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政府システムのあるべき未来 -民間出身人材のクラウドエンジニアが考えること-

デジタル庁が開発した「ワクチン接種記録システム(以下、VRS)」が、新型コロナウイルスワクチンの円滑な接種に寄与し、国民の利便性向上に大きく貢献したことが評価され、開発を担当したデジタル庁VRSチームは、この度人事院総裁賞(※)を受賞しました。

※人事院総裁賞:国民の公務に対する信頼を高めることに寄与した職員又は職域グループの功績を讃えるもの

本プロジェクトでは、官公庁向けシステムとして初めてクラウド最適なアーキテクチャを採用しており、開発コストの大幅な削減、また約2ヶ月間という短期間での開発が実現。その事例は、後の様々な政府システムの開発プロジェクトに対しても、一石を投じる結果となりました。

そこで本記事では、立役者となったガバメントクラウドチームの発足の経緯や今後の目標について、シニアエキスパートを務める山本 教仁、クラウドエンジニアの佐藤 智樹、同じくクラウドエンジニアの矢ヶ崎 哲宏の3人に話を聞きました。


ガバメントクラウドチームの発足

デジタル庁のガバメントクラウドチームとは、政府が利用するクラウド環境の設計、開発、運用を行っている、総勢約20名のチームです。

担っている役割はとても幅広く、4つのクラウドサービスにより構成されるガバメントクラウドの構築、クラウドをよりよく使ってもらうためのドキュメント作成や広報活動、移行支援活動、ガバメントクラウド上で動くシステム開発などを担当しています。チーム全体のうち、過半数が民間出身人材であり、その全員がクラウドエンジニアです。

ガバメントクラウドチームの原型となったVRSチームの発足は、デジタル庁設立以前の2021年1月まで遡ります。新型コロナウイルス感染症が流行していた当時、「VRSを4月までに開発・稼働させる」という計画が浮上。その後、内閣官房の組織として立ち上がり、政府に在籍していたCIO補佐官やクラウドに詳しい民間出身人材が集まってチームが発足しました。

しかし、開発期間はわずか2ヶ月あまり。そのような短期間で、国民全員を対象とするほどの大規模システムを開発するためには、政府の従来どおりの開発手法ではとても間に合わせることができませんでした。そこで、スピードを重視した開発手法として、それまでに検討段階にあった「クラウドを活用する」という手法が採用されたのです。

その結果、VRSを目標であった4月に稼働させることに成功。その後、この開発に携わった2名が中心となってガバメントクラウドチームが組成され、現在では民間出身人材10名、行政官9名を含めた計20名のチームとして活動を行っています。

クラウドを活用するメリット

前例のない体制、技術をもって進められたVRS開発プロジェクト。約2年間の月日を経て、本プロジェクトが成功に至った要因をメンバーはこのように話しました。

山本:
プロジェクトが上手くいったのは、関わった全員のリーダーシップ、協力いただいた開発パートナーの高いモチベーションによる支援、そしてガバメントクラウドチームにスキルが高く経験豊富な開発メンバーが揃ったことが挙げられます。

また、設計、開発、運用を一気通貫で行えたことも成功の要因でしょう。これまでのプロジェクトでは、設計や開発、運用の各工程は分割されてしまうことが多かったですが、VRSのインフラは運用までの工程を全てガバメントクラウドチームが監督していました。そのため、柔軟に仕事を回すことができ、スムーズな開発と稼働につながったと思います。

佐藤:
そうですね。あとは開発者目線でいうと、システムの設計者と開発者が同一であったことによって、認識の齟齬が生じにくい環境であったことも大きな要因と言えそうです。また、システム開発者が積極的に会議に参加してくれたので、スピード感を持って開発することもできましたね。

また、これをきっかけにクラウドを活用することが政府システムに大きなメリットをもたらすと話します。

山本:
VRSは、仮想化の延長のような旧世代のクラウドとは違って、インフラのソフトウェア化を実現した現代的なクラウド活用を実現できています。結果、この規模としては非常に低コストで運用できており、ここまでシステム停止もなく、安定して運用できています。

