自治体窓口DXへの取り組み:「書かないワンストップ窓口」「窓口BPR」「窓口DXSaaS」について
こんにちは。デジタル庁窓口DX推進チームです。
デジタル庁では、住民と職員双方の負担軽減を図る施策として、自治体窓口DX「書かないワンストップ窓口」を推進しています。
その実現をシステム面で支援する「窓口DXSaaS」の活用が2024年1月16日に和歌山県紀の川市で、1月30日には神奈川県茅ヶ崎市で始まりました。令和5年度(2023年度)中には全国17の自治体で、窓口DXSaaSを活用した「書かない窓口」サービスが始まる予定です。
この記事ではデジタル庁が自治体とともに進める自治体窓口DXへの取り組みについてご紹介します。
「自治体窓口DX」について
多くの自治体窓口では、住民サービスを享受する住民、住民サービスを提供する自治体職員の双方が、さまざまな課題を抱えています。
窓口で手続する住民が抱える課題としては、たとえば、「何度も同じ項目を書かされる」、「都度、窓口で待たされる」、「複数の窓口に回される」などがあります。
一方、窓口業務に従事する自治体の職員側の課題としては、「申請書ごとに記入方法の説明が求められる」、「記入内容の確認作業が多岐に渡る」、「業務の複雑化、属人化」などがあります。
デジタル技術の進展によりさまざまなサービスのデジタル化が飛躍的に高まる中、住民がデジタル社会の恩恵を受けられるように、自治体の住民サービスについてもDXに本格的に取り組むことが求められています。
また、2040年には生産年齢人口が6,000万人未満まで減少すると推定されており、人口減少による労働力不足が深刻化する中、自治体の業務を従来どおりのやり方で高い品質を維持することには限界があります。
そのため、職員数が減少する中で高品質の窓口サービスを継続させていくためには、DXを推し進め、さらなる業務効率化が必要となっています。
今後も多岐にわたる窓口サービスを持続可能な形で提供しつつ、利便性の向上にも取り組むために、デジタル庁では2つのアプローチを図っています。
一つは、電子申請の仕組みを整え、どこからでもオンラインで行政手続を60秒以内で完結できる「行かない窓口」です。
時間や場所にとらわれることなく、いつでもどこでもスマホから行政手続ができるようになれば、住民の皆様の利便性向上が図られると考えています。
一方で、すべての方がオンラインで手続ができるかというと、必ずしもそうではありません。
デジタルに不慣れな方や、自治体の窓口で職員と対話したほうが安心という方にとっても窓口での手続が便利になるためには、自治体の窓口業務もワンスオンリー・ワンストップを目指して変わっていかなければなりません。
今後オンライン化が進むからこそ、窓口業務もコンパクトに業務改革が求められます。それが、余力を生み出すことにもつながります。
しかし現状の自治体窓口の状況はどうでしょうか。たとえば、ある自治体から別の自治体へ引っ越す場合、(世帯の構成によって多少異なりますが)窓口では転入届に加えて、子どもの転校、児童手当の認定請求などさまざまな手続が必要となります。
一般的な市役所であれば、まず戸籍住民課の窓口で転入届をし、子ども支援課に移動して……といったように、複数の窓口を回りながら、そのたびに本人確認と申請書類の記入提出が求められるケースが多いです。自治体の職員も何人にも渡って対応しています。
そこで、窓口事務の見直しとデジタル技術の活用を組み合わせて業務改革を行う取り組みが「自治体窓口DX」です。
そして、住民サービスの向上と自治体職員の業務効率化の実現を目的とし、デジタル庁が自治体の皆様と一緒に進めている取り組みが、自治体窓口DX「書かないワンストップ窓口」です。
「書かないワンストップ窓口」について:BPRとシステム活用で実現
自治体窓口DXは、自治体の窓口として私たちが見えている部分だけではなく、窓口での受付後の事務処理の流れや手順、いわゆるバックヤードも含めて、デジタルの力を活用したBPRを行うことによって、住民の皆様の手間・時間の削減と自治体職員の事務負担を軽減し、サービスの平準化を図る窓口サービスの姿です。
その取り組みの一例としては、自治体側で保有している情報やマイナンバーカードを活用することで、氏名・住所などを手書きした申請書を何度も提出するような手間を不要としたり(=「書かない」)、これまで同じ自治体内でも複数の窓口でそれぞれ行っていた手続を、各々の手続を所管する部署間でデータ連携をすることで、一つの窓口でまとめて受付できること(=「ワンストップ」)を目指しています。
