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弁護士も活躍するデジタル庁。専門人材の働き方と求められるスキル

近年、技術革新による新たなテクノロジーや新しい概念が社会課題の解決や経済成長につながることが期待され、日本のみならず、世界中で革新的なデジタルサービスの開発が進められています。

デジタル庁では最新のデジタル技術のキャッチアップと共に、デジタル技術を社会に生かすための法制度や制度の枠組みの研究も行っています。その中で、法律の専門人材として活躍しているのが弁護士です。

「デジタル庁の仕事は手探りで進めることになったのですが、同時に新鮮な気持ちで取り組めました」と語るのは、弁護士の田村 海人です。

2022年12月末にデジタル庁が公表した「Web3.0研究会報告書」の執筆を行政官の野崎 彰と共に担当しました。

今回の記事では専門人材としてデジタル庁で働いた印象や働き方、将来デジタル庁に参画する専門人材に期待することなどを二人に聞きました。


入庁のきっかけとデジタル庁の仕事の印象

デジタル庁は、省庁出身者や地方自治体出身者、民間出身者など、多様なバックグラウンドを持つ職員で構成され、様々な分野の専門人材が集まっています。

弁護士も法律の専門人材として庁内の各プロジェクトで活躍しています。田村も弁護士事務所に勤務する傍ら、デジタル庁に入庁しました。入庁したきっかけは、デジタル庁で新しい技術のプロジェクトがスタートしたからだと言います。

専門人材として働く弁護士の田村がインタビューを受けている写真
専門人材として働く弁護士の田村

田村:
私は弁護士として活動を始めて4年目となります。弁護士事務所に籍を置いていて、国内外のM&A案件や事業者の日常的な法律相談を受けたり、株主総会の対応に携わったりする、いわゆる企業法務を行っていました。

ゲームやアプリケーションのビジネスを行う事業者様のサポートをする機会が多く、デジタル分野やコンテンツ分野に関心を持っていました。

そんな折、デジタル庁でWeb3.0のプロジェクトが始まるということを聞いて、応募してみたいと思ったことが入庁のきっかけです。実際にプロジェクトの詳細を聞いてみて、私が仕事で関わっていた業界に良い影響を与える領域のプロジェクトでしたので、入庁を決めました。

デジタル庁で働き始めると、弁護士業務との違いに戸惑うこともあったそうです。弁護士業務は、顧客の課題が明確で、それを解決するというスタンスでしたが、デジタル庁の仕事は「相手の顔が見えない」仕事で、抽象度が高いと感じたと言います。

田村:
業務は報告書を執筆することがメイン業務でしたが、特定の顧客がいない中で仕事をすることは、抽象度が高くなると感じました。弁護士業務で書面を作るという場合には、顧客がいて抱えている課題があって、それを解決する。そういう気持ちで望みます。

そのため、読み手の顔が見えないデジタル庁の仕事は手探りで進めることになったのですが、同時に新鮮な気持ちで取り組めました。

デジタル庁で仕事をする上では、法律家のスタンスのみが求められているのではなく、チームの一員として仕事を進めていく総合的な目線が必要です。

報告書を書く中でも、法律に関係しない内容や、法律になるかどうかわからない部分の仕分けを他の専門家の皆さんと一緒に考えることもありました。法律のバックグラウンドは必要ですが、基本的なコミュニケーションや文書作成能力が重要であると感じました。

専門人材に期待するスキルと行政のスタンス

デジタル庁で仕事を進めていく上では、法律知識をバックグラウンドとして持ちながら、専門家チームの一員として総合的な目線を持つことが重要だと語った田村。

一方で、行政の側からは、専門人材に期待するスキルは少し異なるものがありました。

行政官の野崎は、法律家としての専門性を期待しながらも、「柔軟性と好奇心」を専門人材に期待していると語ります。

参事官の野崎がインタビューを受けている写真
参事官の野崎

野崎:
専門人材には法律家としての専門性を期待しつつ、それに加えて、新たな技術に対応する柔軟性と好奇心が必要です。

例えば、Web3.0の基盤技術の1つであるブロックチェーンを活用したサービスに問題があったとして、そのサービスに業務停止命令を出しても、技術上、停止できません。

技術的な観点からすると、これまでの法制度や行政のアプローチが全く通用しないという世界です。そのため、新たな世界における法律の枠組みや環境整備を柔軟な発想で考えられることが重要になります。

また、デジタル庁は新しい職場ですから、色々なことにチャレンジしていく活気に満ちた雰囲気があります。今までの経歴に関係なく、何でもチャレンジしたいという好奇心を持った方に来ていただけると良いと思います。

