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キャッシュレス納付の実現で、行政手続をもっと便利に。デジタル庁の政府共通決済基盤プロジェクトが目指すもの

デジタル庁の省庁業務サービスグループ(以下、省庁G)では、国の行政機関や地方自治体を対象とするITインフラやサービス提供(職員の業務環境、アプリケーション、システム基盤など)に関する業務を担い、行政機関の生産性向上や効率的なシステム整備への貢献を目指しています。

省庁Gには30を超えるプロジェクトがあり、新たな人材を募集しているチームがあります。その一つが、「政府共通決済基盤」プロジェクトチームです。現在このチームでは、行政手続におけるキャッシュレス化を推進するため関係する府省庁と協力し、国の行政機関や地方自治体が共通で使える決済基盤の構築・運用を担っています。

今回デジタル庁noteでは、「政府共通決済基盤」プロジェクトの誕生経緯や意義や効果、仕事のやりがい、求める人物像について、プロジェクトメンバーの井上隆彦(参事官補佐)に話を聞きました

プロフィール:
省庁業務サービスグループ
政府共通決済基盤プロジェクト
参事官補佐 井上 隆彦


行政手続のキャッシュレス化に向けた制度設計

インタビューに応じる井上のバストショット。オフィスで窓ガラスを背景に話をしている様子を、右斜め前から撮影している。
インタビューに応じる省庁業務サービスグループ・政府共通決済基盤プロジェクトの井上

――はじめに、井上さんのこれまでのお仕事について教えてください。

井上:
私自身は財務省からの出向になります。財務省には税関採用で2007年に入省しました。関税局・税関のほか、法務省や外務省(領事館)での出向勤務なども経験し、2022年7月にデジタル庁に着任し、現在に至ります。

財務省税関の業務には関税などの「制度」に関わるものだけでなく、税関のように「現場」での仕事もあります。その業務の幅広さに惹かれたことが入省を志したきっかけです。

入省後は関税制度や税関業務の企画立案を担当するなど、主に関税まわりの経験を積んできました。

――デジタル庁に入庁してからは、どのような業務に携わってきましたか。

井上:
主に2つの業務に携わってきました。一つは入庁当初に従事した「キャッシュレス法(情報通信技術を利用する方法による国の歳入等の納付に関する法律)」の施行準備です。

たとえばパスポートの発給申請など、行政手続で必要となる手数料等を国に支払う場合、これまでは現金や収入印紙などでの支払が一般的でした。

しかしデジタル化が進むなかで、日々の暮らしではキャッシュレス決済が支払方法の一つとして当たり前になっています。世の中の流れに、国も対応しないわけにはいきません。

ただ、国への手数料などの納付方法は、それぞれの手続に関する個別の法令で「手数料の納付は、収入印紙をもってしなければならない」などと規定されており、それらを一つ一つ法改正していくことには大変な手間がかかります。

そこで、国への手数料などの支払方法に関する規定を一括で整備する法律としてつくられたものが、2022年11月に施行された「キャッシュレス法」です。

この法律によって、国の行政手続に関する手数料等をキャッシュレス(インターネットバンキングやクレジットカード、電子マネーなど)で納付するための法的な環境が整備されました。

施行にあたっては、「利用者の保護は十分か」「どうすれば使いやすい制度設計となるか」といった観点を重んじ、準備を進めました。この国に暮らす、大変多くの人に関わる法律ですので、社会的な影響の大きさを感じた仕事です。

「政府共通決済基盤」は立ち上げ半年でサービス開始 “異例”のスピードで実現できた背景とは

インタビューに応じる井上のバストショット。オフィスで壁を背景に話をしている様子を、左斜め前から撮影している。

――井上さんが携わった業務のもう一つが、「政府共通決済基盤」プロジェクトですね。どのような内容のプロジェクトでしょうか。

井上:
国民・住民の皆さまから手数料等の納付を受ける行政手続において、国・地方自治体に対してキャッシュレス納付の環境を提供するシステム、それが「政府共通決済基盤」になります。各府省庁と地方自治体が共通して使える決済基盤の構築・運用を目指しています。

