デジタル庁設立3年。世界に誇れるデジタル社会の実現と次世代の行政組織づくりに向けて。
はじめに
デジタル監の浅沼です。
デジタル庁は、2024年9月1日に設立3年を迎えました。デジタル政策への取組による様々な成果が、日々の生活や社会の変化の兆しとして現れてきています。
そこで、この1年の主な活動の成果と進捗について振り返るとともに、今後の活動方針や組織強化の取組ついて共有させていただきます。また、デジタル庁の活動の成果の詳細については、数値やデータと合わせてデジタル庁のウェブサイトにも公開しておりますので、ぜひご覧ください。
◆関連リンク:
・2024年デジタル庁年次報告|デジタル庁
・デジタル庁年次報告 会見資料(PDF/4,849KB)
1.デジタル政策の進捗
はじめに、直近のデジタル政策の進捗について、一部を抜粋してご紹介します。
マイナンバーカードの普及
マイナカードは約9,300万枚、国民の7割以上が保有するところまで普及が進んでいます。マイナンバーカードと保険証や公金受取口座との連携も、カードを保有する方の約7割にご登録いただいております。マイナンバーカードは、運転免許証の保有枚数を超えて、日本で一番普及している本人確認カードとなりました。
マイナポータルの刷新
デジタル庁は設立時から、行政手続のオンライン窓口であるマイナポータルの利用者体験の刷新に取り組み、利用者視点の体験づくりと新たな機能の追加や改善に注力してきました。この2年間でマイナポータルの利用は大幅に拡大しています。
現在、マイナポータルは、マイナンバーカードをお持ちの方の8割近くがアカウントを開設しており、オンラインでの行政手続や情報確認にご利用いただいています。また、サービス利用の満足度も5割以上となりました。
オンライン行政手続の利用拡大
子育て、引越し、税の手続など、日常生活における様々な場面でオンライン行政手続の利用が定着しつつあります。今までは窓口におもむく必要があるなど、手続完了までに数時間かかっていた手続が、オンラインでは数分で済みます。
オンライン行政手続をご利用いただくことは、国民の皆さまに利便性を提供するだけでなく、行政職員の負担軽減にもつながります。引き続き、より多くの方にオンライン行政手続サービスを利用いただけるようにサービスの周知と改善を行なっていきます。
デジタル本人確認の定着
今年6月にデジタル認証アプリをリリースしました。まだリリースしたばかりではありますが、多くの民間企業の方々から利用のお問合せをいただいております。
公的個人認証サービス(JPKI)を活用したデジタル本人確認は、民間企業での利用がこの2年で急速に拡大しており、民間事業を支える社会のデジタルインフラとして認知されつつあります。現在、公的個人認証のサービスは、500社以上が登録し、1日平均150万回以上も利用されています。
オンライン行政手続をもっと簡単に
行政のデジタルサービスについては、さらにもっとわかりやすく、使いやすくするために、サービス構成を整理していきます。住民向け行政サービスについては、マイナンバーカードによる本人確認、オンラインの窓口はマイナポータルに統合します。事業者向けサービスについては、GビズIDによる事業者確認、オンラインの窓口は現在開発検討中の新たな事業者向けポータルへと統合していきます。
すでに公表しておりますが、マイナンバーカード機能のiPhone搭載は2025年春を予定しています。このサービスを利用すれば、マイナンバーカードを持ち歩かなくても、行政や民間の様々なサービスを利用できるようになります。ぜひご期待いただければと思います。
アナログ規制を見直し、デジタル化を加速
この2年間、目視や対面講習など、デジタル化を妨げるアナログ規制の見直しを関係省庁と連携して進め、2024年の3月時点で約4,000条項の見直しが終わりました。
また、規制官庁や民間事業者と連携し、新技術の活用についても積極的に働きかけを行なってきました。これらのルールや規制の見直しは、政府だけではなく地方自治体にも展開していきます。
政府と自治体システムの最適化
デジタル庁は設立当初から政府と自治体システムの最適化に取り組んでおり、目に見えるかたちで成果がでつつあります。特にGSS(ガバメントソリューションサービス)は政府共通のインフラとして費用の最適化だけでなく、サービスを利用している各省の職員からも高い評価を頂いています。
◆関連リンク:
政府職員を支えるインフラ「GSS」の使命 デジタル庁×農林水産省のプロジェクトチームに聞く|デジタル庁
また、自治体システムにおいては20業務の自治体システム標準化の推進と合わせて、自治体向けに共通機能や共通サービスを提供する取組も進めています。昨年、デジタル庁からリリースした給付支援サービスは、多くの自治体が利用する自治体共通のサービスとなっています。
2.社会のデジタル化に対する意識
社会のデジタル化に対する賛同と適応、行政デジタルサービスの満足度についての意識調査を昨年から行なっています。昨年と比べて、少しずつではありますが、社会のデジタル化に対する意識は前向きになっています。
回答した約半数の方が社会のデジタル化に賛同している一方で、社会のデジタル化への適応や行政のデジタルサービスの満足度はまだ約30%と低い状況です。引き続き、より便利と感じてもらえる行政サービスを提供するとともに、社会のデジタル化に不安がある方に対して、わかりやすいコミュニケーションや利用の支援を行なっていきます。
