ベース・レジストリの整備で、手続を効率化する。デジタル庁法務スペシャリストの軌跡
デジタル庁では、国のマスターデータを整備することにより、国民の皆さまの各種手続を効率化することを目指しています。
その一環として法人の名称や所在地、個人の住所などを、行政機関が参照できるデータ基盤「ベース・レジストリ」の構築に取り組んでいます。
令和6(2024)年の第213回通常国会では、ベース・レジストリの実現に向けた「情報通信技術の活用による行政手続等に係る関係者の利便性の向上並びに行政運営の簡素化及び効率化を図るためのデジタル社会形成基本法等の一部を改正する法律案(以下、改正法案)」を提出し、5月31日に成立しました。
法改正にあたり、デジタル庁で法務スペシャリストとして働く弁護士が国民や自治体職員の方々への業務ヒアリング等のプロジェクトの構想、法案への落とし込みや各省庁や内閣法制局との折衝、国会議員への説明や法案審議まで、立案から成立まで一連のプロセスで活躍しました。
今回のデジタル庁公式noteでは、デジタル庁の法務スペシャリストである清水裕大へのインタビューを通じ、ベース・レジストリについての解説をします。
「ベース・レジストリ」で面倒な手続をシンプルに
国民の皆さまには、さまざまな手続のたびに、法人の名称や所在地、代表者の氏名、個人の住所など、何度も同じことを記入または入力していただいています。いろいろな形式の申請書に、書き損じがないよう正確に記載する必要があるため、非常に神経を使う作業です。
また、手続のたびに、添付書類として登記簿謄本の提出を求められることで、平日に休暇を取って役所に足を運んでいただいている方もおられるでしょう。
現在、デジタル庁が推進している「ベース・レジストリ」は、さまざまな手続に共通する項目を、各行政機関が参照できるデータベースです。国民の皆さまが何度も同じ項目を書いたり、入力したり、あるいは同じ情報を何度も提出することを一つ一つ無くしていく、そんなプロジェクトです。
たとえば、飲食店を営む法人が規模拡大のために本店所在地を変更する場合、法人の登記情報を変更するために法務局に行く必要がありますが、それ以外にも、店舗ごとに、その許可を受けた保健所に変更の届出を行う必要があります。
あるいは、自治体の職員の皆さんも、例えば住民の皆様からの問い合わせに応じて、最新の法人の情報を確認するために、法務局に行き、登記簿謄本を取得したりしています。
なぜ今、「ベース・レジストリ」が必要なのか
これまでも政府は「ベース・レジストリ」のような統一的なデータベースの必要性を認識していました。しかし、具体的に「誰が」「何を」整備するのかが曖昧でした。
また、マイナンバーカードに誤った情報が紐付けられるトラブルが発生したことにより、政府は、「正確」なデータを早急に整備する必要性を認識しました。
そこでデジタル庁は、さまざまな手続で参照されるデータベースをベース・レジストリとして、計画的かつ総合的に整備・改善していくため、令和6年の第213回通常国会にて、改正法案を提出。5月31日の国会で、法案成立となりました。改正法案では、国の義務としてデータ基盤を整備することや、そのための体制強化を図ることなどが明確になりました。
改正法案の肝は「組織単位の情報管理に横串を通した」こと
今回の法律で新しい点は、人の名称や所在地、代表者の氏名、資本金などの変更について、登記のみ変更すれば、それ以外の届出を不要としたことです。
今回成立した改正法案は、各行政機関が参照するマスターデータを整備した上で、個別の法令に関わらず、行政機関が別途情報を入手した場合は、個別の届出を不要とすることで、これまでの組織単位での情報管理に横串を通すものとなります。
横串の情報管理を実現するにあたり、最も整備に手間と時間を要するのが「住所」です。日本の住所データは、いわゆる「表記揺れ」により、共通の情報として使いにくい状態にあります。
「千代田区霞が関」と「千代田区霞ヶ関」や、「1丁目1番」と「1ー1」といった単純な表記揺れであれば、ある程度機械で対応可能です。しかし「舞浜2」と書かれると、「舞浜2丁目」と「舞浜2番地」のいずれを意味するか区別できないため、機械処理では対応が困難です。
また、不動産の権利状況や固定資産税の管理に使用される地番と住所の表記が異なることも、行政手続に時間を要する原因の一つとなっています。
2025年夏までに「ロードマップ」を策定
「ベース・レジストリ」の実現に向けて、今後の具体的な活動を二つ紹介します。
まず中長期的な動きとしては、今回成立した改正法案に基づき、今後のデータベース整備のロードマップ「公的基礎情報データベース整備改善計画」を、2025年夏までに策定します。ロードマップは、予算やデータベースを整備するPdM・エンジニアの方々の知見などを踏まえて、システムの実装スケジュールを作成した上で、具体的に何年までに、どのデータベースを構築もしくは改修するのかを定めるものです。
直近では、「ベース・レジストリ」の肝となる「住所・所在地」の表記統一に向けた第一歩を踏み出します。2024年度中に、「紀尾井町1丁目」といった町字(まちあざ)のデータについて、関係省庁や自治体の皆さまと一緒にしっかり整備を進めてまいります。
「法律を“守る”ではなく“つくる”立場を経験できた」
清水は「ベース・レジストリ」の実現に向けた法改正を含む、2年3か月間のデジタル庁での経験を、次のように振り返ります。
デジタル庁での業務を通じて清水は、それまでの弁護士業務とは、ある意味“真逆”の経験ができたと語ります。
しかしデジタル庁では、日本全体の社会課題の解決に向け、既存法令の範囲内での提案に加え、法令を新設または改正するという手段も選べたのです。
また、より細かい視点では、民間のデータではなく、行政のデータを取り扱う仕事をしたことも、弁護士としての知見を広げることにつながったといいます。
「弁護士になって初めて“当事者”として働いた」
清水は一般的な弁護士業務にあたる際に “ 当事者化しない”ことをポリシーにしているといいます。
しかし清水は、デジタル庁では、弁護士になって初めて“当事者”として仕事をしたと振り返ります。
その上で、立法のプロセスを最初から最後まで経験したことでも、キャリアの幅が広がったと語ります。
さらに清水は、デジタル庁での経験を、こう総括しました。
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