見出し画像

「この国に暮らす、すべての人を前に……」これからの時代の国家公務員として、デジタル庁で働く意義

誰一人取り残されないデジタル社会の実現を目指すデジタル庁では、多様な経験や豊富な専門性を持つ様々な人材が活躍しています。
 
今回のデジタル庁noteでは、財務省からデジタル庁に出向し、マイナンバー法の改正やマイナンバー情報総点検などに携わった林良樹参事官補佐に、国家公務員を目指した理由やデジタル庁だからこそ得られる経験、やりがいについて聞きました。

プロフィール:
デジタル社会共通機能グループ/参事官補佐(現・在英国日本国大使館 二等書記官)
林 良樹


2015年4月財務省入省。財務省にて法令審査(大臣官房文書課)や国税調査(高松国税局)、海外税制調査(主税局調査課)等に従事した後、総務省自治行政局にて特別定額給付金事業の企画を担当。人事院の研修制度による米国留学(南カリフォルニア大学/ジョージタウン大学。カリフォルニア州弁護士資格取得)の後、2022年6月より2年間デジタル庁で勤務し、2024年7月より外務省・在英国日本国大使館に出向。

(※記事の内容は、2024年7月に実施したインタビュー当時の情報に基づきます)

あるテレビドラマをきっかけに、法律に関わる仕事を目指した。

インタビューに応じる林のバストショット。椅子に腰かけ話をしている様子を、左斜め前から撮影している。
インタビューに応じる林参事官補佐

――林さんは2015年4月に財務省に入省され、国家公務員としてのキャリアは10年目ですね。そもそも国家公務員になろうと思ったきっかけについて教えてください。

林:
もともと法律関係の仕事には就きたいと思っていました。小学生の頃は、法律家が主人公のテレビドラマを見て弁護士に憧れを抱き、大学では法学部、大学院はロースクールで学びました。 

大学院時代に、たまたま国家公務員志望者向けの説明会に参加し、財務省の職員のお話を聞く機会がありました。

それまで私自身、目の前の困っている方を助ける弁護士のような視点で物事を考えていました。ただ、この説明会で「日本という国全体や国民の幸せ全体のことを考えながら、日本が世界の中でどのような立ち位置で、どのように国を営んでいくかということを深く考え・調整し・実践していく」という、それまで全く考えたことがなかった行政官ならではの幅広い視点に興味を持ちました。

それまでは司法試験を目指して勉強をしていましたが、国家公務員も面白そうだなと。そこで、司法試験と国家公務員試験の両方に挑戦し、運良くいずれも合格しました。

弁護士と行政官、どちらの道に進むべきか。自分なりに考えたのが、それぞれの仕事の使命です。

たとえ話ですが、自分の中ではそれぞれの使命をこう考えました。もし、周りの人よりも1メートル遅れている人がいれば、皆と同じ地点に戻れるようにサポートをする。周りの人よりビハインドがある人を助けることができる。これが弁護士の大切な仕事の一つではないか、と。

一方で行政官は、1億2000万人以上の国民の皆様全員を前に進めることができる仕事でないか、と。もちろん、国民全員を前に進めるような政策には、多くの方々との丁寧な合意形成が必要です。いきなり全国民を1メートル前に進めることは難しい。もしかしたらはじめは1センチ、2センチかもしれない。

それでも、この国に暮らすすべての人が少しでも前に進むお手伝いができるかもしれない。日本はすでにある程度社会が成熟している一方で世界全体がダイナミックに前に動いている中で、どのように国を前に進めるかは簡単には答えは見つからないかもしれないが、チームメンバーやいろいろな方々とともにその答えを探すのはとても面白いのではないかと。そう考えて国家公務員になることを選び、2015年4月に財務省へ入省しました。

今ちょうど入省して10年目です。入省当時は右も左もわからなかったですが、先輩や同期に助けられて社会人の基礎を学ぶことができました。コロナ禍での緊急経済対策である特別定額給付金の事業(10万円給付)に従事したときなど大変な時期もありましたが、チームみんなで対応することで乗り越えることができました。国家公務員は2年前後の期間で担当する業務が変わることが多く、日々勉強をする必要がありますが、常に周りの職員に助けてもらい、明るく働くことができています。

丁寧な説明を重ね、「合意形成」を進めていく

インタビューに応じる林のバストショット。

――現在は出向でデジタル庁での業務に携わっていますが、具体的な仕事内容について教えてください。

林:
私自身はマイナンバー制度の担当をしてきました。具体的には、デジタル庁での2年の出向期間のうち、前半はマイナンバー制度を前進させるためのマイナンバー法の改正(2023年マイナンバー法改正)を、後半はマイナンバー情報総点検というマイナンバー制度の基礎を整備し直すというプロジェクトに携わりました。コアメンバーは15〜20名ほどで20〜30代が大多数の比較的若いメンバーで構成されており、常にフラットな関係性の中でチームメンバーが協力しあって業務を進めています。

