ユーザーを巻き込み、進化し続けるプロダクトづくりを。デジタル庁CPO、Tably及川、Code for Japan関それぞれの想い――第3回「Govtech Meetup」レポート
デジタル庁は、国内のGovtech(行政の利便性を高めるテクノロジー)に関わる関係者のエコシステム形成を目指す「Govtech Meetup」を2021年12月から開催しています。2022年3月までに計7回の開催を予定しており、先日は第2回のレポートを公開しました。
1月27日に「あるべき行政サービスの開発・提供とは?」というテーマで行われた第3回は、一般社団法人Code for Japan代表理事でデジタル庁のプロジェクトマネージャーでもある関治之さんと、Tably株式会社 代表取締役 Technology Enablerの及川卓也さんが登壇。デジタル庁からはCPO(Chief Product Officer)の水島壮太、企画官の吉田泰己が参加しました。
イベントでは、行政サービスにおけるプロジェクトマネジメントの在り方をはじめ、オープンソースソフトウェア(OSS)の活用、KPIの運用などについて議論が交わされました。
変革には「ミュータント」と「エイリアン」が必要
行政サービスの開発におけるプロジェクトマネジメントはどうあるべきか。最初に水島がデジタル庁における開発組織の説明をしながら、このテーマで議論は進んでいきました。
2021年9月から、600人規模で発足したデジタル庁。約200人は民間の人材から登用しており、そのうち約4割がプロジェクトマネージャー(PjM)・プロダクトマネージャー(PdM)となっています。他省庁から来た行政官もPjMやPdMの業務に携わる人が多く、水島は「開発プロセスをどうより良くするかという点を重要視している組織」と語ります。
これまで行政のプロダクトは、大規模なシステム開発が多いことから「ウォーターフォール型」(設計や仕様を細かく策定し、数年の時間軸で開発すること)になることが一般的でした。デジタル庁でもガバメントクラウドへの移行を中心にウォーターフォール型の手法を現在取り入れていますが、水島は徐々に「アジャイル型」(設計や仕様の変更があることを前提に、細かく実装とテストを繰り返すこと)に変えていく必要性を強調します。
水島:ガバメントクラウドのような大規模プロジェクトで、移行することそのものが目的だとウォーターフォール型と相性が良いです。しかし、「マイナポイント」や「マイナポータル」のように、最近は行政が国民や市民に直接プロダクトを届けるケースが増えています。
不確実性が高い社会環境の中で、ユーザーに良いプロダクトを届けるためには、素早く仮説検証のサイクルを回すアジャイル型の開発に変えなければいけません。直近だと「新型コロナワクチン接種証明書アプリ」で取り組んだ事例があります。ITベンダーが開発したのですが、私もプロジェクトに入り、バックログ(改善リスト)を蓄積することから始めました。
「リリースしてからが勝負」という考えのもと、素早く改善サイクルを回し、アップデートを頻度高くできたのは、これまでの行政プロダクトで少なかったケースのように思います。
関:どのようにアジャイル型に変えていくかは、アーキテクチャ(構造)レベルで考えていく必要があります。特に行政は、ユーザーとの接点以外に職員側のパイプラインが縦割りで分かれており、フィードバックループが長くなりがちです。例えば、ユーザーへの対応はスマートなのに、内部では紙で処理してるみたいなことですね。IT用語だと「デブオプス」と言いますが、横串で全体を考えられる人材がいるかどうかは大きい要素だと思います。
先進的な取り組みをする自治体は、外部人材を採用していることが多いです。やり方を学んだり、チームビルディングを始めたりするときは、できる人を呼ぶのが近道でしょう。
及川:ある人が言っていたのは、変革しなければいけない組織に「エイリアン」と「ミュータント」が必要ということです。エイリアンは外部の血、ミュータントは内部の変わり者という意味なのですが、今まで扱いにくいとされていた人こそ変革時のドライバーになると。
また、少し前の本になりますが『Team Geek』によると、多様な人材がいる組織では「ミッションステートメントが重要になる」と言及されています。多様な人材が交わることは重要だけれど、そのときに目的の認識統一が重要ということですよね。
色んな専門スキルを活用して一つの山を登ろうとしている組織の中に、「海へ行きたい」と言う人を入れるのは違いますよね。ミッションステートメントが軸となって、エイリアンとミュータントが共存することができれば、組織として強くなると思います。
OSSを通して、豊かなソフトウェア開発の土壌を
続いてのトークテーマとなったのは、オープンソースソフトウェア(OSS)の活用です。
ソースコードが無償で公開され、利用や改変、再配布が自由に許可されているソフトウェアを指すOSS。シビックテックの普及を推進するオープンコミュニティを長年運営してきた関さんは、行政におけるOSS活用の重要性を指摘します。
これまでOSS活用に関する議論が活発化してこなかった日本。海外では「社会全体の知的財産を増やす」という考えのもと、税金で開発した行政プロダクトの20%をOSSとして公開するポリシーがある国もあるといいます。これにより、さまざまな企業やエンジニアが行政に関わることができるため、競争が激しくなり、品質も上がるというメリットがあります。
関さんは自身がデジタル庁のプロジェクトマネージャーになったのも、「日本全体がオープンソースコミュニティとなるためのプロダクト開発を推進していくため」と語ります。どのようにOSSを普及させるべきかという観点で、3人の議論は進んでいきました。
水島:デジタル化を推進していくうえで、やり方は2つあると思っています。1つがデジタル庁が作ったプラットフォーム上で、自治体や民間企業に利用してもらうこと。もう1つが、最初からOSSとして公開し、「自由に改変してください」というパターンがあります。
