ボトムアップで作ったデジタル庁のバリュー【策定プロセス後編】
デジタル庁で人事・組織開発を担当しています、唐澤です。
前回のnoteでは、デジタル庁におけるバリューの必要性について共有させていただきました。
後編では、その策定プロセスと、そこでの議論について共有していきたいと思います。
バリュー策定プロセスの全体像
そんなこんなで、組織づくりの中核となるバリューの策定を進めることとなりました。
最も重視したことは、「ボトムアップで策定すること」です。
上述の通り、デジタル庁には様々な背景を持った方が所属しています。その誰かが正しいわけでもないし、誰かが間違っているわけでもない。だとしたら、誰か上の方の人が決めてもそれが正しいとも限らないんですよね。その人にはその人の背景がある。
だから、全員の声が反映され全員が納得できるものにしたいと思いました。
何より、バリューは策定することがゴールではありません。浸透し、日々の意思決定の瞬間で使われ、行動や言動に反映され、それが組織カルチャーとして積み重なっていくことが重要です。
もし、他人が一方的に決めた価値観、それも背景の違う人が決めた価値基準を押し付けられて、心から納得して日々の行動に移せるでしょうか?答えはNOだと思います。
ですので、一人ひとりが議論に参加し、思考し、自分ごととして捉えること。そして、「自分と違う考えもあるんだ」「背景が違うとこれほどにも違う考え方をするんだ」ということに直接触れることが大事だと思いました。そうすることで、考えの違いを理解し、互いに相手に共感しながら、組織として一枚岩になっていくという一連のプロセスです。
バリュー浸透の第一歩は、策定の段階から始まっているということですね。
さて、具体的な策定プロセスはこのような感じで行いました。
一つ一つ簡単に振り返っていきたいと思います。
(1) 第1回バリューワークショップ(アイデア出し)
2021年5月に、最初のバリューワークショップを実施しました。(私の入庁前のため、参加していませんが)
ここでは、内閣官房IT総合戦略室の職員としてデジタル庁の立ち上げの任に当たっている、各省庁から出向で集まった役人や、4月入庁の第1期の民間非常勤人材が集まり、意見を出し合いました。
このワークショップでは、ミッション・ビジョンの実現のために自分たち職員はどのような組織であり、どのように働くべきか?ということについてブレインストーミングを行い、アイデア出しをしました。
たとえば、以下のような質問に答える形で、付箋で一人ひとりが自分の考えを書き、共有していきました。
などです。
こうした質問に各自が答えながら、自分の考えを改めて言語化し、意見を募っていったのが1回目です。
合計250もの意見・アイデアが出されまして、ここがデジタル庁の組織の方針を決める上での起点となる重要な会となりました。
(2) 第2回バリューワークショップ(コンセンサス形成)
2回目のワークショップは、ドラフトとなるバリュー案を元に、みんなで意見を出し合ってブラッシュアップしていく場として開催しました。
ドラフト案は、第1回バリューワークショップで出た250の意見を全て集約し、それをグルーピングなどしながら、人事・組織開発チームで策定しました。
ドラフト案の策定にあたってはまず、いろいろな意見やアイデアの背景となる課題意識の把握からスタートしました。
当然、250の意見は、様々な粒度のものが混ざっていますし、いろいろな背景・前提のもとに出されているため矛盾するものも含まれています。
そのため、様々な背景や所属、職種や所属の方にヒアリングもさせてもらいました。それぞれの意見に対して「そのように思うのはなぜか?」「組織課題はどこにあるのか?」ということを明確化していくためです。
そうした組織的な課題を解決し、理想とする組織像へと近づくために大切にする価値観や行動指針を丁寧に言語化し、バリュー案を策定しました。
そうしてできたバリュー案に対して、バリューワークショップでは、「実際に日々の行動や言動に落として使っていく場面を想定し、もっと自分たちが使いやすくしていくにはどうしたらいいか?」ということを議論しました。
