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政府職員を支えるインフラ「GSS」の使命 デジタル庁×農林水産省のプロジェクトチームに聞く

デジタル庁では、行政業務の効率化や政府職員の柔軟な働き方を実現するため、ITインフラの整備・改善に取り組んでいます。

その一環として、デジタル庁が主体となって行政機関の職員が安全かつ効率的に業務を遂行できるように提供している政府共通の業務実施環境がGSS(ガバメントソリューションサービス)です。

2023年(令和5年)6月9日閣議決定「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の抜粋資料画像。
2023年(令和5年)6月9日閣議決定「デジタル社会の実現に向けた重点計画」より抜粋

具体的には、霞が関および全国の府省庁拠点やデータセンター、クラウド環境等を結んだアンダーレイ、オーバーレイネットワーク環境から、職員が業務で使用するノートPC等のハードウェア、OSやソフトウェア、エンドポイントセキュリティ等のアプリケーション環境まで、業務上のITインフラ全般を包括的に管理・提供しているサービスを「GSS」と呼んでいます。

GSSでは最新技術を採用し、各府省庁の業務環境の統合を順次進めており、行政機関の生産性やセキュリティの向上を図っています。

今回のデジタル庁公式noteでは、行政機関の日常業務をインフラ面で支えるGSSの誕生経緯や役割、業務改善にもたらした具体的な効果について紹介します。

<デジタル庁>
省庁業務サービスグループ/GSS班運用チーム
参事官補佐 河野 圭

ネットワーク・エンタープライズユニット/GSS班農水省移行チーム
プロジェクトマネージャー 瀧山 稜太

省庁業務サービスグループ/GSS班農水省移行チーム
主査 小関 祐介

<農林水産省>
大臣官房デジタル戦略グループ 情報管理室
情報企画官(GSS移行支援チーム) 間下 崇生

大臣官房デジタル戦略グループ
係長(GSS移行支援チーム) 相澤 尚弘

大臣官房デジタル戦略グループ デジタル政策推進チーム 業務改革推進班係員 佐藤 柚弥

「GSS」で柔軟な働き方×最新セキュリティ対策を実現

インタビューに応じるデジタル庁の河野参事官補佐、小関主査、瀧山プロジェクトマネージャーの写真。
(左から)デジタル庁の河野参事官補佐、小関主査、瀧山プロジェクトマネージャー

――はじめに、GSSが誕生した経緯について聞かせてください。

デジタル庁・河野:
きっかけの一つとなったのが、2020年に新型コロナ禍でテレワークやオンライン会議の需要が高まったことでした。

もともと霞が関地区には各府省庁間を結ぶ「政府共通ネットワーク」があったのですが、政府職員が快適にオンライン会議を行うには十分とは言えないネットワーク環境でした。

また、各府省庁が独自にオンライン会議ツールやサービスを調達していたため、府省庁間で円滑なオンライン会議が実施できないといった状態でした。

そのため堅牢なセキュリティを確保しつつ、十分な回線速度を持つ新たな政府共通ネットワークと統一の会議ツールを確保することが喫緊の課題でした。

デジタル庁・小関:
この課題に取り組んだのが、当時の内閣官房IT総合戦略室(デジタル庁の前身)でした。

霞が関地区に整備されていたダークファイバー[※1]を使うことで、高速かつ安定した回線を確保し、府省庁間をつなぐネットワークを試験的に構築しました。これがGSSのネットワーク基盤の一つになりました。

[※1]ダークファイバー
敷設された光ファイバー回線のうち、未使用で光信号が通っていない・稼働していない芯線のこと。

ガバメントソリューションサービス(GSS)の紹介資料の画像。
ガバメントソリューションサービス(GSS)とは

――新型コロナ禍をきっかけに、世の中では働き方が大きく変化しました。行政でも柔軟な働き方やデジタル化への取り組みが進められており、GSSにはそのための役割が期待されています。

デジタル庁・河野:
GSSは、政府独自の回線網である「全国広域ネットワーク」の整備や高度なセキュリティに加え、政府の「クラウド・バイ・デフォルト原則」に基づき、クラウドによる適正なリソース分配を実装することで、迅速かつ効率的にGSS環境を各府省庁に提供することが可能となっています。そのため遅れが指摘される行政のデジタル化に資することが期待されています。

GSSの取り組みによって、柔軟な働き方とセキュアな業務環境を両立できれば、職員がより効率的に働くことができ、行政の意思決定も早く進められます。

行政のデジタル化、職員の柔軟な働き方、そして強固なセキュリティの実現。間接的ではありますが、GSSはこれらを実現し運用することで、国民の皆さまへのよりよい行政サービスの提供にもつながると確信しています。

