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「前例主義」を乗り越え、国と自治体が連携する未来を。大阪府・佐向、デジタル庁 江崎・本丸が語る、行政におけるアーキテクチャ――第5回「Govtech Meetup」レポート
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「前例主義」を乗り越え、国と自治体が連携する未来を。大阪府・佐向、デジタル庁 江崎・本丸が語る、行政におけるアーキテクチャ――第5回「Govtech Meetup」レポート

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デジタル庁は、国内のGovtech(行政の利便性を高めるテクノロジー)に関わる関係者のエコシステム形成を目指す「Govtech Meetup」を2021年12月から開催しています。2022年3月までに計7回の開催を予定しており、先日は第4回のレポートを公開しました。

2月24日に「デジタル庁が考えるアーキテクチャ」というテーマで行われた第5回は、大阪府スマートシティ戦略推進室 戦略企画課で、広域データ連携基盤の実現に向けて尽力する佐向正さんが登壇。デジタル庁からはChief Arichitectの江崎浩、国・地方デジタル基盤統括の本丸達也、モデレーターとして人事・組織開発の唐澤俊輔が参加しました。

今回は、「国や自治体、企業がどう連携していくべきか」というテーマから始まり、デジタル化を進める上での課題、大阪府の事例から見えてくる可能性などが議論されました。

ゲストプロフィール
佐向正:
IT会社にて基幹システムの企画・構築やデータ利活用のコンサルテイングに従事。日本の未来のために東京一極集中の歯止めと地域のデジタル化が重要と考え、現在は大阪府スマートシティ戦略部で地域デジタル化の要となる広域データ連携基盤の実現に邁進中。

江崎浩:1987年 九州大学 工学部電子工学科 修士課程修了。同年4月東芝入社。1990年より2年間 米国ニュージャージ州 ベルコア社、1994年より2年間 米国ニューヨーク市 コロンビア大学にて客員研究員。1998年10月より東京大学 大型計算機センター助教授、2001年4月より東京大学 情報理工学系研究科 助教授。2005年4月より東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授(現任)。WIDEプロジェクト代表。MPLS-JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長、日本データセンター協会 理事/運営委員会委員長、2021年9月から、デジタル庁 Chief Architectも兼任。工学博士(東京大学)。

本丸達也:内閣官房IT総合戦略室でデジタル基盤を設計するアーキテクチャチームのとりまとめを担当後、デジタル庁の国・地方デジタル基盤統括に。愛媛県のCDO(最高デジタル責任者)補佐官を務めながら、自身が代表を務めるリベラ社にて、デジタルツイン志向で物理・仮想都市空間基盤を設計。同時に、大学院博士課程(都市工学)でグラフニューラルネットワークを用いたAIモデルによる都市シミュレーションも探求中。

「誰一人取り残さない」を「誰一人取り残されない」に

イベント冒頭、1つ目のトークテーマに設定した「自治体と企業、国がどう連携するか」に入る前に、デジタル庁が考えるアーキテクチャの定義について江崎と本丸が言及しました。

日本語では「構造」を意味するアーキテクチャ。情報システム全体の構造に限らず、「実際にどう開発するか」といった実装部分や、「ユーザーがどう動くか」といった運用管理も踏まえて設計することをアーキテクチャと捉えている、と2人は強調します。

デジタル庁は、1741の自治体や企業など多様なニーズを持つステークホルダーが多く存在します。各組織の個性を生かしながらどうアーキテクチャを構築するか、日々悩みながら考えていると話す本丸。いかに組織間の連携を進めるかという観点で、議論は進みました。

江崎:デジタル庁は、これまでミッションに「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を。」を掲げてきました。ただ「デジタル社会の実現に向けた重点計画(2021年12月24日閣議決定)」の策定に係る「デジタル社会構想会議」での議論等を踏まえ、2022年3月に「誰も取り残されない」と表現のアップデートをしています。これは国が一方的に「こうしろ」と指示をして自治体や企業におりる形ではなく、一緒に手をとり、協力しながら進めていこうという意志が込められています。

吉村知事就任とスマートシティ戦略部の立ち上げ資料の説明。スマートシティ戦略部の経緯と役割が記載されている。
大阪府スマートシティ戦略部立ち上げにおける資料

佐向:大阪府では、吉村知事が2019年4月の就任会見で「スマートシティ戦略部」立ち上げを表明し、1年後に正式設置しました。スマートシティに関する計画・実装の他、行政のデジタル化推進、規制緩和などを進めています。ようやくデジタル化に関してスタートラインに立ったフェーズなので、デジタル庁と一緒に未来を考え、頑張っていきたいですね。