3.今後の取組
今年(2024年)の6月、政府のデジタル政策の方針と活動計画である「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を改訂し公開しました。
今回の重点計画の改定では、社会環境が大きく変化するなかで中長期の視点を取り入れるために、10年後の社会変化傾向の分析や関連する領域について約100名の有識者にヒアリングを実施しました。その結果を踏まえ、デジタルを活用して解決すべき課題を整理し今後の方針を策定しました。
デジタルを活用して解決すべき課題
重点計画で示したデジタルで解決すべき重点課題は4つです。
1つ目は、人口減少と労働力不足です。人口減少社会への適応は喫緊の課題であり、地域の過疎化や行政職員減少によって公共サービス維持も懸念されています。2つ目は、企業における古いシステムへの依存やデータ利活用の遅れなどによる日本産業全体の競争力の低下です。3つ目は、自然災害やサイバー攻撃などの持続可能性への脅威。4つ目が、デジタル化に対する不安やためらいです。諸外国と比較しても、日本は行政デジタルサービスに対する満足度は低く、デジタルツールを「使ってみる」ことにも消極的であるという調査結果もあります。
今後の注力内容
これらの課題を解決するため、今まで進めているデジタル基盤の構築に加えて、重点計画で示した4つの取組、「制度・業務・システムの三位一体の改革」、「国・地方システムの最適化」、「各産業のデジタル改革」、「国際連携・データ戦略の推進」に注力します。
制度・業務・システムの三位一体の改革
これまで、デジタル化の取組は、制度・業務・システムについてそれぞれの担当者が改善や変更を個別に進めていました。この縦割りの壁を超えて統合的に実施することにより、今まで困難だった利用者視点でのサービス提供ができると考えています。
例えば、現行の制度を変更せずに、どんなに手続をデジタル化しても、入力項目は減らすことはできず、利用者にとって利便性の高い体験は実現できません。
また、業務やシステムを考慮せずに制度設計を行なっても、現場やシステム側で対応することができず、サービス提供までに不必要な時間や費用がかかるといった支障が生じます。
この三位一体の取組を、日常生活において行政の接点となる出生、引越し、介護など各分野で進めていきます。この取組を通じて、国民、事業者、そして行政職員の負担や面倒を取り払い、社会全体で抱えていた膨大な手続時間や作業時間、社会全体のコスト削減を行なっていきます。
国・地方システムの最適化
国と地方のシステム最適は、それぞれの機関で個別に開発や運用を行っていたシステムについて共通化や共同化を行い、最小のコストで最大の効果が得られるような仕組みに変えていくということが基本的な考え方であります。
国システムにおいては、デジタル庁でガバメントクラウド移行や共通機能利用などの方針を定め、各府省庁と連携して推進います。地方システムにおきましては、デジタル行財政改革会議と連携して、自治体からの要望を踏まえながら、最適化の取組を進めます。
各産業のデジタル改革
経済産業省が2018年に公表したDXレポートでも言及されていますが、旧来のシステム(レガシーシステム)が企業のデジタル改革の障害となっております。このレガシーシステムを早期にクラウド最適化していく取組を各産業で推進していきます。
まずは、経済産業省、IPAと協力のもと、「新たな協議会」を立ち上げ、この協議会において、レガシーシステムの現状、業種や業界特有の課題を把握し、対策方針づくりを進めます。
国際連携・データ戦略の推進
行政や産業におけるデータ利活用を推進するために、昨年末に「AI時代の官民データの整備・連携に向けたアクションプラン」を策定しました。これに基づき、品質が確保されたデータの整備とオープン化、官民データを活用できる仕組みづくりを行なっていきます。
国際のデータ戦略では、DFFTの具体化に向けた取組を進めていきます。産業界のニーズを捉えながら、国際的なデータ流通や利活用に向けたデータ連携や、データの保護措置を促す仕組みづくりを進めます。
4. 組織づくりの現状
この1年の状況を振り返りながら、組織づくりの現状についてご説明します。
多様な専門性を持つ組織として拡大
デジタル庁の職員数は設立時から2倍近く、1,100名体制となりました。各府省庁、地方自治体、民間企業から多くの人材が集まり、多様な専門性を持つ組織へと拡大してきました。
生産性と安全性の確保
組織が拡大する中で、組織全体において生産性の向上や業務の安定性を確保することも大事であります。組織内で、業務効率化の施策やプロジェクト管理のプロセス強化の取組も進めてきました。ペーパーレスでの業務、システムの進捗管理や情報共有、サービスのリリース判定会議といった取組も組織の仕組みとして定着しています。
活動の透明性の確保
デジタル庁の活動や政策推進の透明性を確保するために、デジタル庁ウェブサイト、政策データダッシュボードをはじめ、各種メディアを通じて活動の最新情報や政策に関連するデータの公開を進めてきました。多くの方々にデジタル庁のウェブサイトや、動画コンテンツ、各種記事にアクセスいただいています。
