日本最大規模のサービスプロバイダーとして、利便性の高いアイデンティティを追求する
デジタル庁では、誰一人取り残されない、あらゆる人に寄り添うデジタルアイデンティティサービスの提供を目指して、先端技術の調査研究やプロダクトへの技術提供を行うために、アイデンティティスペシャリストを募集しています。
そこで本記事では、アイデンティティユニットの役割や仕事内容、今後の展望についてアイデンティティスペシャリストの新崎 卓に話を聞きました。ご興味を持っていただいている方々の参考になると嬉しいです。
アイデンティティユニットってどんなチーム?
ー アイデンティティユニットの役割について聞かせてください。
新崎:
私たちは、デジタル庁が提供するデジタルアイデンティティ(※1)に関わるサービスについて技術支援を行っているチームです。
現在は、マイナンバーカードを使った認証やスマートフォン搭載のプロジェクトのほか、電子署名サービスや法人共通認証基盤 (※2) などのプロジェクトにも携わっています。
国際標準等の動向を踏まえながら、プロジェクトの他のみなさんと一緒に、プロダクトのアーキテクチャ設計を行っています。
その他にも、アイデンティティに関する国際標準等の調査、先端技術を使ったアイデンティティに関わるPoC (※3) 、制度設計および官民連携の土壌作りなどを担っています。
ー チームの人数や雰囲気を教えてください。
新崎:
現在、アイデンティティユニットは10人で構成されています。職種でいうと、認証や署名に関わるアイデンティティサブユニットが5人、プライバシー設計に関わるプライバシーデザイナーが3人、あとはユニット長と担当企画官ですね。全員が民間出身人材で、30代~60代まで年齢層は幅広いです。
さまざまなバックグラウンドを持ったメンバーが集まっていますが、特に『アイデンティティ』という分野において日本を代表するような専門家が多く在籍しています。
技術を極めていく人もいますし、技術が実際にプロダクトで使われるときのユーザー体験について、またサービス提供における制度とシステムの整合性、社会規範としてどうあるべきかということなどを考える人もいます。
課題を相談したときにいろいろな観点からアドバイスをもらえて、日々発見があって楽しいです。
主にアサインされたプロジェクトで仕事をする形になるため、個々で仕事をする専門家集団のようなイメージを持たれることが多いのですが、意外とそんなことはありません。横の連携を意識的に行っているため、チームで仕事をしている感覚が強いですね。
ー チーム特有の文化や慣習などはありますか?
新崎:
いくつか挙げられるのですが、その中でも「アイデンティティに関わるトピックなら遠慮することなく、みんなが自由に発言ができる環境であること」は特徴かと思いますね。
ユニット長が、週に1回のディスカッションタイムのことを「壮大な雑談の場」と言っているのが大きく影響していて、たとえば、いま普及している署名システムを類型化したり、次世代マイナンバーカードのコンセプトを考えてみたり、eID (※4)の国際相互連携をする目的とユースケースを考えてみたり、妄想や理想論も含めてそれぞれのメンバーが自由に話しています。その中のいくつかは、実際の業務のヒントになることもあります。
また、一般的な会社ではアイデンティティエンジニアと呼ばれる人は1人~2人かと思いますが、デジタル庁には10人近く在籍していることも特徴ですね。
そのため、ユニット内の人に相談をするときには、デジタルアイデンティティ、セキュリティ、プライバシーの基礎から説明することなく、背景共有を飛ばして説明できるので話が早いですし、本題の技術検討に集中することができます。
デジタル庁はスタートアップの側面と、行政機関の側面を合わせもっている珍しい組織ですが、その間を縫って、しっかりと落としどころを見つけられるバランスの取れた人が多いかもしれません。
デジタル庁に興味を抱いたきっかけは?
