「信頼を積み上げるデザイン」を目指す。デジタル庁ビジュアルデザイナーの役割とは
すべての人により良い行政サービスをご利用いただけることを目指して、デジタル庁では「ビジュアルデザイナー」を募集しています。
ビジュアルデザイナーは、庁内の各プロジェクト担当者と密にやりとりをしながら、デジタル庁が提供するサービスやアプリケーション、発信するメッセージを国民の皆さまにわかりやすく伝える仕事に携わっています。
具体的な業務内容や求めている人材像、デジタル庁ならではのやりがいについて、デジタル庁noteでは実際の業務に携わるデザイナーに話を聞きました。
制作と監修の両面が「ビジュアルデザイナー」の役割
――川瀬さんは現在、どのような業務に取り組まれているのでしょうか。
私が所属している「サービスデザインユニット」は、アプリやウェブサービスなどに携わってきた約20人のプロフェッショナルが活躍しています。
ユーザー目線で利便性の高い行政サービスを設計したり、それにまつわるさまざまなデザイン領域を担ったりしていますが、その中で私の仕事は大きく2つあります。
1つ目は、デジタル庁そのものと社会とのコミュニケーションに関するデザイン業務です。
デジタル庁が発信する情報やメッセージを、よりわかりやすく、誤解なく一貫したトーンで発信できるように、さまざまなものを直接デザインしたり、監修したりしています。各種ウェブサイト、イラストレーションやアニメーション、アプリのアイコン、資料テンプレートなどのデザインが主な対象で、美術的なクオリティを含めて制作の目的とアウトプットの整合性を担保する重要な仕事です。
そして2つ目は、デザインの相談に対するサポート業務です。
デジタル庁内だけではなく、他の省庁とも連携しているプロジェクトの“お困りごと”の解決を支援するものですね。各種プロジェクトやイベントに際して制作されるビジュアルデザイン等について、直接的なデザイン作業はお任せしながらアドバイザーとしてサポートしています。
――自らデザインを手がけるケースから、プロジェクトを担当する職員と密接なコミュニケーションが求められるアドバイザーまで、役割は多岐にわたりますね。
そうですね。一つはデザイナーとして個別のプロジェクトの中で求められる作業をする場合。もう一つは、デザイナーは別にいて、デザインをディレクションする立場として関わる場合と、大きく二通りの役割があります。
「信頼を積み上げるデザイン」を目指す
――川瀬さんご自身は、これまでのどのような経験を積まれてきたのでしょうか。
もともと民間の制作会社でデザイナーとしてのキャリアをスタートした後、2年ほどしてすぐフリーランスとして独立し、13年ほどデザイナーとして経験を積みました。
紙媒体とウェブ媒体の両方でのグラフィックデザイン、企業・サービスのブランディングなどの広告領域、アプリのデザインや監修、建築の設計監修にも携わりました。幅広い仕事を手がける中で、いろいろなステークホルダーと一緒に進めるプロジェクトも経験してきました。
学生時代に医学生の国際NGOに参加していたつながりから、医療分野のデザインや病院の設計監修の仕事が段々と増え、新型コロナウイルスの流行発生当初には、行政主導のパンデミック対策に関するプロジェクトにもいくつか参加しました。
こうした経験やデザインの知見を活かせないかなと考えていたところ、2021年9月に発足したデジタル庁でデザイナーの募集があり、現在に至ります。
――民間と行政機関の両方でデザイナーを経験し、どのような違いを感じていますか。
「ビジュアルデザイナー」と聞くと、特に民間企業では、商品やサービスをより多くの方に購入してもらうための広告やブランディングなどに携わるお仕事をイメージされる方が多いかもしれません。
一方、デジタル庁のような行政機関では、ビジュアルブランディングを担うことはもとより、サービスやその関連情報をできるだけ正確・確実に、かつ誤解されにくいように伝え、国民の皆さまとの信頼関係を少しずつでも積み上げていく「コミュニケーションデザイン」に携わることが特に重要な役割になってきます。
また、デジタル庁の各プロジェクトでは行政官と民間人材がバディを組み、それぞれのナレッジを融合させながら仕事をしていくことが重要です。よりよいコミュニケーションデザインを実現するためには、チームメンバーとの柔軟で密接な連携も大切です。
私たちが関わるあらゆる仕事は、この国に関わるすべての人に向けたものです。当然、論理的に言語化できないような独りよがりなものをデザインするわけにはいけません。誰に対しても意図が伝わるよう、丁寧で効率的なコミュニケーションをデザインすることが重要です。
たとえば文字のサイズ、行間や文字間、線の太さ、角R(角の丸み)の半径など、すべてのデザインは細部まで「なぜこのデザインなのか?」を言語化できるはずです。なぜなら私たちがデザインしているものは、すべて明確な目的があって作られるものだからです。
デジタル庁が提供するサービスやメッセージの伝え方をデザインするとき、そのことは特に強く意識しています。
――行政機関として、属人的なものになってはいけないわけですね。
そう思っています。行政のサービスは「伝えなければならないこと」や「伝えたいこと」が多いため、情報量が多くなりやすく、そして正確に表現しようとするため難しい表現になりがちです。
たとえば、ビジュアルデザイナーが関わっていなかった頃は、同一の情報を伝えようとしているのにタイミングによってビジュアルデザインのテイストが違ってしまい、伝わりにくくなってしまうこともありました。
