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申請から給付をデジタルで完結。「給付支援サービス」の開発・提供を支える3人の行政実務研修員

デジタル庁では、住民・自治体双方において、給付の申請から給付までのプロセスが一気通貫でデジタル完結することで、迅速かつ効率的な給付が可能となる共同利用型のウェブサービス「給付支援サービス」を構築し、低所得者支援および定額減税補足給付金等の自治体における給付事務を支援するため、2024年2月13日よりサービスの提供を開始しました。

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住民の方はマイナンバーカードを読み取ることで、本人情報や公金受取口座情報を自動入力できるほか、通帳の写しの添付を不要にすることができます。自治体は、あらかじめ給付対象者の情報を登録しておくことで、申請された情報とデータが一致しているかサービス上で自動審査をすることができ、事務負担の軽減につながり、迅速かつ効率的な給付を実現することが可能になります。

「給付支援サービス」は2023年度の実証検証結果や利用自治体の職員や住民からのフィードバックを受けて、現在も継続的に機能改善を繰り返しており、低所得者支援及び定額減税補足給付金においては、2023年度及び2024年度の利用予定自治体を含めると約100の自治体にサービスをご利用いただいています。

サービスの開発・提供にあたっては、自治体からデジタル庁に出向している行政実務研修員が活躍しています。今回のデジタル庁noteでは、現場で活躍する3名の職員を紹介します。

プロフィール:
行政実務研修員
齊藤 容子、三田 恭平、木幡 健太

自治体とデジタル庁との「リエゾン」として

戦略・組織グループ・行政実務研修員の齊藤(横浜市から出向)

――はじめに、齊藤さんのこれまでのキャリアについて教えてください。

齊藤:
横浜市から行政実務研修員として出向しています。市ではデジタル統括本部に所属し、直近はIT関係の調達にかかわる調達仕様書やプロジェクトの進め方についてアドバイスをするPMO的な役割を担当しておりました。

――給付支援サービスチームにおける齊藤さんの具体的な役割について教えてください。

齊藤:
給付支援サービスは実証検証段階で機能改善に伴う改修に、方針の変更やニーズの変化に合わせて機敏に対応する開発手法である「アジャイル開発」を採用していることが特徴だと思います。2週間サイクルで改善のための開発を繰り返し実施し、実際に利用していただいている自治体や住民の方からの要望・意見を受けて随時改善を行っています。

その中で、私自身はサービスの仕様や要件の検討に携わっています。実際に給付支援サービスを現場で運用されるのは各自治体の職員の皆さんです。

開発・検証では、自治体職員の視点から「どのように要件定義をしたら使い勝手がいいか」具体的な事務処理方法や事務フロー全体を想定して検討を行っています。この検討の際に自治体で得た業務知識や事務処理上の経験が活かせていると実感しているところです。

実際にサービスを利用されている自治体職員の皆さんからの問い合わせにも対応しています。自治体からの出向職員には、自治体とデジタル庁とのリエゾン(※1)として役割が期待されていますが、自治体の業務経験がある出向職員と各自治体の業務担当者がやりとりをすることで、コミュニケーションがよりスムーズにできていると思います。

(※1)連携のための「橋渡し役」のこと。

――スムーズな給付を実現する上で、自治体からデジタル庁に出向している職員の存在は非常に大きいですね。

齊藤:
そうですね。たとえば、給付支援サービスを自治体に使っていただく際には、デジタル庁がサービスの運用と自治体へのサービス提供業務を委託している事業者とサービス利用契約を締結していただくことになります。

この契約にあたって提示される利用規約は、事業者が作成した案をベースとしつつ、複数人の自治体メンバーに協力いただき、短期間で自治体の条例や規則、総務省のガイドライン等に準拠しているかどうかを確認し、多くの自治体で共通的に使用できる内容を想定して、調整を行いました。このような対応は自治体出向者だからこそ可能なことだと思います。

自治体と国では、スコープやシステム規模、手続の根拠等に差異はありますが、プロジェクトを進めて行くうえでは類似している部分も多くありますので、これまでの自分の経験を活かせていると実感できることも多いです。