――GSSはデジタル庁のウェブサイトで「政府共通の標準的な業務実施環境」や「政府職員の“働く”を支える」といった言葉で紹介されています。具体的にはどのような役割を担っているのでしょうか。

デジタル庁・小関:
GSSは行政機関で働く職員の皆さんの日々の業務を支え、生産性向上を図る役割を担っています。

かつて行政機関では電話やメール、場合によってはFAXで連絡を取り合っていましたが、GSS環境のLANシステム(PC、グループウェア等)であれば、チャットやオンライン会議等で業務を進めることができ、場所を選ばない働き方ができるようになりました。

また、クラウド上で文書を作成したり、共同編集したりすることも可能となったため、府省庁の垣根を越え、スムーズに協働できるようになりました。

現在までに人事院や農林水産省、個人情報保護委員会、こども家庭庁、消費者庁、宮内庁、内閣府などがGSSの業務環境に移行しており、今後はさらに多くの省庁が順次GSSに移行する予定です。

――実際にデジタル庁でも国会答弁案などをツール上で同時編集しながら作成しています。幹部を含め、書類のチェックはチャットで完結できます。テレワークで作業ができるため、以前と比べて職員の負担が軽減されたという声を聞きますね。

デジタル庁・河野:
クラウド上での文書の共同編集やチャットツールを用いた連絡などは、民間企業で広く取り入れられています。

また共同編集後の承認作業についても、ツールを活用した自動化ができるようになってきていて、職員の負担軽減に繋がっています。

もちろん政府全体の共通ネットワーク基盤なので、セキュリティは万全です。GSSではこれまでの「境界型防御」に加えて、最新のゼロトラストセキュリティ(境界型防御+端末防御)[※2]を採用し、高度なセキュリティ環境を実現しています。

[※2]ゼロトラストセキュリティ
「組織内は安全」「組織外は危険」という前提で構築された従来の境界型セキュリティに代わるセキュリティモデル。デバイス、オペレーティングシステム、ネットワークを含む「組織内外の全てを信用できないもの」として、全ての通信を監視し、都度認証するセキュリティ対策。

GSSにおけるゼロトラストセキュリティの採用によるセキュアな環境の実現を解説する資料画像。
GSSにおけるゼロトラストセキュリティの採用によるセキュアな環境の実現

デジタル庁・瀧山:
業務環境をGSSに移行した行政機関では、職員用PCや(PCで使用する)アプリケーションなどはデジタル庁が各組織の要望をヒアリングした上で仕様をとりまとめて、調達・管理をしています。

GSS導入前であれば、各府省庁がそれぞれで業務環境を整備していたので、GSSではこうした工数や費用の削減など全体コストの最適化が見込めます。

GSS導入前のインフラ環境は……?

インタビューに応じる農林水産省大臣官房デジタル戦略グループの間下情報企画官、佐藤係員、相澤係長の写真。
(左から)農林水産省大臣官房デジタル戦略グループの間下情報企画官、佐藤係員、相澤係長

――農林水産省はGSSを先行導入した行政機関の一つです。2022年10月に業務環境をGSSに移行しましたが、それまでにどのような経緯がありましたか。

農林水産省・間下:
2021年に内閣官房IT総合戦略室からGSSに参加してみないかと打診されたことがきっかけです。

もともと農林水産省も独自にPCやシステム、LANなどを調達していたのですが、将来的な省内システムの更新を想定していた中でこの打診がありました。

省内で検討し、「この機会にGSSに移行したほうが良いのではないか」という結論になり、参加を決めました。

というのも、先ほどコロナ禍をきっかけに行政機関のデジタル環境の課題が顕著になったというお話がありましたが、それは私たちも同様だったんですね。

――GSS導入前は、どのような業務環境だったのでしょうか。

農林水産省・間下:
過去に農林水産省で使っていたPCとLAN環境は、セキュリティが何重にも重なっていたことで、不便な面もありました。

コロナ禍に入った直後は、テレワークも難しい状況でした。霞が関にある本省では仮想デスクトップ基盤(Virtual Desktop Infrastructure。以下、VDI)があり、PCの持ち出しやテレワークがある程度は可能でした。

ただ、支給PCのスペックが低く、オンライン会議に対応できないこともしばしば。PCの画面が固まり、音声も届かないという状況があったんです。

全国約1200か所ある地方拠点にはVDIが用意されておらず、ほとんどが据え置き型の端末でした。拠点によっては共用端末しかなく、そもそもテレワークができない職員もいたんです。