継続的な組織改善
設立時から組織サーベイによる継続的な組織改善や職員コミュニケーションを積極的に行なっており、デジタル庁の職員エンゲージメントも毎年少しずつ向上しています。全職員向けのオールハンズミーティングなどを通じて組織方針の理解も高まっています。
5. 組織強化に向けた取組
組織強化の考え方について簡単にご説明します。今年の重点計画で、今まで取り組んできたデジタル基盤の構築に加え、4つの取組に注力することを示しました。
そして、デジタル庁が関係者と連携・共創しながらこれらの取組を推進することで、重点計画でも示した人口減少や産業競争力低下という社会や産業の課題解決を行なっていくというのが基本的な考え方であります。
デジタル庁の組織強化は、この基本方針を実現するために組織の体制と能力とを強化するものであります。
組織強化の方針は、まさしくデジタル庁設立時から標榜している次世代の行政組織になるということです。
これまでの行政組織は、提供する側の視点に基づいた資源の配分や、効率性や安定性を重視した年度単位の政策推進により、モノやサービスの提供が行われてきました。
これからは、「作って終わり」という考え方や行動規範ではなく、社会課題の解決や新たな事業機会などの「価値づくりを関係者と一体となって行う」組織になること、そして、この取組を通じて、「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」を実現できる組織になることであると考えます。
そのために必要となる組織のアプローチや能力として、利用者視点による関係者との価値づくり、組織内部における変革力の確保、中長期での政策推進と社会実装が必要とされます。この「関係者と共に創る力」、「自ら変革する力」、「継続的に社会実装する力」の強化をデジタル庁の人員体制の増強と合わせて取り組んでいきます。
共に創る力
行政サービスにおいて利用者との共創をあたりまえにするために、デジタル庁のシステムだけでなく、全ての政府システムにおいて利用者視点によるサービスづくりを進めていきます。
足元では、各府省庁のシステムで利用満足度を評価項目として導入することをはじめ、ウェブサービスにおいては利用者からのフィードバックを得る仕組みをデジタル庁で作成して展開していきます。
また、利用者だけでなく、府省庁、地方自治体、民間企業などの関係者とのつながりも強化していきます。今までの連携プロセスに加えて、府省庁では、各府省庁の官房長が集まる「各府省庁DX推進連絡会議」での方針共有。地方自治体では、都道府県のデジタル政策責任者やCIO(最高情報責任者)との連携とデジタル共創プラットフォームの活用。民間事業者とは、各団体や個別企業とのコミュニケーションの機会を増やしていきます。
変革する力
デジタル庁内の変革力を確保するために、組織の企画・開発力の強化を進めていきます。
組織横断の企画立案チームを組成し、新たなデジタル政策立案などの企画推進力の強化を図っていきます。また、システムの内部開発については、デジタル認証アプリや対面確認アプリ、デジタル庁ウェブサイト、決済サービス、マイナンバー点検支援ツールなど、この2年間で複数の成果が出始めています。これまでに得られた知見に基づき、内部開発のプロセス整備と拡大を進めていきます。
組織の人員体制の増強と合わせて、業務をさらに効率化するために、組織全体のデジタル改革も行います。デジタル庁内の業務プロセスの改善と並行して、人事・プロジェクト・会計データを活用した効率的な業務の推進、これらのデータを活用した合理的な意思決定の定着を進めます。
継続する力
デジタル政策の社会実装やデジタル基盤の整備は、企画立案から成果が出るまでに年単位の時間がかかります。そのため、政策の継続性や中長期視点に基づく活動と定期的な評価が必須です。
中長期での政策推進と社会実装を行うために、引き続き政策進捗や活動成果の可視化を行い、活動の継続性確保と社会全体での議論促進を目指します。併せて、政策や取組に共感いただけるように、わかりやすい情報提供も実施します。
これらの活動を推進する組織を持続するために、デジタル庁設立時から行なっている組織サーベイを継続し、組織課題の解決や職員のエンゲージメントを高める取組を進めていきます。そして、重点計画で示した取組を確実に遂行できるように、1,500名体制の組織づくりを行なっていきます。
おわりに
デジタル庁は、日本のデジタル社会を実現する司令塔として3年前に発足し、この9月から4年目に入ります。
デジタル庁は、デジタルサービスやデジタル基盤の整備のみならず、デジタル技術を活用して社会課題の解決に取り組み、世界に誇れるデジタル社会の実現を目指していきます。
また、デジタルは手段であり、ツールであります。大事なのは、「どんな社会を目指して何を解決していくのか」というビジョン、目標、方針を、多くの方々と議論し共有することであります。
引き続き、このような機会も活用しながら、多くの方々に政府やデジタル庁のビジョン、方針を共有して「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」に向けて皆さんと一緒に取組を進めていきたいと思います。
会見動画
◆これまでの「デジタル庁からのお知らせ」記事は以下のリンクをご覧ください。