本丸:国や自治体は個人情報などセンシティブなデータを持っているので、特にバッグエンドはユーザーが安心して行政サービスを使えるよう設計をしなければいけません。一方で、多様なニーズに応えるためには、いかにフロントエンドを柔軟に変えられるかが重要です。そのため、安心安全は国や自治体が守り、その上で企業には新しいテクノロジーを使いながらフロントエンドの利便性をよくしてもらうといった連携が求められると思います。

江崎:多様なニーズに応えるという観点では、すべての人を1つの方法でカバーするのは非常に時間がかかるし、デジタル庁としてやってはいけないと考えています。多くの方にとって使いやすい低コストな方法はもちろん用意しますが、アクセシビリティの担保する必要のある方に対して、テクノロジーを活用してサポートすることも非常に重要と考えています。

「市場が小さいのに」と感じる方もいるかもしれませんが、その過程で生まれる技術、ソリューション、ルール設定は、大きなイノベーションにつながる可能性を持っています。エジソンが電話を開発したのも、最初は自由に移動ができない人のために作ったとされていますよね。その後、みんなが使うようになった。最初はマイノリティのためと考えていたかもしれないものが、実は人々の普遍的なニーズの解決に広がっていくということなんです。

デジタル庁 Chief Architectの江崎浩が話している様子
デジタル庁 Chief Architectの江崎浩

異質な人を喜んで受け入れ、能力や発想を生かす姿勢を

続いてのトークテーマとなったのは、「デジタル化を進めていく上での課題、事例」についてです。江崎はさまざまな自治体を訪問した経験の中で、デジタルツールを活用しているものの、無駄な作業を人間がやってしまっていることが多いと、課題意識を語りました。

例えば、本来はスクリプトを作成することで自動化できる部分を、手作業で入力し、印刷して確認するといった作業が発生しているそう。こうした課題には、業務の多くが個別最適化されており、全体最適を目指す文化がないことが背景にあると、佐向さんは語ります。

佐向:「このデータを毎回、手入力するのは非効率ですよね」という発想が生まれないんですよね。予算請求をするときに必ず言われるのが、「今できているのに何であかんの」という言葉です。「全体最適のため」と答えると、「各部署はそれを欲しいと言うたんか」と。

インフラは後から効果を実感するものが多いので、なかなか整える前のタイミングで全員にメリットを感じてもらうのは難しい。こうした背景もあり、中の人材が育たず、挑戦したいと思っている若い子がいたとしても、しにくい環境が生まれている状況です。未来を見据え、デジタル化を推進するためのインフラ整備をすることが重要と考えています。

デジタル庁 国・地方デジタル基盤統括の本丸達也が話している様子
デジタル庁 国・地方デジタル基盤統括の本丸達也

本丸:私はデジタル庁、愛媛県のCDO補佐官、企業の代表と3つの立場がありますが、その中で日本は「前例主義」の文化が残っていると感じています。これまでやってきた仕事を継承するのは大事なことかもしれませんが、デジタルの文脈で求められるのは、「新しいアイデアでいかに成果を出すか」です。両者は全く違うベクトルを向いていると思います。

そのため、新しい挑戦をするカルチャーが組織にないと、特に若い人がデジタルに対して新たな解を出していくのは難しくなります。異質な人を喜んで受け入れ、その人の能力や発想を生かす姿勢が、デジタル庁も含めた国や自治体、企業に求められるでしょう。

もう1つ課題に感じているのは、業務の中で触れられるデータに限りがあることです。担当ごとに「見ていいデータ」と「見てはいけないもの」が決まっていますが、デジタル化やデータ連携を進めるうえで、ここでの制約を少なくできるかというのも重要な視点です。セキュリティを担保しながら、制度や運用の方針を変えていく必要もあると考えています。

江崎:制約を少なくするのは、規制緩和にも通じる話ですよね。業界用語だと「疎結合」という言葉を使いますが、余白をつくることによって、新しい挑戦が生まれやすくなりますし、何か障害が発生したときも柔軟に対応できる。そんな状態にしていくことをデジタル庁は目指したいですし、新しい挑戦を積極的に讃える文化もつくれたらと思っています。

