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行政デジタル化の知見共有と、エコシステム形成に向けた一歩を。第1回「Govtech Meetup」を開催しました

デジタル庁は、多様なステークホルダーにおける行政デジタル化の知見共有と関係者の交流を目的とした「Govtech Meetup」を12月から開催しています。この取り組みは、国内のGovtech(行政の利便性を高めるテクノロジー)に関わる関係者のエコシステム形成を目指すもの。2022年3月までに計7回の開催を予定しており、1回目を12月14日に行いました。

1回目のゲストとして参加いただいたのは、東京都副知事の宮坂学さん、経団連副会長で株式会社ディー・エヌ・エー代表取締役会長の南場智子さんです。デジタル庁からはデジタル監の石倉洋子、モデレーターとして人事・組織開発を担当する唐澤俊輔が登壇しました。

今回のテーマは「日本のGovtechとはどうあるべきか」。デジタル庁のあるべき姿や行政デジタル化における課題などをそれぞれの目線から語っていただき、議論を深めました。


ミッションの「誰一人取り残さない」に込めた意味

 デジタル庁のミッション・ビジョン・バリューの説明図。
ミッション「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を。」 ビジョン「Government as a Service」「Government as a Startup」

バリュー 「この国に暮らす一人ひとりのために」
「常に目的を問い」 「あらゆる立場を超えて」
「成果への挑戦を続けます」
デジタル庁のミッション・ビジョン・バリュー

イベントの冒頭、デジタル庁の「ミッション・ビジョン・バリュー」について、石倉から説明がありました。官僚と民間人材が数百人規模でフラットに交じり合う、これまでにない組織形態のデジタル庁。判断基準をそろえ、全員で業務に向かうための共通の価値観として、これらの言葉が存在しています。

策定にあたっては、ワークショップを通して各職員が議論に参加し、ボトムアップで決めることを重視しました。一つひとつの言葉と向き合い生まれた言葉の中でも、石倉はミッションにある「誰一人取り残さない」に込めた思いについて言及し、議論は進んでいきます。
※)各言葉の意味や策定プロセスは、唐澤がまとめた下記の記事に詳細が記されています。

デジタル監の石倉洋子が話している様子
デジタル監の石倉洋子

石倉:「誰一人取り残さない」の解釈として、「全ての人がデジタルを使えるようになること」がゴールと誤解されることが多いです。そうでなく、一人ひとりの多様な幸せを実現する一つの手段としてデジタルがあり、そこに誰でもアクセスできるという意味を指します。

コロナ禍でリモートワークが急速に普及したように、ある程度強制的にデジタル化を進めなければ変わらない部分もあると思います。ただ、もちろんアナログのほうが良いという方もいるので、いきなり100に持っていくのは難しい。そのバランスには今も悩んでいます。

南場:ビジョンの中に、「Government as a Startup」という言葉がありますよね。スタートアップのように、大胆かつ素早くデジタル改革を主導するという意味だと思います。

これまでの行政は、みんなが「イエス」と言ってから、物事が動く世界でした。対して、私が日々向き合うスタートアップの世界は、1社でも資金提供者が「イエス」と言えば、すぐ始められる。そういうスピード感を持って進めなければいけないときに、「誰一人取り残さない」は分かりやすいけれど、言葉だけで見ると少しギャップを感じてしまいます。

つまり、「誰一人取り残さない」と「Government as a Startup」を同時に実現するのは相当大変だということです。石倉さんが先ほどおっしゃったように、デジタルはあくまで手段で、選択肢の一つとしてあるということが重要なのだと思います。

経団連副会長で株式会社ディー・エヌ・エー代表取締役会長の南場智子さんが話している様子
経団連副会長で株式会社ディー・エヌ・エー代表取締役会長の南場智子さん

宮坂:私はヤフーの代表をしてから、東京都の副知事となったので、民間と行政両方を経験してきました。民間企業の場合、マーケットシェアの20%をとれたら1位みたいな世界なので、常に先頭を見ていることが多い。対して、行政は後から物事を見ることが多いです。

そういう意味で「誰一人取り残さない」というミッションはすごく良い言葉だと思うので、デジタル庁は人々の生活の質や水準を上げることに、まず取り組んでほしい。一方で、後だけをずっと見てしまうと、先頭の足を引っ張りかねないとも感じています。民間企業に対してはどんどん規制緩和するなど、バランスをとりながら進められると良いでしょう。

優れたものを作るには、法律をデジタルネイティブに

デジタル化をどのように進めていくか、という観点で互いの問題意識を共有した前半。続いて、「行政のデジタル化における現状の課題」について、議論が進んでいきます。

宮坂さんは2019年9月の副知事就任後、都政のデジタル化を主導し、自治体として先進的な取り組みを続けてきました。例えば、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を梃子に都の行政システムを変革する「シン・トセイ」を打ち出し、ペーパーレス、はんこレス、キャッシュレス、FAXレス、タッチレスの「5つのレス」をはじめ、具体的な目標数値を掲げて様々なプロジェクトに取り組んでいます。

また、東京デジタルファースト条例を制定し、行政手続きのデジタル化も進めています。行政のデジタル化にいち早く取り組んだ立場から、宮坂さんは現状の課題をこう語ります。

宮坂:デジタルサービスは当然、今ある法律のもと作られるわけです。ただ現状は法律が複雑なままなので、複雑なサービスしか作れず、複雑なUX(ユーザーエクスペリエンス)になってしまうことが多い。今の法律のまま、優れたデジタルサービスを作るのは結構、無理難題な話です。まずは、法律からデジタルネイティブに変える必要性を感じています。