先ほどご紹介したキャッシュレス法によって、行政手続のキャッシュレス化を可能とする法的なベースは整備されました。次のステップは、それを実現するシステムづくりです。

実はいくつかの府省庁では、手数料等のキャッシュレス納付の仕組みが先行導入されていたのですが、そのためのシステムは各府省庁が独自に構築・運用していました。

ただ、キャッシュレス法が施行され、その対応範囲が今後広がることを考えると、それぞれの役所が独自にシステムを構築・運用することは費用や運用コストの点からみて効率が良いとは言えません。

加えて、プロジェクトの立ち上げと前後して自治体の皆さまからも「住民の方がマイナポータル経由で行政サービスの電子申請などができる「ぴったりサービス(※)」に決済機能をつけてほしい」という要望もありました。

こうした背景から、将来的に行政手続をオンラインで完結にできるようにするためにも、国と自治体が共通して使える決済システムの開発を一気通貫に進めていくべきという機運が生まれ、開発へと至りました。

※「ぴったりサービス」:「マイナポータル」経由で住民が行政サービスに関する検索や電子申請などを利用できるサービス。

――「政府共通決済基盤」は2023年4月、「ぴったりサービス」と連携してサービスを開始しました。プロジェクトの立ち上げから実際のサービス提供まで約半年だったそうですが、とても迅速ですね。

井上:
省庁が提供するサービスとしては、異例のスピードだったと思います。

通常、行政機関が新しいシステムをつくる際は、前の年度の夏に必要な予算を要求し、開発費用を確保します。そして、次の年度に調達の入札をかけてベンダーを決定し、ようやくベンダーに開発を依頼する……という流れが一般的で、開発にとりかかるまでにかなりの時間が必要になります。

ただ、デジタル庁にはシステムを内製で開発できるエンジニアが在籍しており、開発のための作業環境もあります。そのため、多額の費用を要することもなく、予算要求のプロセスを大幅にスキップすることができました。決済事業者とシステムの細部を詰めていく場面でもスムーズに対応できたこともポイントだったと思います。

できるだけ早くサービスを開始できるように、リリース時の初期機能の絞り込みも功を奏したと思います。もちろんそれだけでは利便性が低いため、リリース後に順次、各種クレジットカードや複数のコード決済も対応するなど機能の拡張を行いました。

クレジットカード情報を取り扱うための国際的セキュリティ基準(PCIDSS)の準拠も、通常ならもっと年数を要するプロセスだったようですが、デジタル庁ではわずか1年でクリアすることができました。金融業務、決済業務を熟知する職員が、審査に必要な項目をよく調べ、集中的に対応したことで実現できたと聞いています。

こうした取り組みによって、「政府共通決済基盤」は地方公共団体への電子申請の際のキャッシュレス納付に対応し、導入自治体と決済件数(利用者数)も徐々に増えており、多くの方にご活用いただいております。

互いの強みを生かすことで「より良いもの」を生み出せる

インタビューに応じる井上のバストショット。オフィスで壁を背景に話をしている様子を、右斜め下から撮影している。

――井上さん自身は、プロジェクトでどのような役割を担われたのでしょうか。

井上:
プロジェクトのメンバーが10人に満たない少数精鋭ということもありますが、システム開発以外に関しては、広く進捗に関わってきました。

なかでも主担当として受け持っていたのが、クレジットカードなどを取り扱う決済事業者さんとの要件調整や、自治体の皆さまが実際にシステムを利用する際のフォローや調整業務です。

政府共通決済基盤の裏側には、クレジットカード会社などをとりまとめ、決済実行などを担う決済事業者がいますが、導入自治体は、この決済事業者を納付者(住民)に代わって手数料等を自治体に納める「指定納付受託者」として指定し、その前提として契約を締結いただく必要があります。

