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欧州のデータ戦略の取組みはどう進んでいるのでしょうか

欧州は、法律からデータ連携の仕組みデータ整備、ハードやネットワークの基盤まで、EIF(European Interoperability Framework)を中核に一貫した体系で推進しています。

12月5日から9日まで欧州を訪問し、最近のデータの取り組みについて意見交換をしてきました。
データ戦略に関しては、OECD、EU、英国政府、データ品質に関してはOECD、EU、英国政府、スマートシティに関してはOECD、EU、FIWAREの各専門チームを意見交換しています。

データ戦略全般に関して

日本のデータ戦略を先方に説明すると、アーキテクチャを軸にデータモデルと基礎データを整備し、プラットフォームを作り、ルール検討を行うとともに、そこにスモールサクセスをのせていく流れや、スマートシティや地理空間に焦点を当てている点は各国とも同じ戦略であり、コンパクトによくオーガナイズされて推進していると評価です。

データ戦略に関する今回の出張の最大の目的は2022年12月6日のSEMIC2022です。ECが主催する欧州最大級のデータ戦略やインタオペラビリティに関する国際カンファレンスです。

各国政府や支援する企業などが、現地参加372人、オンライン参加779人、60か国から参加しています。

新型コロナウイルス感染症の前は、各国のデータ戦略部門、基盤部門が中心で300人位の参加者だったのが、参加者がプラットフォームベンダー、利用部門等にシフトし、参加国数が増えてきたのが今年の特徴です。

今回のテーマは、「インタオペラブル・ヨーロッパ・プログラムの中でのデータスペース」です。

この会議に先立ち11月30日にインタオペラブル・ヨーロッパ法が提案されていますが、これを強力に推進していくための様々な取り組みが紹介されていました。

欧州のデータ関連法というと一般データ保護規則(GDPR)、データガバナンス法、デジタル市場法、、デジタルサービス法、データ法などのサービス利用に関するものが注目されますが、インタオペラブル・ヨーロッパ法は、つながる基盤を整備するのための法律です。

会議では、メタデータであるDCAT-AP、パーソナル・データスペース、エッジコンピューティングのためのセマンティックス等の講演が行われ、分野横断のユースケースのパネル、ECの各プロジェクト紹介や若手研究者のピッチなどが行われています。

パラレルトラックがあり全部に参加できたわけではないですが、他の意見交換も通じて改めて明確化されたり印象に残ったのは以下の点です。

  • パーソナルデータは重要だが、イノベーションを阻害してはいけない。(イノベーティブ・リーガル・フレームワーク」を考える)

  • データスペースは注目されているが、定義がない。一方、利用者からみると複数のデータスペースを活用するので、データスペース間のインタオペラビリティが重要である(分野間でデータを活用するというプラットフォーム視点ではなく、利用者からみてあらゆるデータが活用できる)

  • データ利用者が主導してサービスやデータモデル設計をする必要がある。データオーナーやプラットフォーマー等、提供する側が主体ではない。

  • 個別サービスにおいてはLinked Dataが重要である。

  • データインタオペラビリティでは、エッジデータや地理空間データも一体として考えていくことが重要である。

  • 3D都市モデルは誰にもわかりやすいことから、データ連携のハブ的なものに位置付けられる。(ロケーションデータとしての考え方)

  • 強いリーダーシップを持ったデータ戦略推進体制と人材整備が重要である

データスペースでは何が進んでいるのか

日本では、データスペースというとGAIA-X等の産業の基盤の話題が中心ですが、データスペースはもっと大きな国なども超える空間の概念です。
今回のカンファレンスのテーマでもあり、広くスペースの基盤がどうあるべきかが議論されています。

スマートシティも1つのデータスペースです。当該都市が頑張れば良いというものではなく、周辺都市も含んだ広域のデータスペースが求められています。

自宅と勤務先のデータスペースが分断していては使いやすいサービスはできません。また都市の中では、モビリティのデータスペース、ヘルスケアのデータスペースなどの多様なデータスペースが連携しサービスを作っていることになります。

そうした点でビルディングブロックや参照データモデルの活用は重要で、基盤が共通だからこそ共通のサービスが作りやすくなります。これまでのように各都市や業界が独自に標準化をするフェーズは終わり、都市固有サービスと分野別サービスで、非競争領域である基盤をどう共有化するかがポイントになります。

また、並行してオープンソースの推進と各種ツール開発の支援が行われています。fiwareでもツールのマーケットプレイスを今年の重点として推進していますし、プラットフォームも基本部品の展開から多くの部品の供給へと、ステージが変わってきています。

データ品質とデータマチュリティが今後は重要

欧州はデータ駆動社会を作る基盤整備はできたのですが、運用の課題となるデータ成熟度やデータ品質に関してはまだ整理が完全にできていません。

品質の高いデータを作るにはデータモデルが基盤となり、そこにデータクオリティのモデルがあり、それらを使いこなすデータエンジニアが重要になります。

そして使えるようになったデータをきちんと使いこなすデータリテラシを持ったデータ利用者が必要となり、その人も含んだ組織としてのデータマチュリティが求められます。「データマチュリティ ← データリテラシ ← データエンジニア ← データクオリティモデル ← データモデル」のような流れが必要になります。

また、DFFTに関連してトラストが注目されており、様々な分野でトラストの議論が行われています。制度的な議論やトラスト技術の議論が専門的に行われる一方で、スマートシティやデータ取引の中でどのようにトラストを確保していくのかという実装的な議論がすすめられています。