コロナ禍でリモートワークの必要性が高まると、職員から業務環境の改善を求める声が寄せられていたのですが、GSSの導入がこのような課題の解決につながりました。

GSSで業務が円滑に、G7会合でも活用

――GSS導入後、業務環境はどのように変化しましたか。

農林水産省・間下:
わかりやすいところでは、支給されるPCのスペックが向上しました。かつては出退勤を記録する打刻システムを立ち上げるまでに最低5分かかっていました。

地方拠点では打刻システムの立ち上げに時間がかかるため、出勤時間を早めていた職員がいたそうです。GSS導入後は、PCもすぐ立ち上がり、電源を入れてから1分で打刻できるようになりました。小さなことかもしれませんが、こうした事例の積み重ねが、働きやすさの改善につながっています。

農林水産省・相澤:
ネットワークの回線速度が上がり、全職員がいつでもオンライン会議を主催できるようになったことも、テレワークの敷居を下げたと考えています。

海外出張でも、PCを持っていくことができるようになりました。どこにいても自身の端末を利用できるようになったため、業務がよりスムーズになったと感じます。

農林水産省・佐藤:
PCにはSIMが内蔵され、LTE回線が使えます。時間と場所を問わず、安全にGSSのネットワーク環境にアクセスでき、いつでもファイルの編集やオンライン会議ができるので助かっています。

農林水産省・相澤:
特に農林水産省の職員は、生産者さんや事業者さんのもとに伺う機会などもあり、用務先・出張先でもシームレスに作業ができるようになって助かっています。

主に据え置き型の端末が整備されていた地方拠点でも効果がありました。それまでは各拠点では持ち出し用のノートPCやWi-Fiルータ等をそれぞれ調達・管理していたからです。

GSS導入後は全ての職員に軽量のノートPCが支給されたので、こうした手間がなくなりました。「昔よりも外勤の準備が楽になった」という声がいくつも届いています。

農林水産省・佐藤:
実際、勤務地に関係なく、ゆとりをもって出勤できるようになりましたし、テレワークをする職員も増えています。私自身も午前中は在宅勤務、午後からは出勤のように、ライフスタイルに合わせて働いています。

農林水産省・間下:
国際会議などの現場でも、GSSの利便性は感じています。たとえば2023年4月に宮崎で開かれたG7農業大臣会合では、東京の本省と現地会場の職員がリアルタイムで共同作成し、その場で資料を印刷し、すぐ会議で使用することができました。

各職員が日頃使っているGSS環境のPCとプリンター、USBケーブルだけの非常にシンプルな構成で機材の手配も楽でした。回線もLTEだったので、ストレスなく通信ができました。

農林水産省・相澤:
4年前(2019年)も地方で国際会合があったのですが、当時は会場でネットワーク環境を構築し、持ち出し用のPCをバックアップ含めて何台も持ち込んで、メールで作業ファイルをやりとりし、それを取りまとめて……という状況でした。当時は関係者の負担も相当大きかったと思います。

幹部が率先してGSSを活用、現場にもスムーズに浸透

――GSS環境へのスムーズな移行のために、どのような工夫をしましたか。

農林水産省・間下:
導入にあたっては、まず省の幹部クラスに「GSSでどんなことができるようになるのか」を説明し、実際に使ってもらう研修を実施しました。

大前提として、幹部が活用できないシステムは職員にも浸透していきません。現場の職員がGSSの環境で効率的に業務を進めようとしても、決裁する幹部が紙の書類での提出や対面での会議を求めた瞬間、すべてがひっくり返ってしまうからです。

研修はとても好評でした。それまでは対面での会議が当たり前だったので、オンラインでの会議そのものが革新的だったようです。

研修での驚きや感想を他の部署やチームに伝えていく中で、省内の口コミでもGSS環境の快適さへの理解が広がっていきました。

農林水産省・佐藤:
移行チームと共に、(草の根的に)GSSの利活用を進める「GSSアンバサダー」も職員の中から募集しました。

参加してくれた職員は約200人。アンバサダー職員にはGSS環境のPCを先行貸与し、いろいろと触れてもらいながらGSSへの理解を深めてもらいました。

いざ移行本番となり全職員にPCを配布する時も、一般職員のフォローやサポートでご協力いただき、GSS環境の移行・浸透がスムーズに進みました。

GSSによって業務環境が整備されたことで、ようやく行政DXのスタートラインに立つことができたと実感しています。

ある地方拠点のLANシステム担当者からは、「端末やライセンスの調達、ネットワークの維持などの業務から解放されたことで、DX業務に時間を割けるようになった。働き方がいい意味で変わった」という声をもらいました。