ー 新崎さんの今のお仕事とこれまでのご経験を教えてください。
新崎:
私は、デジタルアイデンティティウォレット (※5) に関わる調査研究を主に行っています。
その他、デジタルアイデンティティの国際連携についての調査、行政手続きガイドラインの元になる海外の文書の検討、国際標準の規格の調査なども行っています。
たとえばデジタルアイデンティティウォレットでいうと、認証局の構築技術、電子署名関連の技術、ICチップの要素技術、NFC(※6)やBLE(※7)などの通信技術、セキュリティ確保など、レイヤーの違うさまざまな技術にアンテナを立てて、抜け漏れがないように見ていかなければならないので、いままで培ってきた経験が活かされているなと感じています。
また、私はこれまで大手SI企業の研究所に所属しており、生体認証に関する先端技術の研究を行っていました。
生体認証を「特別なもの」として扱うのではなく「毎日の生活を便利にするもの」と捉え、たとえば携帯電話やパソコンへ搭載するための一連の業務に携わっていました。
なかなか伝わりづらいかもしれませんが、生体認証技術を使ったシステムやサービスをつくる際に、アイデンティティは切っても切り離すことができないんです。
まずアカウントを作るためのアイデンティティの設計が先に存在していて、そのアカウントを特定するためにIDパスワードなどの認証(ログイン)があり、その先に生体認証がある。
生体認証の精度だけを追い求めるのではなく、サービスとして提供するにはアイデンティティ全体の設計が必要で、そこで生まれるさまざまな課題に向き合いながらキャリアを重ねてきました。
もしかすると、研究所で作った技術を本社に持ってきて製品化する会社もあるのかもしれませんが、私が所属していた会社では、研究所内で技術開発から新商品の製品化支援までを行っていたこともあり、製品化から販売までの一連のプロセスに関わることができました。
振り返ってみると、ある意味スタートアップのような雰囲気だったなと思いますし、今でいうところの、PdMのような役割も担っていたかもしれません。
ー デジタル庁に興味を持ったきっかけを教えてください。
新崎:
デジタル庁は、ちょうど入庁している前職の知人がいて、その方の紹介で知りました。もともとSI企業の研究所で働いていたということもあり、SIer視点で官公庁に向き合ってきたのですが、一度反対側から見た景色がどんなものか見てみたかった、というのがきっかけです。
パスワードに代わる新しい認証手段であるFIDO(※8)の規格を規定する、国際標準団体のFIDO Allianceに参加したことにより、サービスプロバイダーとSIerの視点の違いを知ったことも大きいですね。デジタル庁はある意味、日本最大規模のサービスプロバイダーだとも捉えられるので。
実際デジタル庁に入ってみると、サービスプロバイダーとして、利用者の利便性を追求したり、各ステークホルダーとの関係を意識するといったような、仕事の進め方に関する大事なことはあまり変わらなかったかもしれません。これは、デジタル庁特有のスタートアップマインドによるところだと思います。
デジタル庁ではたらく魅力と、民間企業との差
ー デジタル庁ではたらく魅力や、ギャップを教えてください。
新崎:
一言でいうと、いろいろなものが見られておもしろい、と思いますね。デジタル庁のオフィスの座席はフリーアドレスになっていて、ちょっとした立ち話ができる場所もたくさんあります。
自分の業務だけに閉じて仕事をするのではなく、自分のプロジェクトに関係する周りの人に目を向けてコミュニケーションを取ってみると、デジタル庁全体としていまどんな風に政府のデジタル化が動いているとか、どういう考えで物事が進められているのかを身近に感じることができます。そこが一番の魅力だと思います。
入庁前後のギャップについても、特に感じなかったですね。敢えて言うならば、もうちょっとおとなしいのかな、とは思っていました(笑)。でも実際にはそうでもなかった。スペシャリストだから調査だけやっていれば良い、などという保守的な雰囲気はなく、手を伸ばせば、プロジェクト内のいろんな仕事を担えることはポジティブなギャップでした。
自身の感覚としては、新しいものができたときだけに喜びを感じるわけではありません。この分野で長く仕事をしてきたので、新しい技術をやみくもに使った製品が生まれてしまったり、良いと思って出した製品が市場に受け入れられなかったというようなことも多く見てきました。
技術が組み込まれて製品化されたときに、その技術と製品の未来がなんとなく見えて来るのです。だからこそ、適切な技術が、適切な形で使われて、製品が普及した後も国際連携を含むさまざまなユースケースに耐えうるような完成度で提供できるときに心がグッと動くんです。
たとえば、パスポートの規格ってすごいですよね。1つの国だけではなくて200以上の国で同じように使われて、パスポートを無くして外国で発行するといった通常とは違うユースケースでもちゃんと使えるようにサポートできている。よく考えられているな、と思います。
新しい技術が生まれてから製品に組み込まれ普及するには時間がかかるので、デジタル庁のプロダクトでそこまで見届けられたものはまだないのですが、もし今後に自分が関わったものが実際に国民の皆さまに使ってもらえている場面を見たときに「やって良かった」と実感が湧くのだろうと思います。
少しずつ社会が変わっていく姿を目の当たりにできることが、デジタル庁で働く一番のなやりがいかもしれません。
ー 民間企業で仕事をすることとの違いはありますか?