データの品質は、目的によっても要求レベルが違うので一概に良い悪いの判断は難しいです。そのため商品表示にあるように、判断材料となる数字を示すことが重要です。どのような数値を出せば良いのか、各国でも模索しているところですが、データが国際的に流通することを考えると、国際的に協調しながら進めていくことが重要になります。

データ成熟度はデータ品質の指標と使い方がちょっと違います。取引に使うと言うよりもセルフチェックにより自発的にデータが活用できる組織かどうかを確認し改善するための仕組みです。

検討が始まったばかりであり、DMMによる組織に対するモデルがよく紹介されますが、データインタオペラビリティ成熟度や、データ品質に近いデータ管理成熟度等の分野に特化したものもあり、まだまだこれから検討が進められていく領域です。

データ品質などに関する主なドキュメントは以下のとおりです。
OECD  Smart Data Strategy
OECD The Path to Becoming a Data-Driven Public Sector
OECD Open, Useful and Re-usable data (OURdata) Index: 2019 - Policy Paper
SIS-CC 2020-2025 Strategy
英国 Government Data Quality Framework(2020
EC Data.europa.eu data quality guidelines(2021)
EC Data quality management(2019)
英国 Introducing the Government Data Maturity Model
英国 Data maturity model: user needs(2021)

データの管理が変わってきている

これまでのデータベースは、大量データの処理に適したRDBが主力でしたが、複雑なデータをwebのようにつないで活用するLinked DataによるグラフDBの活用が始まっています。ファイルでの全件データを扱うのではなく、個々のレコードを取り出して使う機会が増えていることから、欧州のデータ戦略の推進ではLinked Dataが良く活用されます。

データ流通基盤の心臓部であるコンテキストブローカもNGSI-LDを使いますので、スマートシティでもLinked Dataの活用が増えています。
もちろん、RDB等のDBが適しているところではRDBが使われます。

データモデルは、欧州のコアボキャブラリはクラス図で書かれており、米国NIEMも民間がクラス図を提供するなどしてきました。

最近はスキーマの定義をするのが基本となってきており、schema.orgやSmart Data Modelsではクラス図を持たずスキーマのみ提供しています。

日本のGIFは可視性を考えクラス図を活用していますが、スキーマ提供の要望も多いことから今後提供を考えていく必要があります。

スマートシティがデータ戦略のコア部分に融合してきた

スマートシティはデータ駆動社会の縮図なので、これまでもデータ戦略の検討と一緒に考えられてきましたが、一層その距離が縮んでいます。

汎用的なフレームワークとスマートシティの接近

2022年1月にはEIF for Smart City & communityが提案されています。ここで、データ戦略で推進してきたEIFと、テクノロジの活用から検討が進められてきたLiving-EU等のスマートシティ・プロジェクトとの融合が図られています。

MIMsの活用

これまでスマートシティの中で検討され、Living-EUでも参照してきた、スマートシティで最低限そろえるべきメカニズムである MIMs(Minimal Interoperability Mechanisms)が、Living-EUの中でもさらに重視され、MIMsプラスとして拡張が検討されています。また、この考え方をデータのインタオペラビリティ全体の議論へ反映する検討も進められています。

地理空間との融合

データ戦略とスマートシティの議論をしていると出てくるのが地理空間データです。

これまで、地理空間データは、地理空間データ共有のプロジェクトであるINSPIREを進めており、EIFのチームとは別の専門家チームで検討が進められてきました。

INAPIREは、2021年に法的な期限を迎えたものの継続してサービスを続けています。都市の3Dモデルやモビリティが検討対象になってきたことから、地理空間データの取り組みがクローズアップされています。

一方で、2016年に開始したELISE (European Location Interoperability Solutions for e-Government )の一環でLIFO(Location Interoperability Framework Observatory)の普及が始まるなど、公共施設や店舗など、地図上の位置情報に関するデータのインタオペラビリティの重要性がクローズアップされています。

スマート・データ・モデルの拡大

OASCがMIMsでスマートシティのデータモデルを定義してきましたが、産業用データも含めてSmart Data Modelsの整備がfiware foundationを中心に進められています。データモデルの登録が簡単で自動化支援もしており、3分で新しいモデルが登録できます。

3人のスタッフと100人を超えるコントリビュータが参加して、現在800以上のデータモデルが登録されています。

インドのIUDXとも連携しており、スマートシティを中心に展開を図っています。

ネクストステップのプロジェクトが始動

Live-in.EU(https://living-in.eu/)プロジェクトはさらにネクストステップとしてGo LI.EUプロジェクトやDS4SSCC(Data Space for Smart and Sustainable Cities and Communities)を2022年10月から始めています。

Go.LI.EUでは既存の団体と連携し、財務、技術、人材、制度、モニタリングを柱として取り組みを始めています。DS4SSCCではEU Green Deal とSustainable Development Goalsに向けた取り組みを進めていく計画です。

データ戦略推進体制

体制強化が重要というのが各組織の共通認識です。

インタオペラブル・ヨーロッパ法は、各国のインタオペラビリティの責任者によるボードの設置が必要としています。

各国でもCDO(Chief Data Officer)を設置しており、組織の基幹で調整事項も多いことからCDOによるリーダーシップやCDO間のネットワークが非常に重要になると考えています。

どの組織もCDO(Chief Data Officer)をはじめとした政府内のリーダーシップ体制や民間を含めた体制が確立しています。
そのため関連ドキュメントが充実しており、知識の集積が体系的に進められています。

2023年1月4日 更新


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