待ち時間の削減や、経験の浅い職員であっても一定水準の業務が可能な環境づくりにもつながります。
自治体窓口DXの事例(北見市と茅ヶ崎市)
●北海道北見市
自治体窓口DXの取り組みは数多くの自治体で進められています。その一つとして、北海道北見市の例を紹介します。
北見市役所では、引越しや戸籍の届出といったいわゆるライフイベントに関連する手続について、簡単なものはできるだけ窓口を回らずにワンストップで受付されます。また、職員は窓口で支援システムを操作しながら手続の受付を進めていきます。
北見市役所の窓口は、職員自らが利用者目線で「ありたい窓口の姿」を明確にし、そのためにどのような業務改善が必要かを検討するところから始まったとのこと。窓口のレイアウトや動線、案内表示など、さまざまな要素を分析検討して改善を実施し、住民だけでなく職員も利用者としてとらえて業務フローを変更したり、全庁的に申請書様式を見直したりするなど、地道なBPRに取り組んだとのことです。
ライフイベント関連手続のワンストップ化は、簡単な手続はまとめて受付し、受付した内容を各課の担当にそれぞれ引き継ぐ形に業務フローを組み替えて実現しているとのこと。
手続の受付の際には支援システムを使うことで、職員のアシストや業務の定型化にもつながっているほか、RPA(Robotics Process Automation)ソフトウェアロボットを昼間の時間帯に常時動作させ、窓口で受付されたデータを基幹系業務システムへリアルタイムで自動転記して反映させる処理も実現したとのことです。
しかし、これらはシステム先行で実現したものではなく、まずアナログで出来る数々のBPRを行ったうえで、窓口支援システムを導入していることがポイントと言えます。
●神奈川県茅ヶ崎市
2024年1月30日には神奈川県茅ヶ崎市役所で、デジタル庁の「自治体窓口DXSaaS」の仕組みを活用した「書かない窓口」がスタートしました。
窓口では本人確認と本人の同意を経て、職員が窓口業務の支援システム(自治体窓口DXSaaS)を操作して、手続に必要な事項を来庁者と一緒に確認しながら手続を進めます。来庁者は内容を確認し、署名することで手続ができます。
受付した内容はデータ化されるため、同システムを導入した窓口の間で情報の連携が可能で、たとえば引越しの場合、手続が関係する部署の窓口を回った際も情報が引継がれているとのこと。今後はこの仕組みを基盤として、「回らない」を高めていくとのことです。
「書かない」の部分に着目して比較してみると、たとえば、夫婦・祖父・子供3人の6人家族が茅ヶ崎市へ引越し手続をする場合では、これまで関連する手続ごとに繰り返し記入する必要があった氏名や住所などは、これだけの記入の手間の削減が実現されたとのことです。
これには、茅ヶ崎市では基幹系業務システムのデータ(転入時には前自治体からの転出証明書データ)を上手に利用していることの効果も大きいようです。
◆住民異動届
・氏名:8回が1回に
・続柄:6回が0回に
・生年月日:6回が0回に
◆小児医療証/児童手当認定
・氏名:5回が1回に
・続柄:3回が0回に
・生年月日:5回が0回に
◆後期高齢者医療保険
・氏名:3回が1回に
・続柄:2回が1回に
・生年月日:2回が0回に
これまで合計40記入が必要だったものが4回になったとのことです。
(記入が必要な4回のうち3回は、氏名の署名)
また、受付したデータを使ってRPAを動作させ、住民基本台帳システムからの住民票出力操作などの自動化も実現しているとのことです。
「自治体窓口DX」のカギは「BPR」にあり
自治体窓口DXは、何か便利なツールを導入すれば達成できるものではありません。前提として、全庁的な既存業務の見直しや窓口の業務改革といったBPRの取り組みが不可欠です。
自治体によって、現在の窓口業務で抱えている課題はさまざまです。まずは、現在の窓口業務にどんな課題があるのかを、住民・職員それぞれのユーザー目線から把握し、ありたい姿を明確に描き、BPRに取り組む必要があります。
窓口業務のBPRに取り組む際には、実際にサービス利用者の立場で課題を確認する“窓口利用体験調査”という手法がとても効果が高いようです。デジタル庁が把握しているだけでも2023年度では70以上の自治体が実施しています。
この調査では、職員が利用者になりきって実際の窓口で手続をすることで、利用者の目線で現状を把握します。これによって、職員目線では気が付かなかった利点や課題、改善点などの気づきを整理します。
たとえば、利用者の方の動線を図面に書き込んでみると、複数の窓口を何度も行ったり来たりさせている事が浮き彫りになります。