人間同士のコミュニケーションでも、同じ人の言うことが日によってコロコロ変わったり、態度やテンションがあまりに違ったりすれば、受け取る側は困ってしまいますよね。それは組織が発するコミュニケーションでも同じで、一貫性を失うと国民の皆さんとの会話に齟齬が生じてしまいます。
だからこそ、自分の感覚だけを頼りにせず、「このデザインはどう思う?」とチーム内でこまめに相談することを重視しています。個人による「こだわりの作品づくり」になってしまうことを防ぎ、普遍的なわかりやすさ・伝わりやすさをチームで担保するために、タスクの進捗をオープンにしたり、ピアレビューをおこなったり、いわゆるDesign Ops(デザイン・オプス)の実践を進めています。
デジタル庁だからこそ経験できる“仕事の奥深さ”
――現在、デジタル庁ではビジュアルデザイナーを募集しています。仕事に取り組む上で、どのようなスキルがあると望ましいですか。
ハードスキルという意味では、ウェブ媒体と紙媒体、双方のデザインワークの基本的な技術や知識があれば大丈夫です。たとえば、ウェブサイトやアプリにおけるレイアウトや画像を制作するスキルや知識などですね。
また、どんな風に印刷を発注したらどの程度の期間で納品されるのかといったスケジュール感や、入稿データの様式に関する知識や経験などがあると、活躍できるシーンはより多くなると思います。
もちろん、わからないところがあればチームメンバーによるサポート体制もあるので、個人がすべての技術や知識を網羅している必要はありません。
ソフトスキルでは、大きく5つの基本姿勢が求められると思います。具体的には、
デザインがなぜ大事なのかを相手に伝える姿勢
メッセージをヒアリングして論理的に整理する姿勢
個人の好みではなくプロジェクトが目指す成果につながることを優先する姿勢
必要に応じて迅速かつ柔軟に修正・改善し続ける姿勢
個人の功績を求めるのではなく、チームで成果を出していく姿勢
……ですね。
これは、「個人の仕事としてはデザインで安定的なパフォーマンスを出せていて、新しいチャレンジをしたい」という方に向いているかもしれません。
経営者や組織のフェーズにもよると思いますが、民間企業では事業やプロジェクトに直接コミットしてくれるデザイナーが最も求められます。そういったシーンで重宝されるスキルセットが、デジタル庁のビジュアルデザインチームでなら鍛えることができると思います。
また、ウェブサイトの制作やビジュアルデザインの領域で今後さらに経験や研鑽を積みたいという方にとっても、成長を支える環境があると思います。
――経験や研鑽を詰める環境があること、そしてデザインの考え方を行政の現場で生かせる機会があることは、大きなやりがいになりそうですね。
そうですね。行政出身の人材か民間出身の専門人材かに関わらず、「物事をわかりやすく伝える」という目的のためにビジュアルデザイナーを頼りにしていただける機会が増えてきていて、とてもやりがいを感じています。
デジタル庁のデザイナーに求められるのは、単に見た目がきれいなグラフィックを制作することではありません。
たとえば、政策やサービスの説明をイラストレーションや図に落とし込む際、ちょっとした表現を間違えるだけで、意味や印象は大きく変わってしまいます。
「わかりやすさ」ばかりに目を向けると、情報の受け手である国民の方々に情報を正確に伝えるという目的から外れてしまう恐れがあるのです。
それぞれの政策・事業に携わっているプロジェクトメンバーの皆さんと丁寧にコミュニケーションをとりながら、チームメイトとして一緒にデザインしていくことがとても大切です。プロジェクトメンバーと話し合ったり、資料を読み込んだりしながら、正確で理解しやすいコミュニケーションをデザインする、とても奥が深い仕事です。
また、サービスデザインとビジュアルデザイン両方の知見を、行政サービスに役立てられる環境づくりも課題です。行政サービスにおいて対外的なコミュニケーションの品質を高めるためのビジュアルデザインの重要性を示し続け、「行政にデザインの知見を取り入れてみよう」と思ってくれる仲間を増やす取り組みも進めています。
全プロジェクトにビジュアルデザイナーをアサインできたらいいのですが、現状ではなかなかそうはいきません。だからこそ、デザイナーが持つ知見を積極的に庁内でシェアするなど、デザイナーが参加できていないプロジェクトにおいても一定以上のクオリティのデザインを実装できるような仕組みも、今よりさらに拡充していきたいと思っています。
――実際の政策に関わる行政官とも連携する機会も多そうですね。この国に暮らす、すべての人に向けたサービスに関われることは、デジタル庁のデザイナーならではの特徴と言えそうです。
各プロジェクトには、立ち上げから運営に至るまでにさまざまなプロフェッショナルが関わっていて、それぞれがつちかってきた技術や知識を持ち寄って、より良い行政サービスを提供するために日々取り組んでいます。
そうした、行政機関の中でも特異でエキサイティングな環境の中で、ビジュアルデザイナーとして多様なプロジェクトに関わる機会は、なかなか経験できないことだと改めて思います。
デジタル庁が進めている政策やサービスは、非常に多くのステークホルダーが関わっており、制度に基づく仕組み自体も複雑なケースが少なくありません。
こうした政策やサービスを国民の皆さまに対して正確にわかりやすく伝えるかという課題に、デザイナーとしての知見を活かして向き合えることも、デジタル庁ならではの仕事だと思います。
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