こうした実績を出せたことが、クラウド最適なアーキテクチャの良さを庁内に理解してもらうきっかけに繋がったと思いますし、官公庁でクラウド最適なシステムの兆しを作れたことは大きな一歩です。今後、こうしたクラウド最適で現代的なアーキテクチャが広がり、より素早く、低コストで、落ちないシステムを作っていきたいですね。

佐藤:たとえばクラウドを活用することで、システム負荷に応じて最適なリソース量に自動的に変更されます。負荷がかかっても勝手に対応してくれるので、事前の性能見積もりに時間かける必要もないですし、なにより運用する側は安心して運用することができます。負荷がかかったらリソース量を自動で増やしてくれる一方、普段は小さいリソース量で運用できるため、運用コストの削減につなげることもできます。

システムは作って終わりではなく、継続的にコストを見直すことも大切です。クラウドを活用することで、運用コスト管理もしっかり行えるようになる、という良い事例が作れたのではないでしょうか。

継続して運用すること、の重要性

クラウド環境におけるインフラの運用とは、単にシステムの定期的な保守・維持というものにとどまりません。コスト削減やインフラ環境の改善を継続して行っていくことが、クラウド環境における理想のシステムの運用といえます。

矢ヶ崎は、ガバメントクラウドチームにおける「運用」の重要性を以下のように説きます。

矢ヶ崎:
これまでのインフラエンジニアの運用というと「保守と維持」というイメージが大きかったように思います。障害が起こらないことが当たり前の世界であり、何か障害が発生すればマイナス評価を受ける・・・という、文字通り守備的な仕事でした。

しかし一方で、クラウドを活用する環境下においては「運用」という言葉が持つ意味が少し変わります。たとえば、先述の通り、負荷に対して最適なリソース量に調整されることで、コストを大幅に削減することが可能になりますし、今までアプリケーションやUIでしかできなかったサービス改善についてもインフラ側からの提案が可能になります。運用者の役割は、多岐に広がるのです。

今後クラウドを活用していくことで、従来の政府システムも、さまざまな運用が可能になります。インフラにどのくらいのコストがかかっているか数字で明らかにしたり、どのくらいインフラ環境を改善できたのかを数値化して把握できるようにもなります。これらの情報は国民の皆さまにとっても関心事だと思いますし、運用担当者のモチベーションも高まっていくと想像できます。

チームの今後の目標と展望

ガバメントクラウドチーム結成のきっかけとなったVRSプロジェクトは一区切りとなりますが、新たな挑戦も始まります。そこで、各チームメンバーは今後の目標と構想について、こう話します。

山本:
2022年度は、地方の先行事業やデジタル庁の内部でガバメントクラウドを稼働させるプロジェクトがいくつか動いていました。来年度は政府の数十個のシステムがガバメントクラウドに移行する予定ですし、多くの地方公共団体からガバメントクラウドへの移行表明も頂いています。今後は、その環境をしっかりと作り、運用していくことが大きなミッションですね。

佐藤:
私は、クラウド上で動いているシステムをどれだけセキュアにするのか、どれだけコスト効率を良くするのかなど、クラウドに最適な形でシステムを構築するということに集中して考えて、試作したいと思っています。そこは技術的にも面白くやりがいのある観点ですし、技術者としては楽しみな挑戦ですね。

矢ヶ崎:
私はクラウド環境への移行によって、運用の仕事のイメージが変わっていけば、と考えています。先ほどお話した通り、これまでの運用は守備的な仕事でしたが、クラウドを活用することで運用者ができることはとても広がります。ガバメントクラウドチームの仕事を通して、運用の仕事の楽しさを伝えていければと思っています。

デジタル庁の発足前から、クラウドを活用して便利なサービスを届けてきたガバメントクラウドチームは、これからもデジタル社会のインフラを支え、国民の皆様に便利で安定したデジタルサービスを届けていきます。今後も引き続き、発信を行っていければと思います。

また、ガバメントクラウドチームはnoteも運営しています。より詳しいチームの活動知りたい方は、ぜひ下記URLよりご覧ください。


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◆デジタル庁の中途採用に関する情報はこちら。

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