思えば、デジタル庁に出向してからはずっと勉強の毎日でした。私自身はド文系の人間でデジタル庁に出向するまでにデジタル政策に関わったことはなく、IT用語もわからず、マイナンバーに関する知識も全くなく、最初はチームメンバーの話についていくのも大変でした。もっとも、デジタル庁では職員向けの勉強会が頻繁に開かれており、民間・自治体・国出身の職員がそれぞれの知識を共有する仕組みがあり、とても助かりました。また、一番勉強になるのは実際の政策担当者から直接お話を伺うことです。私は、日課として日に2回庁内全体をぐるぐる回り、色々な部署の方々と顔を合わせ、それぞれの政策の内容や進捗状況を実際の担当者から教えてもらっています。 

また、デジタル庁では情報法や工学、情報システムの有識者の方と頻繁にお会いできることができ、こうした有識者の方から学べる機会は自分の知見を広げる上でも大いに役立ちました。

勉強を重ねることで、今自分が担当している業務だけではなく、政府のデジタル政策全般を背景知識が全くない方に説明できるぐらい理解しておくことが大切だと思っています。

――学ぶ機会が多いことは、非常に魅力ですね。

林:
デジタル庁では、民間出身か行政出身か、また若手かベテランかを問わず様々なバックグラウンドの職員が集まっており、それぞれが専門的かつ膨大な知識を持っています。気になったことや質問にもいつも丁寧に回答していただけますし、フリーアドレス制度も導入されているため、風通しがよく、コミュニケーションが取りやすい環境です。 

幹部職員もみな、「困ったことやわからないことがあれば、いつでも部屋に来ていいよ」と言ってくれるので、すぐに相談ができますし、チャットツールを通じて気軽にチャットやオンラインミーティングもできます。こうした学び合いのマインドが根付いていることはデジタル庁らしさだと感じています。

デジタル庁では役職の上下にとらわれず、職員みながお互いを「さん」付けで呼ぶようにしているほか、対面でもオンラインでもフラットに会話や相談ができるのでとても仕事がしやすいです。また大臣や幹部への説明、チーム内のミーティングでも紙の資料は必要なく印刷の手間などを省くなど、業務の中身の検討に集中できる働き方を率先しています。

また、他の府省庁と比べてもまだまだ新しい組織なので人員が少ないこともありますが、その分若手の職員も活躍できる機会が多いこともデジタル庁の良いところだと感じています。

例えば、新しい法律や法律の改正など、政策の方向性を決める上では多くの方々に影響を及ぼすことになることから、それらの方々との合意形成が必要です。私自身も国会議員や大学教授などの有識者、業界の方々、自治体職員の方々など様々なステークホルダーへのヒアリングや政策の説明に携わりました。

こうした機会で私たちが考える政策などを説明した際に、「それなら、こうしたらもっといいと思うよ」と、具体的なアドバイスをいただくことがたくさんあり、そういった助言を政策形成に反映しています。

特に、私たちデジタル庁職員が作成した法律「案」、が法律として成立するためには、国民から選ばれた代表者である国会議員で構成される国会でご審議いただきます。マイナンバー法の改正時も、他省庁とも連携しながら「どうすれば国民の皆さまの利益になるか」ということを必死に考え、多くの関係者からご意見をいただくことができました。

このように、合意形成をしながら政策を前に進める仕事に携われることは、国家公務員の醍醐味の一つだと思います。

――民主主義のプロセスにおいて合意形成の重要性が伝わる話ですね。具体的に、どのような点を工夫して合意形成を進めたのでしょうか。

林:
国民の皆さまにどのようなメリットをご提供できるかを、わかりやすく、真摯にご説明することに務めました。 

例えば、これまでマイナンバーを利用できる行政事務は税や社会保障・災害対策に関わるものに限られていたのですが、2023年の法改正により、それら以外の行政事務でもマイナンバーの利用の推進を図ることになりました。。

これにより、より多くの分野で、マイナンバーによる行政機関間の情報連携が促進され、国民の皆さまがわざわざ役所に足を運んで書類を提出していただく手間を減らすことができる他、人口減少の中で担い手が減少している自治体職員の事務負担の削減を図ることができています。

2023年マイナンバー法改正では、マイナンバーカードと健康保険証の一体化を進めることも一つの内容でしたが、これも国民の皆様の利便性を高める取組です。マイナ保険証をご利用いただくことで、患者さまの同意があれば、他の病院でどのような薬を処方されているかといった薬剤情報を、医師が確認できます。お薬手帳を忘れてしまっても患者さまの薬の飲み合わせなどをその場で確認できるため、安全・安心な医療の提供をさらに進めることができます。