多様な人々の視点を取り入れ、安全安心を保つ仕組みを

大阪府スマートシティ戦略推進室 戦略企画課の佐向正さんが話している様子
大阪府スマートシティ戦略推進室 戦略企画課の佐向正さん

デジタル原則を踏まえた「国のデジタル政策を先導する取組み」。

大阪府が2022年4月に策定した「スマートシティ戦略Ver.2.0(案)」の理念には、このような文言が記されています。大阪では、2025年に開催される「大阪・関西万博」に向けて、デジタル化に関するさまざまなプロジェクトが進行。中でも重要な位置付けとされているのが、都道府県で初の広域データ連携基盤「ORDEN(オルデン)」の構築です。

2022年度には、オプトイン(個人情報の取得に関する本人の同意)によるID登録をもとに個人のニーズに合わせたサービスを提供する「コミュニケーション基盤」、多様なデータを連携させることでサービスの高度化を目指す「データ連携基盤」の整備を進める予定。国が提供する「マイナポータル」や自治体・民間のデジタルサービスとの連携も進め、「住民の利便性向上と自治体・民間事業者の負担軽減を目指す」と、佐向さんは話します。

ORDENの具体的なサービスイメージとして、「チケット情報や交通情報をもとに、万博の来場者が混雑を避けながら、それぞれの趣向に合わせた観光スポットを周遊体験できるようなルート案内をすること」が紹介されています。
ORDENの具体的なサービスイメージとして、「チケット情報や交通情報をもとに、万博の来場者が混雑を避けながら、それぞれの趣向に合わせた観光スポットを周遊体験できるようなルート案内をすること」が紹介されています。

データ連携基盤を構築するうえで重要なのが、個人IDなど重要なデータを国や自治体がどう管理し、ユーザーに信頼してもらえる状況をつくるかという点です。最後のトークテーマ「今後どう進めるか」では大阪府の事例紹介とともに、このような議論が交わされました。

江崎:個人IDを活用した利便性の高いサービスをつくるのと同時に、どう信頼度を高く持ってもらえるかも、全体のアーキテクチャを考えるうえで重要な要素です。仮想化技術やクラウド技術が発達し、さまざまなデータを分散して管理できるようになってきました。

デジタル庁の場合、私たちがトラストアンカー(認証手続きで信頼を担保する起点)となり、自治体や民間企業向けにさまざまなサービス・機能を提供していくことを目指しています。そのために、分散されている状態でどうしたら安全を担保できるか、何か障害が起こったときにどうデータを守るのかを、本丸さんを中心に設計している最中です。

佐向:国が信頼を担保する仕組みを提供するのは、利用する自治体や国民にとっても分かりやすく、効率的なので良いなと感じました。個人IDについては私も明確な答えは持っていないのですが、サービスとセットになるものだと思うので、全てを国が用意するのではなく、自治体ごとのニーズに応じて独自のものをつくっていくべきだと考えています。

本丸:トラストアンカーというのは非常に重たい言葉で、日本は世界の中でも国と自治体の仕組みが変わっていて、それぞれの自治体によってデジタル化に対する意識も違うので、単純に効率化を進められばいいわけではないのが難しいところです。技術的な困難も多くありますが、江崎さんが紹介した形が実現すればまた違った世界が見えてくると思います。

今は技術的にできないことも多いですが、秘密計算や量子コンピューティングなどの実用化が今後進みます。10〜20年先の未来を見据えて「いかにAPIをキレイにするか」「疎結合にするか」「設計を分かりやすくするか」を検討していかなければいけません。
デジタル庁には優秀な行政官に加えて、自治体や民間企業から来た人材もいます。トラストアンカーになることの重さを認識し、多様な人々の視点を取り入れながら安全安心を保っていきますし、その過程を私たちからも発信していかなければいけないと考えています。

登壇者4人が立って横に並んでいる写真。左から本丸、左向さん、江崎、唐澤の順に並んでいる
第5回目登壇者のみなさん

最後に、あらためて江崎から「みんなで手を取り合い、頑張りましょう」とメッセージが投げかけられた後、パネルディスカッションは終了しました。その後、「ブレイクアウトセッション」としてZoom上で参加者の交流時間が設けられ、5回目のGovtech Meetupは幕を閉じました。当日の様子はYouTubeでも公開しているので、ぜひご覧になってください。

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