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「デザイン思考は、必要な変化を見出すこと」クリスチャン・ベイソンさん講演(1)

デジタル庁の松本です。普段は、省庁業務サービスグループの総括担当で業務をしております。今回から3回に渡って、デザインを活用して公共・民間分野のイノベーションを支援する、デンマークデザインセンターのCEOを務めるクリスチャン・ベイソンさんが講演した内容について紹介します。

デンマークは、国連電子政府ランキングで2年連続1位(2021-2022年度)になり、世界のデジタルガバメントのトップランナーであります。そのデンマークのデジタルガバメントの礎作りに貢献してきたのが、政府内イノベーションラボである「マインドラボ」です。

2002年から2018年まで活動したマインドラボは、デザインアプローチを活用した政策やサービスの開発や組織開発を推進してきた組織です。ベイソンさんは、マインドラボの初代所長でもあります。

2023年1月、ベイソンさんにデジタル庁へ訪問いただき、「行政における人間中心デザイン」というテーマで講演をしていただきました。その講演内容を紹介します。


患者に寄り添うデジタルサービスと人間中心デザイン

ベイソンさん:
デジタル庁では、ビジョンをもって、市民中心のデジタル化を進めることを目的にしていると伺っています。それは必ずしも簡単なことではありませんが、成し遂げることは可能です。

まず、「エメント」という医療ケアガイドの開発事例を紹介します。本当の意味で市民の視点で公共サービスを見直し、デジタルの力を活用して体験を変革していくとはどういうことか、どのようなメリットがあるかについてお話をします。

エメントを開発した会社は、私たちの良きパートナーの1つであり、医療系を中心に公共分野のデジタル改革を支援しているデンマークの小さなデザイン会社です。医療は私たちにとって身近で大切な分野ですので、今回の事例に選びました。

過去10年以上、公共分野においてのデジタル化は、紙の記入用紙をスクリーン上に投映することだと考えられてきました。出発点としてはそれで良かったかもしれませんが、デジタル化で実際にできることに照らすと不十分と言わざるを得ません。

デンマークの病院では、外科手術を控える患者に案内状を送ります。外科手術は、怖くて、不安なので、きちんと準備しないといけません。ところが、病院が出す案内状は30ページ以上あります。「真夜中にこの薬を服用してください」「この時間以降に食事をしてはいけません」などの患者にとって最も重要な情報は、20ページ目あたりに強調もなく書かれているだけでした。

デジタル庁で講演をおこなうクリスチャン・ベイソンさんの画像
デジタル庁で講演をおこなうクリスチャン・ベイソンさん

ほとんどの患者は、そのページまで到達できないでしょう。もしデジタル化によって本当に市民向けの良いサービスを生み出したかったら、どのように人々に対してその重要な情報を明白に伝えるかを考える必要があります。

市民を中心に置いて、コミュニケーションやインタラクション(サービス上のやりとり)をデザインしていくには、市民に対して問いかける必要があります。ただし、素朴に「何をお求めですか」と訊ねるということではありません。

市民は、その実現方法を知りようがないのですから。そうではなく、もっと多くの時間やエネルギーをかけて、何が市民にとって真に重要なのか、どのように市民が生活をしているのかを理解するのです。

つまり、ユーザーと一緒の時間を過ごしたり、ワークショップや共創、暫定的な解決策をつくりあげる試作をおこない、テストすることを何度も何度も反復する必要があります。それをイテレーションと呼びます。

人間中心デザインは、デザインによるイノベーションに必要

ベイソンさん:
先ほど紹介しましたエメントの開発では、10人のチームで1年間に100回以上のイテレーションを行いました。とてもプロフェッショナル性を要する仕事です。真剣さ、時間、投資、注意深さに加えて、もちろんマネジメントの支援も必要です。

開発会社によれば、エメントは飲食禁止の時間帯などのガイドを24時間提供しています。さらに、患者への問診票の事前送付や入院前の荷造りや退院後のリハビリなどへの助言、術後のオンライン診察等のサービスを提供しています。

患者はそれらの機能を直観的に利用して自律的な管理ができるようになり、医師や病院管理者は、それぞれの部門に適したワークフローの提供を受けられるとのことです。

この事例のポイントは、素晴らしいユーザー体験の実現には、ユーザーが置かれている状況や人間中心の視点に加えて、プロセスの関係者全員の理解が重要ということです。

つまり、環境のデザインであることを認識し、それぞれの当事者の役割やニーズ、スタッフと市民・関係者の相互作用を理解する必要があるということです。

開発会社によれば、エメントの成果として、患者が手術を受けるための準備時間が1人当たり45分から15分に短縮でき、患者の入院日数も3日から半日に大きく短縮できたとのことです。夜間入院のコストを考慮すると、大きなコスト削減だと思います。

一つの手続の話ではありますが、人間中心デザインにより、患者がサービスを体験していく過程(サービスジャーニー)を最適化できただけでなく、公共部門側も時間や費用を大きく削減できました。患者も看護師も病院スタッフも嬉しいですし、政府の財政当局にとっても嬉しいことです。

人間中心デザインは、デザインによるイノベーションに必要となります。それは単に、知り尽くしていると考えていることをそのとおり実行することではありません。何が本当に必要かを見出すこと、どういった種類の変化やプロダクト、サービスを創造する必要があるのかを発見することです。それは難しいことです。

私は、『ハーバードビジネスレビュー』の論文の中で、「デザイン思考は、果敢な挑戦を求められる課題である。なぜならデザイン思考は、マネジメントの変化にとどまらないからである。どんな変化が必要なのかを見出すことを伴うからである」と記しました。今でもまさにそうだと思います。

◆続き(パート2)は以下のリンクをご覧ください。


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◆これまでの「デジタル庁の組織文化」の記事は以下のリンクをご覧ください。