このように、国民の皆さま一人ひとりの暮らしがより良くなるような観点を丁寧かつ真摯にご説明することが、政策の合意形成を進める基礎になっていると思ます。

これからの時代の国家公務員として、デジタル庁で働く意義とは。

インタビューに応じる林のバストショット。椅子に腰かけ話をしている様子を、右斜め前から撮影している。

――これまでのキャリアを振り返って、印象に残っている仕事はありますか。

林:
2020年にコロナ禍で担当した業務について、個人的に「宿題」と感じていたことがありました。ご承知の通り、コロナ禍において政府は日本にお住まいの皆さま一人あたり10万円を支給しました。私は当時、総務省につくられたこの10万円給付の対応チームに参加しました。支給の手続において国民の皆さまに手書きで口座番号を記入し郵送していただくお手間をおかけし支給まで時間がかかってしまったケースもありました。また当時自治体は医療面での対応で必死な中、10万円の支給で大きな負担をおかけしてしまいました。 

その反省を踏まえて、国では、緊急時の給付金などを国民の皆さまに迅速かつ確実に給付できる基盤を整備するために、「公金受取口座登録制度」の拡充に取り組んでいます。2023年マイナンバー法改正では、デジタルに不慣れな方でも簡単に公金受取口座を登録できるようにすることで、各種給付の迅速化を図っています。

◆参考:国民の皆さまの利便性向上につながる「改正マイナンバー法」などが施行されました

また、マイナンバー情報総点検ではマイナンバーの紐付け誤りの解消や再発防止対策に取り組みましたが、各自治体や各省庁と緊密に連携し業務にあたりました。自治体が効率的に点検できるように点検支援マニュアルの作成や新たに紐付け誤りが生じないよう自治体向けに横断的ガイドラインの作成なども行い、マイナンバー制度を基礎とするデジタル社会の基盤を再整備することにもつながったと思います。また総点検では、点検対象が多くなる大規模自治体向けに点検がスムーズかつ正確に行うことができる点検ツールの開発・提供も行いました。

総点検のプロジェクトは、地方自治体から出向している職員、民間出身のシステムエンジニアやプロジェクトマネージャ、広報部門の方々など様々なバックグランドをもった職員がそれぞれの得意分野を生かして助け合い成し遂げた、まさにデジタル庁らしい、デジタル庁だからこそやり遂げることのできたプロジェクトだったと思います。

総点検のプロジェクトでは、チームでの役回り(企画・調整担当)を評価していただき、庁内の表彰制度「MVV Award」(※)を受賞することができました。表彰理由は大規模なプロジェクトを円滑に進めたことでしたが、デジタル庁では皆が積極的に助け合う文化ができており、私自身周りの職員にたくさん支えていただきました。デジタル庁の職員として、マイナンバー制度の安全性や信頼性を確保する仕事やその利便性を高める仕事に携われることに、大きな責任とやりがいを感じています。

(※)「MVV Award」とは組織文化醸成を目的に、デジタル庁のミッション(M)・ビジョン(V)・バリュー(V)を体現した組織(チーム)と個人を表彰し、ロールモデルとして庁内に共有することで、ミッション・ビジョン・バリューのさらなる浸透を図る取り組みです。​

――最後に、国家公務員を志望している方へのメッセージをお願いします。

林:
私自身、国家公務員として働いていますが、幅広い分野での勉強ができるのは楽しいですし、合意形成のプロセスを学ぶ機会やチームで困難なプロジェクトを達成する機会を得られました。仮に将来的に民間企業に転職するとしても、ファーストキャリアとして国家公務員を選ぶことは非常に有益だと考えています。国家公務員は様々な人と出会える仕事でもあるので、きっと楽しみながら仕事に取り組むことができると思います。特にデジタル庁は、特定の行政サービスや情報システムのみならず、デジタル政策というツールを使って幅広い政策を前に進めるチャンスが数多くあります。これは私の出身の財務省が財政や税制といった横串のツールを使って社会を前に進めていっているのと同じだと思います。

戦後復興期や高度経済成長期と比べると、今の社会にある種の悲壮感を持つ方もいらっしゃるかもしれません。日本のGDPは世界4位となり、少子高齢化が進んでいます。労働人口が減少する中、行政サービスの質や量を維持することも難しくなる可能性があります。

ただ、こうした中で、デジタル庁が果たせる役割は大きいと感じます。前例を守っているだけでは、成長は難しい時代です。デジタル庁では、医療・教育・防災・こども等の準公共分野のデジタル化、デジタル化による成長戦略、デジタル化による地域の活性化など、これからの日本の社会を維持・発展させる上で必要不可欠な政策を進めています。このような政策を進めるためには、多種多様なバックグラウンドをもった職員が必要です。またデジタル庁では業務に必要な知識や経験を得られる機会が多数あります。少しでもデジタル庁の政策や働き方にご関心がありましたら、お気軽にデジタル庁にお問い合わせいただければ嬉しいです。


◆デジタル庁の新卒採用(国家公務員採用試験)に関する情報は以下のリンクをご覧ください。

 ◆デジタル庁の採用イベント情報は以下のリンクをご覧ください。

 ◆デジタル庁の職員/チームを紹介する記事は以下のリンクをご覧ください。