そこで、スムーズに契約が締結できるよう契約書のモデルを決済事業者の方と協力して作成したほか、自治体独自のニーズについて、どのような対応が可能かを決済事業者の方や庁内にいる自治体からの出向者を交えて検討し、対応してきました。

――まさに、行政におけるキャッシュレス関連の経験やノウハウを積んでこられた井上さんの経験が生きた場面ですね。

井上:
「政府共通決済基盤」のプロジェクトチームは、民間や省庁、自治体から集まったバックグラウンドの豊かなメンバーで構成されています。

私自身は、財務省で税関における入国旅客の関税等のキャッシュレス納付の導入の検討に携わったこと、デジタル庁でキャッシュレス法の施行準備に従事したこと、それぞれで蓄積してきたノウハウをプロジェクトに生かすことができたと思います。

また、サービスの使い勝手の向上やユニバーサルデザインといった観点では、民間出身のメンバーが大いに活躍しています。

このように、互いの強みを生かしてうまく役割分担ができたことが、スピード感のあるサービス提供の開始に繋がったと思います。日々の業務でも、チームにはそれぞれが専門的な視点から意見を出し合って、より良いものをつくっていこうという気風がありますね。

――プロジェクトを進めていくなかで、井上さんが感じていたやりがいや喜びを教えてください。

井上:
「政府共通決済基盤」は、国民・住民の皆さまに納付いただく大切なお金を扱う業務を支えるシステムです。だからこそ、安全かつ円滑にシステムを運用することがとても重要になります。

サービスの開始以来、活用してくださる自治体や利用者数が増えていることも大きな喜びですが、やはりシステムが問題なく稼働し、さまざまな決済にきちんと日々対応できていること自体に大きな責任とやりがいを感じます。

また、自治体の皆さまからも「便利になった」「新システムに満足している」といったお声をアンケートなどで寄せていただき、微力ながら世の中のお役に立てているという実感も沸いてきます。

さまざまな行政手続について、オンライン申請と組み合わせながらキャッシュレスの利用を拡大できれば、行政手続のデジタル化を進めることが可能になると考えています。

「政府共通決済基盤」の取り組みを、さらに前へ デジタル庁では人材を募集中

インタビューに応じる井上のバストショット。オフィスで窓ガラスを背景に話をしている様子を、右斜め前から撮影している。

――世の中の変化に応じて、行政手続の手数料キャッシュレス化に貢献する「政府共通決済基盤」ですが、今後の展望があれば聞かせてください。

井上:
現在は国庫、具体的には日本銀行の口座に納付できる府省庁向けのサービスを構築中で、具体的なシステムの調整をはじめたところです。

手数料等の根拠となる行政手続を取り扱う府省庁システムとの連携はもちろんですが、国庫納付に当たっては、「何のお金なのか」を明確にしなければなりません。国の会計システムとも連携し、納付番号等の付与や、国庫に入金が完了したことの通知に対応していく必要があります。システムがぐっと複雑になるのです。

ただ、国庫納付のキャッシュレス化が実現できれば、行政手続のデジタル完結にまた一歩近づきます。国民の皆さまのさらなる利便性の向上と行政機関の事務効率化に大きく貢献できることは間違いありません。その未来に向けて、新たな人材も募集しています。

井上:
各種手数料や税金といった公金を取り扱う仕事は、限定されたニッチな分野とも言えます。これまでにない仕事に取り組み、金融系のキャリアを拡大していきたいと考える方には、ぜひ興味を持っていただけるポジションだと思います。

プロジェクトが社会にもたらす効果は大きい上、メンバーに与えられる仕事の裁量はとても大きいです。「行政のキャッシュレス化」という大きな目的に対して、「いま何が必要なのか?」「自分ならどのようなことができるか?」を考え、主体的に取り組んでいける方には、とても面白い職場だと思います。

(※記事の内容は2024年6月現在のものです)


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