今後も省内向けの研修を企画し、GSSのツールやアプリケーションを駆使できる職員をさらに増やし、将来的には農林水産省のノウハウを他の行政機関にも横展開するお手伝いができればと考えています。

――デジタル庁では農林水産省のGSS移行にあたって、どのような取り組みを進めましたか。

デジタル庁・瀧山:
まず取り組んだのはGSS環境の拡大です。当初のGSSは、当時700人ほどだったデジタル庁の職員向けのものでした。そこに約2万6000人の職員を擁する農林水産省の皆さんが入るわけですから、適切に整備する必要がありました。

また、GSSを構築する上ですべての業務を一括して一つのベンダーさんにお任せしてしまうと、開発後も依存し続けるベンダーロックイン[※3]の状態になる恐れがあります。

それを防ぐために、端末の借入やネットワーク構築など、調達を適切な単位に分けて、複数の事業者さんに入札いただくことで価格面も含めてより優れた提案について競争を促すことを目指しました。

[※3]ベンダーロックイン
特定ベンダーの独自技術に大きく依存した製品、サービス、システムなどを採用した際に、他ベンダーへの乗り換えが困難になる現象のこと。

農林水産省・間下:
PM(プロジェクトマネージャー)を、ベンダーさんではなくデジタル庁の瀧山さんが担当してくださったことも大きかったと思います。各ベンダーの取りまとめを民間企業に任せてしまうと、1者応札と変わらなくなってしまうからです。

行政機関の職員自らがPMとして指揮することは、画期的な試みだと思います。私たちの要望をヒアリングしていたただきつつ、事業者さんをとりまとめ、スムーズにGSS環境に移行できるようプロジェクトを進めていただけました。

GSSの取り組みさらに前へ デジタル庁は人材募集中

デジタル庁GSS班の写真。

――デジタル庁では、今後さらに複数の行政機関でGSSの導入・移行を控えています。GSSの取り組みに関する今後の展望を聞かせください。

デジタル庁・瀧山:
GSSを導入した行政機関の皆さんからは、よく「足回りがよくなりました」という話をいただきます。「PCの機能や、ネットワークが格段に向上し、業務環境が整った」と。

ただ、デジタル庁としては「ツールだけ提供して、あとは皆さんにお任せ」にならないように心がけています。GSS環境の整備・提供のみならず、GSSの利活用方法の提案や他の行政機関での展開事例などを共有し、皆さんのDXや業務改革も後押しできればと考えています。

デジタル庁・小関:
農林水産省さんをはじめ、GSSを導入した行政機関の皆さんは、より一層の業務効率化を目指し、GSSの利活用に取り組まれています。

デジタル庁としても、GSSへの期待に応えるため、さらなるサービスを開発し、提供していく必要があると感じています。

2023年度は、約3万人の政府職員にGSS環境の提供・管理を実施しました。2024年度以降は、さらに10万人規模の職員の皆さんへの提供を予定しています。

今後もGSSに求められるニーズに応え、品質を担保するための技術力と人材リソースを確保するのが近々の課題です。

デジタル庁・河野:
そのためにも現在デジタル庁では、GSSに関する業務に携わる人材を募集しています。

今回ご紹介した通り、私たちのGSSは高度なセキュリティと政府職員の柔軟な働き方を両立させ、国民の皆さんによりよい行政サービスを提供するための下支えとなるものです。

そんなGSSに携わることは、とてもやりがいがありますし、この点にモチベーションを感じてくれる方であれば、きっと活躍していただけると思います。

――現在、デジタル庁のGSS班ではどのような方が活躍されていますか。

デジタル庁・瀧山:
GSS班で働く職員のバックグラウンドは多岐にわたります。

たとえばSIerやITメーカー出身の方もいれば、他省庁と併任の方、地方公共団体から出向している方、大学教授などアカデミア出身の方など、経歴・キャリアはさまざまです。

最新のゼロトラストアーキテクチャの知見を深めることもできますし、デジタル庁の業務で得た知識を横展開することや、他の場所で学んだ知識をGSS開発へ応用することも可能です。

経験が循環する場をつくる意味でも、デジタル庁のGSS班は魅力的な職場だと思います。

デジタル庁・河野:
デジタル庁では、国内では最先端レベルかつ最大規模のシステムを扱っています。産官学から集まった、経験もキャリアも異なる人材たちが、課題解決のために日々努力しています。

多様な価値観に触れながら、自身の能力を高めたい方にとってはとても魅力的な組織だと思います。ご関心のある皆さまからのご応募をお待ちしています。

◆GSSに関するデジタル庁の採用情報は以下のリンクをご覧ください。

◆これまでの「デジタル庁の職員/チーム紹介」記事は以下のリンクをご覧ください。


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