東京都副知事の宮坂学さんが話している様子
東京都副知事の宮坂学さん

南場:民間企業の立場から見ても、法律や規制の課題は大きいと思います。22年前の話ですが、私がインターネットオークションの会社を立ち上げしようとしたとき、古物商の手続きが必要か、必要でないかでたらい回しにされたことがあったんです。

その後、頑張って許可を受けたのに、「古物商」と書かれたプレートのようなものが一つ送られ、「店の軒先に置いてください」とか言われるんですよ。もちろん手続きとして必要なのは分かりますが、こういった「本当に必要?」と思うことが他にもたくさんあります。

コロナ禍でも印鑑を押しに毎日会社へ行かなければいけない人がいますし、明治時代の法律がそのまま残っていて事業が前に進まないというケースを聞いたこともあります。デジタル技術がものすごい早さで進歩しているので、一つひとつ点で見るのではなく、抜本的に法律や仕組みを変えていかないと、常に日本は周回遅れになってしまうかもしれません。

石倉:今法律や規制を整備するために取り組んでいる最中ですが、南場さんがおっしゃる通り、抜本的に変えていくための方法を模索しなければいけないと考えています。ただ、今のデジタル技術をベースに作られたものではないので、変えようとしたときに色んな障壁がどんどん出てきている状況です。どうしたら解決できるかを日々向き合っています。

一つ前向きな話としては、牧島かれんデジタル大臣が行政改革担当も兼任されていること。これは非常に大きいことで、これまでよりスピード感を持って取り組めると考えています。

モデレーターを務めたデジタル庁の唐澤俊輔が話している様子
モデレーターを務めたデジタル庁の唐澤俊輔

宮坂:諸外国では、行政内の情報共有により、市民や企業から一度提出された情報は二度と求めない「ワンスオンリー」化が進んでいます。都庁も今後検討したいなと思っているのですが、このように他の国や都市から学べることは多いです。先をいかれているとはいえ、どの国も始めて20年くらいなので、その中で得られた知見を聞くのも必要かなと。ただスペインのバルセロナだけは、1967年からデジタル戦略を始めているので例外ですが(笑)。

スタートアップを巻き込んだ、エコシステム形成を

最後のトークテーマとなったのは、「Govtechエコシステム醸成の意義」についてです。

まだ行政に浸透しているとはいえない「エコシステム」という言葉。石倉はデジタル庁におけるエコシステム形成の方向性について、「共創」をキーワードに掲げます。一方で、国レベルで成功している事例は少なく、多くのステークホルダーが関わる中で利害関係を一致しながら、すぐにGovtechエコシステムを形成するのは難しい。そのため、デジタル化に意欲的な地域でパイロットモデルを作り、そこで得られた知見を横展開したいと説明しました。

南場さんは石倉の話を受けて、自治体や大手企業に限らず、デジタル化と親和性が高いスタートアップも積極的にエコシステムに巻き込んでいく必要性を強調します。

登壇者をライブ配信用カメラで撮影している様子
当日はZoom上で開催し、約500人の方が参加してくださいました

南場:スタートアップエコシステムの先進国では、社会課題が餌になっているんですよね。餌にむらがるピラニアのように、スタートアップが「ビジネスのネタになる」と目をこらしている。デジタル領域だからこそ、そういった活力を使わない手はないと思うんですよ。

なので、公共調達の仕組みにある、創業してから何年以上でなければいけないとか、資本金がいくら必要とか、デジタル庁はやらないでほしい。むしろ、スタートアップと組むことで問題解決が3倍早く進んだといった実績をどんどん作り、他の省庁に示してほしいです。

宮坂:東京都のエコシステム形成だと、区市町村のデジタル人材と連携し、業務効率化ができないか、研修をともに行って仲間づくりができないかといったことを模索しています。

また、オープンデータに関する取り組みも重要だと考えていますね。今までの行政への参加方法は、選挙に行くとか、議員さんにお願いするのが中心だったかもしれませんが、PCが発明されたことによって「(オープンデータを活用し、)プログラムをかいて参加する」というチャネルができたんですよ。これはすごいことだと思っていて、消防団によって地域が守られてきたような仕組みが、デジタル上でも今後実現するかもしれません。

ただその時に行政がしっかりとしたデータやAPIを提供していないと、市民主体のシビックテックコミュニティは生まれていきません。まだ道のりは遠いですが、企業や市民が使いたくなるデータやAPIを公開する、基本的なことではありますが頑張って取り組みたいです。

石倉:南場さんから指摘があったように、エコシステムの形成に向けては、仕組みとして改善していかなければならないと認識していますが、ゼロから新たに組織を立ち上げたこと、優秀な官僚と民間人材が入り混じる、これまでにない組織として大きなポテンシャルがあると思っています。東京都みたいな先進事例から学び、良い要素を取り入れながら、バリューにある「成果への挑戦」を続けたいです。

南場さん、宮坂さん、石倉デジタル監の集合写真

パネルディスカッション終了後、質疑応答と「ブレイクアウトセッション」としてZoom上で参加者との交流時間が設けられ、1回目のGovtech Meetupは幕を閉じました。当日の様子はYouTubeでも公開しているので、ぜひご覧になってみてください。

第2回は「行政の求められるデザインとは」というテーマで、1月13日(木)に開催します。Takram田川さん、KESIKI石川さんに加えて、デジタル庁からはCDO(Chief Design Officer)の浅沼尚が登壇。ご関心のある方は、Peatix(外部サイト)から申し込みください。


デジタル庁では通年採用実施中です。デジタル庁のミッション・ビジョン・バリューに共感いただける方からのご応募をお待ちしています。


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