新崎:
私たちの仕事はダイレクトに国民の皆さまの生活に関わるため、1つの意志決定、1つの技術選定に対する影響範囲が非常に大きいことが特徴です。
上にも述べたように、個人的には「日本最大規模のサービスプロバイダー」という気持ちで、技術面、制度面、普及に向けたバランスを考えながら日々の業務を行っています。
前職は民間企業だったので、製品を購入する企業や製品の利用者がある程度限られており、比較的狭い領域でプロダクトの意志決定をしていたと思います。
それに対して、デジタル庁のプロダクトは「誰一人取り残されない」製品ですし、利便性とプライバシーのバランスを検討したり、社会実装をするにあたって各ステークホルダー間の関係を捉えてガバナンスを保つための制度設計が必要です。
デジタル庁という国内最大のサービスプロバイダーの中で様々な仕事を担当していけるのかと不安でしたが、チーム構成と意思決定の仕組みで解決されているように感じています。
デジタル庁には4つのグループがあり、グループがいくつもの担務(プロジェクトやプロダクト)を持っています。そして、民間専門人材で構成されるユニットからそのプロダクトに専門家がアサインされるという形になっています。
だから、プロダクトチームには、法律を規定する行政官、プロダクトマネージャーやプロジェクトマネージャー、エンジニア、そして我々アイデンティティスペシャリスト、というように本当にさまざまなメンバーがいます。
みんな得意分野が違って、それぞれの視点から「どういうものにしていけば良いか」がいつも議論されていて、皆で意志決定を行っています。プロジェクトを進めていくにあたって技術上の欠陥や制度上の欠陥について互いに見つけやすく、すぐに修正できる仕組みになっているなと感じます。
反面、それぞれのメンバーの背景や物事の優先順位が違うので、相互理解に時間がかかったり、全員が納得する落としどころを見つけるのが難しい時もあります。そこも良し悪しだと思うので、うまくバランスを取りながら進めていきたいですね。
さいごに
ー 今後、アイデンティティユニットが実現したいことを教えてください。
新崎:
クロスボーダーで使えるデジタルアイデンティティの仕組みにかかわっていきたいです。資格証明などの属性情報を世界中の何処でも簡単に提示して使うことができる、それを実現していきたいです。
また私個人としては、複数の立場(視点)を経験したことを活用して、専門家としての仕事に携わっていきたいですね。旅行が好きなので、自分が実現に関わった仕組みを、旅先で実際に自分の目で見てみたいと思います。
ー アイデンティティユニットに興味がある人にメッセージをお願いします。
新崎:
私たちのチームでは現在、積極的に採用を行っておりますデジタルアイデンティティは国のインフラとしてとても重要な位置づけであり、マイナンバーカード、認証、署名等たくさんのプロダクトがあるので本当に人手が足りません。
もっと言うと、デジタル庁に人手が足りないだけではなく、日本全体でデジタルアイデンティティ領域の人材が足りないと思っているので、我々が新しい世代の人を育てていかないといけないと考えています。
いまはマイナンバーカードに関わる個人のアイデンティティが重要視されていますが、今後は法人や個人事業主のアイデンティティ、世帯や戸籍の概念をどう取り入れるかなど、もっと幅広いアイデンティティの問題に取り組んでいきます。
カジュアル面談で、よく「アイデンティティスペシャリストと言えるほどID技術に特化した専門性はないけれども大丈夫ですか?」と聞かれますが、大丈夫です。
私は認証技術については詳しいですが、電子署名の詳しい技術はチームの別の人に教えてもらいながらプロジェクトを進めています。知らないことは学べばいいのです。
自分の知らない新しい技術が出たり、自分の知識に誤りがあったときに、素直に受け止めて知識を更新し修正できる人、知らないことは知らないと素直に聞ける人と一緒に仕事がしたいです。
仕事の範囲を限定せず、アイデンティティやセキュリティなどの分野でいろいろなものを面白がれる人、知的好奇心が旺盛な人にぴったりな環境だと思います。
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