一方で、今回のケースのように、担当する技術や領域によっては、全体像も何もわからない状態でスタートせざるを得ないことがあると野崎は語ります。

その上で専門人材にしっかりと能力を発揮してもらうためには、行政として、プロジェクトスタートの段階から専門人材にアサインしてもらうことが重要だと言います。

野崎:
今回、題材となったWeb3.0は、関係者によって定義がバラバラで、共通理解が十分に醸成されていない概念に対して政策を作る非常に特殊な仕事でした。

プロジェクトを始める段階では、全体像がわからない状態で始めるしかありません。プロジェクトを進める中で、全体像が浮き彫りになり、政策も固まっていくようなところがありました。

ですが、全体像がわかってから専門人材にアサインしてもらう、というのでは遅いんです。まだ、全体像がわからないうちから入ってもらって、一緒に全体像をつかむプロセスを踏むことで、専門人材の方もアウトプットをスムーズにまとめることができます。

行政としては、プロジェクトの立ち上げの段階から専門人材にジョインしてもらうことが重要だと思います。

デジタル庁での専門人材の働き方

法的に曖昧な領域について、行政官と専門人材が力を合わせながら全体像を明らかにしていく。それは業務スケジュールを立てることができない仕事でもありました。スケジュールを立てるのが難しい中でも、柔軟な働き方ができたことでスムーズに仕事が進んだと言います。

「デジタル庁は、リモートで全て完結させられるスタイルになっています。会議もリモートで行うことが多かったです」と田村は振り返りました。

田村:
デジタル庁では、リモートワークを活用して働いていました。報告書を公表する年末は会議が頻発していて、会議予定が入ったと思ったらすぐにリモート会議が始まるなんてこともあって、スピード感を持って働いていました。

当初から、先の読めない領域で、先の読めないタイムラインということがわかっていたので、デジタル庁のルールの範囲内でかなり柔軟に働きました。

笑い話ですが、リモートワークでとてもフレキシブルな働き方をしていたので、籍を置いている法律事務所の他の弁護士からデジタル庁で本当に働いているのか疑われたこともありましたね。

田村はプロジェクトベースでデジタル庁に参画していましたが、他の弁護士の話を聞くと、勤務形態は異なっていたと言います。多様な人材が様々な関わり方をしているデジタル庁ですが、弁護士に限らず、色々な人とのつながりは自分の財産になると田村は語ります。

デジタル庁は柔軟な働き方ができますが、それ以外にも普段関われないような人とつながる機会があることもポイントだと言います。

田村:
私の契約はプロジェクトベースです。デジタル庁の弁護士の中には、デジタル庁に比重を置いた働き方をしている方もいるようで、人によって振れ幅があると思います。

余談ですが、デジタル庁のカルチャーとして人のつながりを作っていくようなところがあります。私も弁護士同士で親交を深める機会として、お昼ごはんをご一緒する機会や飲み会の場を設けていただいたことがありました。

そこでお話をしていると、やっていることも違えば、勤務形態もバラバラで、共通点は弁護士であることだけでしたね。

デジタル庁では、色々な人と関われることがポイントで、特にエンジニアの人と関われるのは、他の官庁でもあまりないことだと思います。

異なるスキルを持っている人と関わることの面白さを感じることができましたし、エンジニアの方に報告書の内容を見てもらい、執筆を手伝ってもらうこともありました。自分が元々いた組織では出会わなかった人とつながりができることは、1つの財産になると思います。

これからデジタル庁へ入ってくる弁護士へのメッセージ

普段と異なる経験をしながら、幅広く多様な人材とのつながりを作ることができたと語った田村と、専門人材に必要なスキルと専門人材を迎え入れるための行政の心構えを語ってくれた野崎。

最後に、それぞれの立場から、これからデジタル庁に弁護士として入ってくる人へのメッセージを聞きました。

田村:
若い世代がデジタル庁に入る意義は、官庁の良いところと一般企業の良いところを体験できることだと思っています。

1つの組織の中で2つのことを経験できますから、意欲のある人はデジタル庁に入ってチャレンジしてみると良いと思います。

私は、デジタル庁で掲げられているミッションはとても大きいと感じます。入ってみると、自分がやろうと思っていること以上のことや、大変な内容を求められることも多いかもしれません。

一方で、弁護士の皆さんは楽ではないことにチャレンジするために弁護士業界に入ってきていますから、デジタル庁の環境や業務内容を楽しめる人が多いと思います。そのチャレンジ精神を持って入ってくることが、デジタル庁という組織を活性化する上で必要だと思っています。

野崎:
とにかくやってみる、という気概を持った人に入っていただければと思います。できないこともありますが、チャレンジを積み重ねることで、自分でも知らない能力が出てくるかもしれません。

自分の能力に照らしてできるかどうかを判断するのも良いですが、やってみなければわからないことに取り組むことも重要だと思います。

Web3.0チームも年末までに報告書を書ける見通しはありませんでした。でも、チャレンジを重ねて、できることをしっかり積み上げていきました。こういう取り組みの積み重ねがデジタル庁の次のステップにつながっていくと思います。

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