行政サービスを支えるデザインの仕組み──ガイドラインとデザインシステムを組織的に活かす取り組み
デジタル庁のデザイン組織「サービスデザインユニット」では、「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を。」というデジタル庁のミッション実現のため、多様な専門性を持つ職員が集い、行政サービスの使いやすさを利用者起点で向上させる取り組みを行っています。
行政機関職員、開発ベンダー、そして利用者となる国民や事業者まで、幅広いステークホルダーが関わる中で、組織を横断した「デザインの仕組み」が求められています。
この仕組みづくりの要となっているのが、行政サービスのDXを念頭に策定されるガイドラインや標準、そしてデザインシステム(共通UI基盤)の拡充・導入を支えるプロセス整備です。こうした活動を「点」から「面」へと拡大し、組織全体で知見を共有しながら品質向上を実現していくには、全体像を踏まえて、各プロジェクトの方向性や優先度を見極め、共通基盤を最大限活用できるよう導く役割が欠かせません。
その役割を担うのが、デザイン組織におけるプログラムマネージャーです。本稿では、その取り組みや具体的な役割について紹介します。
有機的に成長するチーム:点から面へ
デジタル庁立ち上げ〜2022年頃
2021年に設立されたデジタル庁では、行政機関として初めて、デザイン分野の専門性を備えた組織が誕生しました。デザイナーだけでなく、アクセシビリティアナリストも設立初年度から在籍しており、こうした専門知見が、後の取り組みを支える基盤となっています。
一方、立ち上げ当初(〜2022年頃)は、少数の専門家が個別領域を点在的にサポートする状態で、組織としてはまだ試行錯誤の段階でした。個々のメンバーが特定の案件や課題に深く関わることは可能だったものの、全体を横断するガイドラインやデザインシステムの整備に向けた本格的な動きはこれからといった段階でした。
現在
現在、サービスデザインユニットには30名弱のメンバーが所属していますが、複数のグループ(チーム)に分かれ、各グループが「土台(基地)」となる特定分野(例:デザインシステム、アクセシビリティ、広報・マーケティングなど)で知見と責任を蓄積・確立しています。その上で、これらのグループを「ハブ」となる人材がつなぎ、組織横断的な方向性や戦略を共有できる構造へと移行しています。
この新たな体制により、点在していたプレイヤーが有機的なチーム構造を形成し、横断的な「伴走」と「仕組みづくり」をスムーズに進められるようになってきています。グループ内で専門性を深めながら、ハブ役が連携・情報循環を促すことで、ガイドライン整備やデザインシステム運用を拡充・改善し、新たな領域への展開も可能になるようチームを組成していこうとしています。
仕組みづくりを担うデザインプログラムマネージャーの役割
1.サービス設計におけるガイドライン整備と品質ガバナンス
行政サービスを、より利用者起点でデザインするためには、特定の観点(アクセシビリティやユーザビリティなど)に限らず、サービス全般を包括的に品質保証する指針が求められます。デジタル庁は、こうしたガイドラインや標準を整備・活用し、国民向け・事業者向けサービスの開発・運用を支える「仕組み」を構築しています。
たとえば、政府情報システムのUI改善を経て、改善サイクルを回していくための仕組みづくりを検討しています。また、デジタル社会推進標準ガイドラインは、政策・システム・サービス開発に関する幅広い領域での基準を整備し、利用者起点のサービス設計をより統一的かつ継続的に改善していくための基盤となっています。
デザインプログラムマネージャーは、これらのガイドラインを「存在しているだけ」ではなく、実際の業務プロセスやプロジェクト運営で「活用される状態」へと導く役割を担います。そのために、組織内での合意形成や優先順位付けを行い、現場担当者がガイドラインを自然に参照し、従うことができる運用プロセスを確立します。
このようにして、サービス設計のルールや標準が、単なる指示書ではなく、継続的な品質向上と利用者中心のサービス設計を実現するためのエンジンとなります。
2.行政組織への導入と啓発
ガイドラインや基準を整備しても、それが組織内部で理解・活用されなければ、品質を底上げする仕組みにはなりません。そこでデザインプログラムマネージャーは、現場の実務プロセスとガイドラインを結びつける導線づくりに注力しています。
たとえば、新規プロジェクトの企画段階から、既存サービスの見直し・改善プロセスに至るまで、ガイドラインやデザインシステムが参照されるべきポイントを明確化し、ワークフローの中に自然に組み込めるようにします。
また、社内勉強会、ワークショップ、ツールキットの提供などを通じて、関係者がこれらの「仕組み」を自発的に理解し、活用できる啓発活動を実施することにより、デザイン上のルールや基準は、単なる理想論ではなく、日々の業務の中で誰もが手に取りやすい「実用的な資源」へと変わっていきます。
3.デザインシステムの構築と導入支援
