しようにも、そもそもの関係者が多く、どこに問題があるかが一概にはわかりませんでした。

ネットワークやプラットフォーム、システム開発事業者といった多くの関係者と連携しながら、「ここまでは順調にデータが動いているけれど、ここで詰まっている?」などと原因を探していくのが大変でした。

とはいっても、データの移行が完了しなければ、せっかくのシステムが使えるようにはなりません。本来は夜間のみで取り組む予定でしたが、現場業務に影響が出ない範囲で日中や休日もネットワークを使わせてもらい、毎日状況をモニタリングしながら完遂することができました。終わらせることができたときは、達成感よりも安堵感が大きかったですね。

――開発する側も利用する側も、それぞれステークホルダーが多いですが、円滑にプロジェクトを進めていくため心がけていることはありますか。

山村:
基本的なことかもしれませんが、プロジェクトメンバーと日々の情報共有を細やかにすることですね。特にデジタル庁ではリモート勤務のメンバーも多いですし、そのぶん直接顔を合わせたときには他愛ない話でも積極的に交わすようにしています。

プロジェクト外の職員とのコミュニケーションも、困ったときだけ相談するのではなく、話す機会があれば近況報告などちょっとしたコミュニケーションで関係性をつくっておくことが大切だなと実感しています。

インタビューに応じる山村のバストショット。オフィスで窓ガラスを背景に話をしている様子を、右斜め前から撮影している。

――文書管理プロジェクトをはじめ、省庁Gでは府省庁や地方自治体を対象とするITインフラやサービス提供に関する業務を担っています。現在、新たに人材を募集していますが、どのような方が活躍できるでしょうか。

山村:
デジタル庁には多様なバックグラウンドや得意分野を持った人たちが集まっているため、周りと連携する力がとても重要になります。

ただ、今回募集している職種に関しては必須スキルを設定していますが、業務自体はそこまで特殊な内容ではありません。

現状をきちんと理解して、自分がやるべきタスクを言語化し、他者とのコミュニケーションを丁寧に交わすことができ、能動的に動ける方なら、きっと活躍できると思います。

民間の現場で鍛えた感覚やスキルを活かせる場面は日々の業務でもたくさんあると思います。例えば先日の新システムへの移行にあたっては、第一期政府共通プラットフォームから第二期政府共通プラットフォームへのクラウドシフトがありましたが、新しいクラウド上での運用等も鑑みて最適なかたちで稼働できるよう、民間出身で専門知識を持つメンバーが、適切なサービス選択の提案をしてくれたり、稼働後の状況を見つつ改善提案をしてくれたりしています。

技術はつねに進歩していますし、知識やクラウドの活用経験を持った方にデジタル庁に参画していただけると、より良い形を模索していけると思います。ぜひ、さまざまなスキルや知識を持った方に入庁していただけると嬉しいです。

もちろん行政機関の具体的な業務をご存じであれば仕事を進めやすいと思いますが、そこはマストではありません。チーム内にいる行政官がカバーできる部分でもあるため、学ぶ姿勢さえ持っていれば行政での勤務経験は不問です。

民間では、サービス提供にあたり顧客ターゲットを定めて、利益をより大きくするという考え方があるかと思いますが、行政機関では全国民に向けた360度のサービスを提供する責務があります。このように、仕事をする上では民間とは異なる価値観もありますが、行政機関という立場から全国民の幸福を追求する視点で仕事をすることには、学びも多いと思います。

100年後の国民に向けて“記録”を残すために。デジタル庁では新たな人材を募集。

インタビューに応じる山村のバストショット。オフィスで壁を背景に話をしている様子を、左斜め前から撮影している。

――民間企業と行政機関の両方での仕事を経験している山村さんですが、ご自身はどのような点に行政機関で働くことの醍醐味を感じますか。

山村:
規模が大きなプロジェクトに携われることは、システムエンジニアだったときにはなかった醍醐味を感じます。

文書管理のシステムでは、扱うデータ量だけでも数百テラバイトもあるため、自分にとっては未知の領域でした。民間で働いていた頃には経験したことがない規模であり、大きな緊張感も伴います。利用する政府職員も幅広いため、同じ機能に対してまったく異なる要望が寄せられたりもします。

そんな「絶対的な答え」がない世界ではありますが、全体を見渡し、まとめていくことには楽しさも感じます。どんな政府職員でも便利に使えるシステムやルールづくりに携わる仕事は、まさに入庁前にやりたいと考えていたことです。

システム開発だけで実現できる世界は局所的であり、運用とシステム開発の両輪に関われるデジタル庁での業務は、一人の国家公務員としても元システムエンジニアとしてもとてもやりがいがあります。

また、文書管理プロジェクトは、日々の業務記録から歴史的価値のある行政資料に至るまで、さまざまな公文書を保存するためのもの。50年後、100年後を生きている国民の皆さんが、過去の内容を参照できる仕組みをつくり出す仕事でもあります。

――たしかに。今を生きる人のみならず、未来を生きる人にも記録をつなげる仕事ですね。

山村:
公文書管理には短期的な要素と長期的な要素があります。前者では、現在進んでいる政策に関わる意思決定がどのような過程で進められたのかを説明するためには欠かせません。政策担当者が変わっても、行政機関の責任は変わりません。そのために公文書をきちんとわかりやすく管理しなければなりません。

後者に関しては、公文書の保存期間が満了した後、歴史的価値があるとされたものは国立公文書館に保存されます。50年後、100年後を生きている国民の皆さんは、それらを参照することができる。未来の人たちが、これまで積み重ねられた記録を参考にして進路を選択することもあるでしょう。その壮大な道のりに携われている喜びも少なからずあります。

公文書とは、先々の人に「あの出来事には、こういう経緯があったのか」「あの政策は、当時の人々のこんな思いから立案されたのか」と伝えるものでもあります。これまでも人類は過去の人々が残した記録から知識を積み重ね、当時の人々の思いを知り、自らが進むべき道に反映してきたと思います。的確に文書を残していくことには、こうした重要な意義があるのだと感じます。

――重要な使命を持つ「文書管理」プロジェクトですが、今後の展望について聞かせてください。

山村:
これまでは制度で定められた各種管理簿の管理などのほか、数多ある行政文書でも、主に「決裁」(国の行政機関における意思決定)に関わる文書をメインに取り扱ってきました。今後は新たなフェーズとして決裁文書以外で日々の業務で発生するさまざまな行政文書をメインターゲットとして、これらの文書を管理する職員が、より確実かつ効率的に業務が行えるような、使いやすいシステムの拡充を目指していく予定です。

また、決裁文書以外の行政文書は、決裁文書と比較して膨大な量となると見込まれていますので、職員の皆さんにとって使いやすいUI/UXとなるよう、システムのアーキテクチャや各種要件を精査して、設計開発につなげていく必要があると考えています。

現在私たちのプロジェクトチームを含むデジタル庁の省庁向けサービスグループでは、システムの企画開発・運用を担う新たな人材を募集しています。文書管理のデジタル化など、新システムの開発・運用に興味をお持ちの方がいらっしゃれば、ぜひご応募いただけると嬉しいです。


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