どちらを選ぶかは難しいところで、今も議論をしている最中ですし、プロダクトに応じて変えていかなければいけません。今だと、マイナンバーカードをスマートフォンで読み込むための機能を、各事業者が個別で開発しているんですよね。この状況は変えていかなければいけないので、デジタル庁としてOSS化して自由に利用できるようにするか、トラストアンカーとなるアプリケーションを提供したらいいかを今後見極める必要があります。
及川:税金の有効活用を願う国民の立場としても、OSS化は推進してほしいです。OSSの良いところは、必然的にビジネスとしてのエコシステムが構築されるので、みんなで進化させられること。レスポンシブWebデザイン(端末に応じて、最適化された表示をすること)が普及したとき、対応が遅れたとされたのが自治体のWebサイトでした。
なぜなら、CMS(コンテンツ・マネジメント・システム)が特定のITベンダーが独自に開発したものを採用しており、進化しないから。もし進化し続けるCMSを使っていたら、自治体はほとんど何もせずにモバイル化に対応できたでしょう。デジタル庁は、多くのユーザーが使っているがゆえに、プロダクトが進化し続けるような状態を目指してほしいです。
関:Code for Japanでは、東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトを受託開発し、OSSとして公開しました。これにより、300人を超えるコントリビューターがアクセシビリティの改善や各種機能の追加で参加してくれています。今も毎日コミットメントがあるコミュニティとなっていますし、他自治体の活用、データの標準化も進みました。
どこかに「OSS=儲からない」という勘違いがあるのですが、Code for Japanは東京都から運用費をいただいているので、ビジネスとして成り立っています。従来のようにロックインをして囲い込むのではなく、良いプロダクトをつくり、みんなで進化させて、そのリーダーシップをとることで、どんどんビジネスチャンスが広がっていく。そんな考え方をしてくれる企業が増えると、豊かなソフトウェア開発の土壌が生まれていくと思います。
「ユーザーが価値を感じている瞬間をKPIに」
プロダクトのリリース後、どのようにデータを評価し、改善につなげていけばいいか。
経済産業省で法人向け認証システム「GビズID」の立ち上げを担った経歴を持つモデレーターの吉田から、次にこのような問いが投げかけられました。行政プロダクトでは、得られたデータを有効に活用できているケースが多くないのが現状です。そこで、デジタル庁では1月27日にデータ分析プロジェクト「Gov Data Lab」の始動を発表。政策立案に必要なデータを迅速に収集/分析し、ステークホルダーに届けるための環境整備を進めています。
及川さんは民間企業でのプロダクトマネジメント経験をもとに、得られたデータをもとに改善を重ねていくには、「KPIをどのように意味づけるかが非常に重要」と語ります。
及川:KPIを設定するとき、私は「ユーザーがプロダクトに価値を感じている瞬間で計測しよう」と伝えるようにしています。どうしても民間企業は収益を設定しがちなのですが、それだと無味乾燥ですし、どれだけ価値を提供できるかが測れなくなりますよね。
難しいところではあるのですが、収益にも貢献し、かつユーザーが価値を感じてくれている瞬間を計測できるようにしなければいけません。そうすると、開発している中の人間も、数字が上がることそのものが嬉しくなり、良い改善のサイクルが生まれると思います。
水島:デジタル庁はPjMやPdMが多い組織ですが、まだリリースがゴールとなってしまいがちです。及川さんがおっしゃるように、このプロダクトが何をもってユーザーに価値を提供できたのかをKPIとして設定し、評価していかなければいけません。また、そのKPIをオープンなダッシュボードとして公開するところまで、デジタル庁では挑戦したいですね。
関:KPIからオープンにし、対話を重ねていくことは私も必要だと考えています。どのような状態を目指しているのかということが一つのメッセージになりますし、うまくいかないときも含めてしっかりとオープンにすることで、高い信頼の獲得につながるでしょう。
及川:愛してもらえるプロダクトをつくるためには、いかにユーザーを巻き込んでいくかが重要ですよね。KPIをオープンにして対話を重ねるというのも、その一つでしょう。
行政のプロダクトに対して、私たち国民は厳しい目を向けがちです。私自身、デジタル庁には期待をしつつも、ちょっとしたつまずきで失望してしまうこともあるかもしれません。でも、そうはならないようできるだけ対話的でありたいし、2人には組織を引っ張っていく立場として、いかに民間企業やユーザーを巻き込んでいくか考えてもらえたら嬉しいです。
関:行政がやっていることに一人ひとりが参加してほしいという想いから、私はCode for Japanをやりながらデジタル庁に関わることを決めました。OSSも参加のための機会づくりですし、組織の垣根を越えたプロダクトづくりをするのは何より楽しいんです。
ただ現状の国民と行政は批判的な関係が生まれ、楽しくないものとなってしまっています。クリエイティブは本来、楽しいもの。オープンソースコミュニティはこれからの取り組みですが、行政に参加できる機会をたくさん作り、前向きな関係性にできたらと思っています。
水島:デジタル庁には優秀な行政官をはじめ、スタートアップやITベンダーなど多様なバックグラウンドを持つPdM・PjM人材が多くいます。カルチャービルディングを大事に、自治体やユーザーの力を借りながら、良いプロダクトチームとなれるよう頑張っていきます。
パネルディスカッション終了後、「ブレイクアウトセッション」としてZoom上で参加者同士の交流時間が設けられ、3回目のGovtech Meetupは幕を閉じました。当日の様子はYouTubeでも公開しているので、ぜひご覧になってみてください。
また、デジタル庁では積極的に採用を実施中です。デジタル庁のミッション・ビジョン・バリューに共感いただける方からのご応募をお待ちしています。
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◆これまでの「デジタル庁の組織文化」の記事は以下のリンクをご覧ください。