――自治体からデジタル庁に出向している中で感じたデジタル庁の良さ等があれば、ぜひ教えてください。

齊藤:
デジタル庁にはクオリティサポートというプロジェクトを支援していただける体制があり、サービスのプライバシーポリシーや調達仕様書の作成、品質管理、受入テストなどにおいてサポートが手厚いことが魅力的です。

民間出身の優秀なメンバーが在籍しているので、各フェーズにおいて専門家の意見もフラットに聞くことができます。自らの経験を活かしつつも、学びを得られますし、手続等を進めて行くうえで非常に安心感があります。自治体においても同様の体制が整えられたら、調達内容に起因するトラブルの回避やプロジェクトの品質向上が図れると思うところです。

住民・自治体職員、双方が使いやすいサービスづくりに自治体での経験を活かす

デジタル社会共通機能グループ・行政実務研修員の三田(東京都から出向)

――続いて、三田さんのこれまでのキャリアとチームにおける具体的な役割について教えてください。

三田:
行政実務研修員として東京都から出向しています。都ではデジタルサービス局に所属し、各局のデジタル化の支援や行政手続デジタル化のための計画策定、デジタルツイン事業(※2)を経験しました。現在はデジタル庁の給付支援サービスチームと地方業務システム基盤チームに在籍しています。

(※2)建物や道路、地形、気象や人の流れなど、現実空間にある様々な情報をデジタル空間上で「双子(ツイン)」のように再現するもの。

東京都が独自給付として実施する子供・子育て支援「018(ゼロイチハチ)サポート」では、今年度新たに給付対象となる方の申請受付で「給付支援サービス」が利用されています(※3)。リリースにあたって、私自身は都とデジタル庁のリエゾンとして、ドキュメントの管理や調整を担当しました。

(※3)東京都が独自給付として実施する子供・子育て支援「018(ゼロイチハチ)サポート」において、2024年6月11日より、今年度新たに給付対象となる方の申請受付が開始されました。この申請受付において、「給付支援サービス」が利用されています。018サポートにおける給付支援サービスの利用を可能にするため、親子のマイナンバーカードをスマホで読み取ることで家族関係を自動で判定する機能追加を東京都及びGovTech東京と協働して行いました。これにより、健康保険証などの家族関係を確認する書類の添付が不要となります。

――都での経験は、デジタル庁での業務においてどのように活かされていますか。

三田:
自治体職員の目線で、「給付支援サービスを各自治体の業務に適用できたら、現場の職員にとって、どのようなメリットがあるか」をお伝えすることができました。

行政サービスでは、住民の皆さんはもちろん、自治体職員が使いやすいかという視点も大切です。実際に給付の現場で給付支援サービスを運用したり、住民から問い合わせを受けたりするのも自治体の職員の皆さんです。

だからこそ、自治体の方たちには納得感を持って使っていただけるようにサービスを提供し、サポートしていくことが大切だと考えています。ここでも自分の経験を活かすことができました。

また、今回の018サポートに関わる給付を担当するメインの部署は都の福祉局ですが、都政のDXを所管するデジタルサービス局、同局と協働して都や都内自治体のDXを推進するGov Tech東京という組織もあります。

018サポートとの連携にあたっては、多様なステークホルダーとの間でさまざまな調整が求められましたが、都職員としての経験があったことで、必要となる工数やリソースを事前に想定することができ、導入までのロードマップをスムーズに進めることができました。

――自治体からデジタル庁への出向職員だからこそ経験できることややりがい等があれば、ぜひ教えてください。

三田:
デジタル庁ならではのポジティブな文化だと感じているのが、民間出身の方と行政職員がフラットに意見を言い合えることです。

私たちのチームでは、自治体の業務に精通した出向職員と、民間からの専門家が共にサポートしあっています。

官・民を問わず、またデジタルに関わる仕事の経験があるかどうかに関わらず、色々な人材がいるからこそ、1ユーザーとして「ここはこうした方がよくなりそう」とフラットに意見を交わせる環境は、自分にとっても大いに学びになっています。

「給付支援サービス」は小規模自治体にも大きなメリット

戦略・組織グループ・行政実務研修員の木幡(豊頃町から出向)

――木幡さんのこれまでのキャリアと、現在の業務について教えてください。

木幡:
2024年4月より、北海道の豊頃町から出向しています。役場に入る前は民間企業に勤めていました。帯広市で生まれ育ち、大学卒業後は化学メーカーに入ったのですが、地元で仕事をしたいと思い、縁あって帯広と同じ十勝地方にある豊頃町に採用され、12年ほどになります。

