はじめに、アーキありき。
デジタル(庁)アーキテクチャ ことはじめ
こんにちは!
内閣官房IT総合戦略室IT戦略調整官の本丸達也です。アーキテクチャチーム(技術)をまとめています。
一週間をRAID0でストライピングしているので、愛媛県のCDO(最高デジタル責任者)補佐官を兼ねながら、民間でデジタルツインといった物理・仮想都市空間基盤を設計し、大学院博士課程(都市工学)でオントロジーやグラフニューラルネットワークを用いたAIモデルによる都市シミュレーションを研究中です。いわゆる回転ドア(から抜け出せない)人材です。
自治体と国のあいだ
私は自治体と国の双方に籍があるため、本noteは自治体のみなさま、特に情報部門やデジタルを利用した業務改革や市民へのデジタル・サービスの改善に日々勤しんでいる方、を主な対象としてお伝えします。現段階では限られた情報の提供となりますが、今後、機会あるごとに様々な媒体を通して、デジタル(庁)アーキテクチャの方向性や自治体・国が利用する共通機能の概要、情報連携基盤の概要、統合型APIによるサービスの疎結合連携の仕組みなどを開示します。
アーキ、はじめました
透明感、説明責任という流れなので、本来、陽が当たらない舞台装置であるアーキテクチャにもバトンが回ってきたようです。まだデジタル庁設立前であり、アーキテクチャ設計はぷにょぷにょした生温かい状態ですが、透明感があるスケルトンのまま、お伝えしましょう!
アーキテクチャはミクロ・マクロあらゆるところに存在します。プロセッサのようにナノレベル精度の世界も、モノリス(一枚岩)と言われる巨大なレガシーシステムにも。
既存のアーキテクチャを再編し全体最適に近づけるには、机上の望遠鏡と顕微鏡を交互に覗いて図面に落とし込むような作業が必要です。できるだけ簡素にそぎ落としてから、新たなアーキテクチャ(メインストリーム)に接ぎ木します。
2021年夏の段階では、既存のシステムを「解体新書」して、大きな流れを設計しています。西洋の医学書を初めて翻訳した1774年当時と比べれば、苦労というにはおこがましいですが、その時々の制度設計を反映し、設計として最善を尽くしたレガシーシステムを紐解き、分解し、その後、モダンアーキテクチャに接合していくのはやはり容易ではありません。
トータルデザイン
その方向性の一端は「デジタル社会の実現に向けた重点計画(2021年6月版)」では「トータルデザイン」と称されているものに垣間見ることができます。
出典: 2021年6月デジタル社会の実現に向けた重点計画<概要>より
トータルデザインには1.UI・UXの改善、2.共通機能の整備・普及、3.データ戦略のそれぞれを滑らかに縫合するところに新たなアーキテクチャのエッセンスが含まれています。国民目線を最重視した柔軟かつ堅牢な設計思想で骨格を形成しつつあります。「重点計画」から引用します。
1.徹底した UI・UX の改善と国民向けサービスの実現
従来の行政分野ごとの個々バラバラなオンライン化や国・自治体等の提供者目線のシステム整備といったものはもはや意味がありません。国民目線での徹底したUI・UXの改善を前提とし、ユーザーの声を真摯に反映した「誰にとっても容易に、迅速に、行政手続きを終えられるよう、サービスを実現」、「変化の速い環境において、柔軟かつ迅速に変化に対応できるシステム等の環境整備ができるよう、民間との連携を図る」ことを目指しています。
2.デジタル社会に必要な共通機能の整備・普及
センシティブな情報を強固に保護することを前提に、行政機関間の情報連携基盤を刷新し、セキュリティを確保した上で、効率化とリアルタイム化を可能な限り追求します。併せてワンスオンリーを実現するため、行政機関の連携に対し、プッシュ型通知機能を組み込みます。
3.包括的データ戦略
「正確性や最新性が確保された社会の基盤となるデータベースの整備等を進めること」はデータチームが精微に設計しています。アーキテクチャチームはデータチームと密に連携して、データの分散管理を基本とした、安全安心に送達できるデータ連携基盤設計を進めています。
アーキテクチャで変わること
前述の「重点計画」は国の方針で、それゆえ重厚です。利用者目線でシンプル化した資料を併せてご紹介します。品質、コスト、デリバリー(QCD)の観点から、新たなアーキテクチャで変わることを例示しています。
アーキテクチャの意義
なぜアーキテクチャが必要なのでしょうか。
アーキテクチャはシステム全体の心柱です。各技術領域のプロフェッショナルたちと協働して全体最適を目指し、品質向上とコストの大幅な削減、リリースサイクルの短縮の実現を目指します。数、時間、質、そして未来へのリレーという4つの観点から説明します。
まず、数の話。
1,700を越える自治体、その中の基礎自治体でそれぞれ17業務の標準化。国、独立法人、準公共の1,000を越えるシステム群のうち、デジタル庁が所管・連携する数多のもの。国・自治体間や自治体・自治体間のN対Nの情報連携。この機に完全にリニューアルするシステムも多くあります。
「自治体情報システムの標準化・共通化」等と協働して、アーキテクチャが確立されていればシステムの個別化・孤立化を防ぎ、生産性高く対応できるかもしれません。「楽しいマーチ」になるか「デ〇マーチ」になるかは、アーキ次第です。
続いて時間の話。
2025年を目途に多くのシステムが移行します。全国で利用する緊急性の高いシステムであれば、可及的速やかなサービスリリースを必要とします。自治体システムを介して、国民生活の利便性に直結するため、綿密な移行計画をもとに統一されたアーキテクチャで効率よく、新システムに切り替える必要があります。時間との戦いとなります。