デジタル庁デザインシステムは、行政サービス全体で一貫性のある利用体験を提供する「共通基盤」です。しかし、整備されたUIコンポーネントやドキュメンテーションが単に存在するだけでは、その価値は引き出せません。デザインシステムを組織内部で根付かせるために、関連資料や実装ガイドの整備、ワークショップによるトレーニングなど、実務に密着した支援環境をつくり上げていくことがデザインシステムプロジェクトの目標です。
また、現在は特に、コンポーネントの拡充とガイドラインの充実が求められるフェーズにあります。新たな政策領域やサービス拡大にも対応していくため、デザインシステムの担当者が新規開発を推し進めることで、デザインシステムは導入しやすい優れた基盤へと成熟していきます。
関係者からフィードバックを受け取りながら改善を重ねることで、時間とともに「信頼できる設計基盤」としての価値が高まることを目指しています。
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多様なステークホルダーの橋渡し
利用者起点に基づく行政サービス設計の取り組みには、行政機関職員、開発事業者、外部有識者など、多様な関係者が参画します。こうした異なる背景・専門性を持つステークホルダーが、共通の指標やルールを「参照しながら」協働できる環境を整えることが求められます。
しかし現状では、ガイドラインデザインシステムもまだアップデートの途上にあり、周知のための推進が必要な段階です。完成した仕組みが存在しているわけではなく、むしろ「多様な声を反映しながら、より良い指針や基盤を育てていく」過程にあります。デザインプログラムマネージャーは、この過程を前進させるハブとして機能します。
合意形成と優先度整理:個々のプロジェクトや領域が抱える制約やニーズを踏まえ、まずどの部分のガイドライン・システムを整備・更新すべきかを明確化。関係者間で「何が先に必要か」を共有し、徐々に活用しやすい状態へと導きます。
分かりやすい情報発信:まだ完成形とは言えないガイドラインやデザインシステムを、現場が理解し利用しやすくするために、分かりやすい資料やツールを用意します。これにより、ステークホルダー同士が段階的に共通認識を醸成しやすくなります。
継続的なフィードバックループの確立:実際の参照・運用を通じて浮かび上がる課題や改善点を拾い上げ、ガイドラインやデザインシステムに反映。これを繰り返すことで、まだ揺らぎのある基盤を、関係者の知見でより確かなものへと育てていきます。
こうした「育てる」視点での橋渡し活動を重ねることで、時間とともにガイドラインやデザインシステムは現場にとって身近で頼れる道具へと成熟し、多様なステークホルダー間で「共通の言語」として機能するようになります。デザインプログラムマネージャーは、このプロセスを前進させ、行政サービスの使いやすさいます。
組織的な改善サイクルの確立
ガイドラインやデザインシステムを整備しても、すぐに現場で十分活用されるとは限りません。新しい基準や手法を、これまでと異なる環境へ導入するには、「どうすれば関係者に理解・活用してもらえるか」を考慮した取り組みが欠かせません。
デザインプログラムマネージャーは、まずは現場視点でのフィードバック収集を重視することにより、どのガイドラインが参照しづらいのか、どんなコンポーネントが不足しているのか、実務担当者が感じているハードルは何なのか——これらの声を定期的に拾い上げ、優先度を検討しながら改善計画に反映させる必要があります。
そして、改善内容についてなぜその修正が行われたのか、どのようなメリットがあるのかを関係者が自分たちの業務改善につながる仕組みとして捉えやすくなるよう丁寧に周知していきます。
このように、理解促進と活用支援を繰り返しながら、フィードバックループを運用することで、組織は徐々に基準やUIパターンを実態に即した形で熟成させていくことができます。「一度整えたら終わり」ではなく、関係者の理解と納得を得ながら常に更新を重ねる改善サイクルが、将来的に行政サービス全体の水準を持続的に引き上げていく原動力になります。
行政サービスにおける持続可能な品質向上
デザインプログラムマネージャーが推進するこれらの取り組みは、単なる技術的・デザイン的な施策に留まらず、多様なステークホルダーが、共通の基盤(デザインシステム)と共通のルール(アクセシビリティ・ユーザビリティ等のガイドライン)を理解・活用し、持続的に改善できる状態を生み出していきたいと考えています。
その結果、国民・事業者が利用する行政サービスは、徐々にではありますが確実に品質を底上げし、誰もが分かりやすく、ストレスなく手続きを行える環境へと近づくことを目指します。
デジタル庁では行政サービスの品質向上に向け、ガイドラインやデザインシステムといった基盤整備を試みていますが、まだまだ発展途中です。組織体制の整備やツール類の拡充、多様なステークホルダーとの対話を重ねながら、少しずつ「使われる仕組み」へと近づけていこうとしています。
着実なステップを踏みながら、利用者起点のサービス設計を支える新たな基盤と文化を醸成していく取り組みが、いままさに進行中です。こういった取り組みを行う意義に共感してくださる仲間をサービスデザインユニットでは募集しています。ご興味がある方はぜひ以下の採用ページをご覧ください。皆さまからのご応募をお待ちしています。
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