また、利用者の行動をタイムチャートに起こすと、待ち時間や移動の時間を可視化することができます。
このような窓口利用体験調査で気づいたことを踏まえると、BPRとは、実は「アナログ改革」が先、ということに気づきます。
たとえば、職員側の窓口業務の流れや、申請書類がどのような手順で処理されているのかの分析、申請書類の様式の見直し、職員の動線やレイアウトの見直しなどにも取り組みます。ライフイベントに関する手続について、窓口を回さずにワンストップ化することもチャレンジのひとつです。
目指す窓口の姿を明確にすること。まずはアナログからできるBPRを実施し、取り組みを続けること。そのうえで、何らかのシステムの導入が必要かどうかや、狙う導入効果を検討する。その際には、「書かない」の部分だけではなく全体最適の視点を持つこと。フロントだけでなくバックヤードまで一連の業務改革を描くことが、ありたい姿の実現につながります。
「窓口BPRアドバイザー派遣事業」と「デジタル改革共創プラットフォーム」について
窓口BPRは、自治体職員が自分の業務を自分事としてとらえ改善し続ける、息の長い取り組みとなります。
そこでデジタル庁では、窓口BPRを進めたい自治体に対し、窓口BPRについて高い知見・経験を持っている自治体職員を「窓口BPRアドバイザー」としてデジタル庁が委嘱して、派遣を希望する自治体へ派遣する事業を実施しています。
アドバイザーからは、自治体が窓口BPRを自走するための助言・提言・情報提供など、きっかけづくりを行います。
今まで自分たちだけではなかなか着手できなかったことが、別の自治体で実績のある詳しい職員に外から言ってもらうことで、内部での動き出しの原動力となった自治体も多いようです。
BPRは「これだけやれば完了」というものではなく、継続的に取り組むことが大切です。
デジタル庁では、継続的にBPRをしていただけるような土壌を自治体の皆様と一緒に作っていくことを目指しています。関心のある自治体はぜひアドバイザー派遣の活用をご検討ください。
また、「窓口BPRアドバイザー育成事業」も実施しています。これは、自治体職員によるアドバイザーを増やすことで、同じ業務を担う自治体職員どうしで悩みを解決していく共創の輪を拡大し、全国の自治体窓口DXに悩む自治体の自走を加速させる取り組みです。窓口BPRに取り組んだご自身の経験を他の自治体へ伝えていくために、育成事業にエントリーしてみませんか。
デジタル庁では、コミュニケーションツール「Slack」に設けた「デジタル改革共創プラットフォーム(以下、共創プラットフォーム)」を活用し、自治体の皆様の意見交換や知見の共有を図るサポートも進めています。
窓口BPRアドバイザー派遣事業を利用いただいた自治体には、共創プラットフォームにて実施報告書の公開をお願いしています。これによって、体験調査実施済み自治体からの多くの気づきが日々共有されています。
窓口DXを進めるうえで参考になる情報が本当に盛りだくさんですので、自治体職員の方でご興味のある方はこちらをご覧いただき、ぜひアカウント登録をご申請ください。
「窓口DXSaaS」について
デジタル庁では、窓口業務を支援するツールとして「窓口DXSaaS」を提供しています。
窓口DXSaaSとは、デジタル庁が用意するガバメントクラウド上に、自治体の窓口DXに資するパッケージシステムを複数提供し、その中からそれぞれの自治体が自分たちに一番あったシステムを選べる仕組みです。
デジタル庁では必要な機能を有したソフトウェアサービスを公募し、窓口DXSaaSとしてガバメントクラウド上で提供しています。
各自治体は、それぞれが抱える課題やBPRを通じて描いた目指す窓口のあり方に合ったシステム(サービス)を選んで利用することができる仕組みです。
このサービスを活用することで、自治体は仕様設計や機器の調達にかかる時間を節約できるので、そのぶんもBPRに注力するとよいでしょう。
「書かない」「待たない」「回らない」ことで住民に優しい。業務改革を行うことで職員にも優しい。そして、小規模の自治体にもご活用いただけるようにしたい。この3つが自治体窓口DXSaaSの大きなコンセプトです。
ただし、システムは道具にすぎません。
窓口DXSaaSを基盤として活用しながらBPRに取り組み、書かない、待たない、迷わない、回らない、ワンストップ窓口を実現し、デジタルに不慣れな人でもその恩恵を受けられる「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」を実現していきましょう。
◆これまでの「デジタル庁からのお知らせ」記事は以下のリンクをご覧ください。