豊頃町では財政担当として予算策定を、また財産管理部門では契約担当を務め、その後情報システム担当を務めました。小さな基礎自治体ですから、ベンダーとのやりとりからPCのメンテナンスまで、システムに関わることは何でもやりました。

直近の2年間は防災担当だったのですが、情シス担当の経験からデジタル庁への出向の話をいただき、今に至ります。

現在は情報連携基盤刷新班(給付支援サービス担当)の調達担当、預貯金口座2法班を兼務し、次年度の事業者との保守契約や開発に調達、最近始まった特定公的給付に関する自治体からの問い合わせに対応しています。

――実際にデジタル庁で働く中で、戸惑った部分や、逆にイメージが変わった部分はありますか。

木幡:
そうですね。これまでは自席の電話が鳴り、紙にハンコを押してもらって決裁をとる……という文化が当たり前だったので、はじめはSlackやTeamsを用いたチャット文化に戸惑うことがありました。ただ、使っていくうちにチャット内で検索や質問をすることにも慣れ、業務にも馴染んでいくことができました。

入庁前はデジタル庁に対して「規模が大きい国の機関」という漠然としたイメージを持っていましたが、実際に入ってみると幹部との距離も近いですし、フラットな組織だと感じます。部屋の扉が常時開放されている幹部の部屋もあり、聞きたいことがあれば誰でも入れることにも驚きました。

――調達業務に関して、自治体とデジタル庁で異なることはありますか。

木幡:
事業者の目処をつけ、見積もりをして入札という流れは変わらないので、豊頃町にいたときの経験が役立っています。

違いを感じるのは予算のスケジュール感や決裁のプロセスです。豊頃町のような小規模自治体だと、10〜11月頃に予算の見積もりがはじまり、財政担当者と直接話して終わるのですが、デジタル庁では前年度の4月、もしくはそれより前から見積もりがはじまり、さまざまな関係者を経て予算が決まります。

ただ、予算案だけでなく仕様書の内容や予算の執行状況にもレビューを入れてもらえるなど、手厚いサポートを受けられる体制があることは、自治体からの出向職員としては非常に安心できました。

――木幡さんの出身元のように、基礎自治体にとって「給付支援サービス」にはどのようなメリットがありますか。

木幡:
今般の特定公的給付のような申請を住民から受ける場合、従来の紙ベースでの申請に慣れている自治体もまだあるかと思います。ただ、人口減少により自治体の職員も不足していくと言われるなかで、給付支援サービスは自治体の職員一人ひとりの事務や作業の負担の軽減にもつながると感じます。

申請する住民の皆さんにとっても、わざわざ役所に出向かず自宅からスマホで申請から給付まで完結できるというメリットがあります。役場まで出向くことがなかなか難しい地域にお住まいの方ほど、より大きな利便性を感じていただけるかと思います。

――自治体からデジタル庁に出向したからこそ経験できているやりがいなどはありますか。

木幡:
振り返ってみると、自治体で勤務していたときはニュースを見て国の方針を初めて知ることもあり、私自身、国と自治体の連携に受け身だったかもしれません。

ただ、デジタル庁に出向し、担当するサービスに対して自治体の皆さんから寄せられる問い合わせに対応することで、自治体と国、双方の意向や考え方を具体的に学ぶことができました。

たしかにデジタル庁は国の行政機関ですが、個々の政策やサービス、プロダクトを担当している各部署のチームは少人数の場合も多々あり、私たちのチームのように自治体からの出向職員が参画しているチームもあります。「こんなことを言っても、きっと無駄だろうな……」と思っていることでも、「とりあえず相談してみよう」と思っていただけるよう、日々業務に取り組んでいます。

また、デジタル庁での経験は自治体に帰任した際にきっと役立つものであると感じています。特に、国がどのような考えに基づき、どのようなスケジュール感で政策を進めようとしているか。こうした観点は、今後、豊頃町に戻った際にも「この時期にこういう動きがあるな」と分かるようになるので、現場での業務に活かせるものだと思います。


◆これまでの「デジタル庁の職員/チーム紹介」記事は以下のリンクをご覧ください。