三つめは質の話。
利用しやすいUI・UX、確実なデータの受け渡し、入り口から出口までのセキュアな経路など、データの安全性、ユーザーの利便性を考慮した設計をサービス全般にわたってお届けすることができます。
最後に未来へのリレーの話。
アーキテクチャは技術の断絶的飛躍や制度の変更によって大きく変容します。私見では、国・自治体のシステムをレガシーからモダンにシフトするまでを1期、デジタルネイティブの価値観やクラウド・ネイティブ技術を全面に活用して、国・自治体・企業に新たなサービスを生み出すまでを2期、量子コンピューティングやオールフォトネットワークスの恩恵を受けて、仮想化社会と現実都市が融合するデジタルツインが萌芽する頃を3期と想定しています。トータルで10年以上かかる長い道のりになりそうです。
アーキテクチャ(チーム)が強靭であれば、次の世代の新しいアーキテクチャ(チーム)にもバトンがスムーズに渡せます。
アーキテクチャは制度とデジタルの二重らせん構造
民間エンジニアの目から見ると複雑怪奇に見えるシーケンスの流れも、法律や判例に基づいているもので代替ロジックを組み上げることはなかなか困難です。データの安全安心に係るところは先人の知恵に敬意を払うことが何よりも肝要です。
全体のバランスの中で制度を変更したほうがアーキクチャの風通しが大幅によくなるケースでは、思い切って制度とシステムの一体改善にチャレンジするという機会が幾度か生じることでしょう。アーキテクチャチーム内に行政官と民間デジタル人材の双方が所属しているため、従前は困難で時間を要した、制度変更を伴ったデジタルシフトの実現性が高まりつつあります。
実はチーム内では概念設計レベルで202X年を想定しながらブループリントを書き散らしていますが、まだまだお見せできる精度には至っておりません。各チームの知見を結集しながら、関係する府省と連携しながら、行政官と民間デジタル人材がシステムの実装・運用を想定したレベルまで磨きこんでいる最中です。
汎用性が高く、かゆいところに手が届くアーキテクチャを作り上げるには、息の長い内製活動が必要で、その成果物はデジタルでありながらも温もりが伝わるハンドメイド作品です。
絡まって一対になるアーキテクチャ
アーキテクチャはもともと建築・構造分野に由来する言葉です。広義には都市計画にも適用されます。
構造的観点からもデジタル的観点からも、アーキテクチャのゴールは同じで、何百万という人々の生活の質を高めること。リアル・アーキテクチャであるまちづくりやふるさとづくりが多くの人の幸せに直結するように、デジタル・アーキテクチャもまた、人、企業、学校、病院、自治体、国の利便性にダイレクトに影響します。
まちやふるさとはコード(規範)で住みよいものになります。
デジタル・アーキテクチャはコード(符号)で編み込みます。
現在、リアルとデジタルの空間のいずれで長く過ごしているかと言えば、特にここ1、2年は「デジタルシフト」されている方も多いのではないでしょうか。
デジタル・アーキテクチャはやがてまち・ふるさと基盤と絡み合い、融合するかもしれません。
まち・ふるさと基盤とデジタル基盤(仮)
自治体のみなさまであれば、都市計画やマスタープランにマッピングすると理解が進みやすいかもしれません。
デジタル基盤としての技術要素は代替案も含めて現在、検討しています。既存のシステム設計の延長で考えることなく、ゼロベースで見直しています。特に、情報連携やAPIゲートウェイ、サービスメッシュは「トータルデザインの方向性(令和2年9月)」で記載がある通り、統合的な基盤である「公共サービスメッシュ(仮称)」として、大きく変わる可能性があります。
デジタル(庁)アーキテクチャやそのデジタル基盤にはそれぞれのチームが高い専門性を十分に発揮して、一見しただけでゾクゾクする、美しい設計を次々と生み出しています。どこかでチラリとお披露目があることを期待して、(勝手に)表に記しておきます。
まち・ふるさと基盤とデジタル基盤(仮)のマッピングを試みましたが、無理が通れば、道理……、少し無理そうですね。
終わりに
「デジタル(庁)アーキテクチャ ことはじめ」、このあたりでインクがかすれてきました。次の機会があれば、もう少し具体的に紹介できることでしょう。
現在、官民が分け隔てなく、新しい世界の構築を志向して理想と現実のはざまを漂い、もがきながらも少しずつ前に歩みを進めています。みなさまの忌憚のないご助言が大きな推進力になるのは間違いありません。
振り返れば、半世紀ほど前に東京五輪、大阪万博を経て、都市の基盤が組み上がり、量的な高度成長期を迎えました。既視感がありますが、現在もまた、五輪、万博という流れです。
新たなデジタル基盤の構築が、もしかしたら、質的な高度成長の契機になるかもしれません。
センシティブなデータを確実に保護し、1億2千万超の人々の生活の質、数百万の企業・組織の利便性を高めるために、しっかりと気を引き締めて設計・構築を進めてまいります。
では、今日も一日、ご安全に!
アーキテクチャチームでは、新たな仲間として以下のプロフェッショナル人材を募集中です。デジタル庁が掲げるミッションやビジョンに共感いただける方からのご応募お待ちしています。
◆デジタル庁の中途採用に関する情報は以下のリンクをご覧ください。
◆これまでの「デジタル庁の職員/チーム紹介」記事は以下のリンクをご覧ください。