ワークショップのメンバーは有志による公募とし、40名を超える方が参加してくださいました。
デジタル庁設立直前の8月の実施ということで、CxOなど幹部候補になるメンバーにもオブザーブいただきながら、役員の審議官・参事官といった管理職クラス、民間非常勤職員として参画しているエンジニアやプロダクトマネージャーといった専門職の方々、さらには、地方自治体から研修生として派遣されている方も参加され、本当に多様なメンバーが集まりました。
平井大臣も冒頭に参加され、バリューの重要性を語ってくださいました。
40名全員で一つの議論をすると話す機会が限られてしまうので、4グループに分かれ、各グループで意見交換をまずしてもらいました。
それを全体に発表してもらい、共通した課題や、意見の分かれている点などを取り上げて、全体でコンセンサスを得る議論をしました。
議論する上で重視したことは、立場や背景を関係なくフラットに意見が交わせる環境づくりでした。省庁では、「○○参事官」や「XX審議官」と肩書きで呼ぶことが一般的です。しかしそれをしてしまうと、肩書を背負った発言しかお互いにできなくなります。
そうではなく、誰もがいち職員として対等に議論し、忖度なく自分の意見を発することが大切です。そのため、このワークショップの場では、「○○さん」とさん付けでお互いに呼び合うことをグランドルールとしました。
呼び方という小さなきっかけですが、こういうところから組織カルチャーは築き上げられていくと信じています。
そして、これらを全てオンラインで行いました。
デジタル庁といえど、ITツールへの慣れ方は人それぞれなので、各グループにファシリテーターと書記をセットするなど、多くの方々が運営としても協力してくださったおかげで、なんとか実施することができました。
チャットツールなどを活用できる分、オンライン上の方が意見を引き出しやすく、効果的に議論ができたようにも思いますので、オンラインでのワークショップは結構おすすめです。(慣れるまでは大変ですが!)
(3) 第3回バリューワークショップ(ブラッシュアップ)
第3回のワークショップは、前回の議論で一定のコンセンサスを得たバリュー案をもとに、さらにブラッシュアップを進めます。
主な対象者は、9月1日入庁の職員です。9月1日のデジタル庁の設立と同時に入庁する職員も多く、一緒にスタートする仲間全員で作りたいという思いから、9月にも改めてワークショップを実施しました。
ワークショップは何度でもやっていいのです。多くの人の意見を反映すること、そして策定プロセスに関わった人を増やしていくことで、策定後の浸透を一緒に進めていく仲間を増やしていくためです。
ここでも有志でメンバーを集め、30名ほどのメンバーがオンライン上のワークショップに集まりました。
9月1日入庁の一人でもあるということで、デジタル監の石倉洋子さんにも参加いただきながら、ここでも全員で立場や肩書きを関係なく議論を進めました。
ここでは、「疑問や違和感のある点はないか?」「使うことを想定した時に使いづらくなりそうな点はないか?」といった疑問を投げかけながら、たくさんの意見を出していただきました。
9月から新たに入られたフレッシュな目線で、最後のブラッシュアップをすることで、「これから新たに入る方にも使いやすいものか?」「外部に公開してステークホルダーが見ても違和感がないものになるか?」などの視点でチェックすることができたように思います。
(4) アンケートフォームでの意見募集(最終化)
最後の修正の機会として、アンケートフォームでの意見募集を行いました。
ワークショップを開催しても、それぞれ日々の業務を優先せざるを得なかったり、日程が合わなかったりと参加できない方もいます。
理想的には、全員が参加できるまでやり続けることですが、それによって策定に1年も2年もかけてしまっては本末転倒です。丁寧な議論は大切ですが、スピーディーに決定して展開していくこともまた必要です。
(こうした矛盾する中で最適解を探り続けるのが、難しくもあり面白くもあるなと、個人的には感じます)
そこで、「ここは変えて欲しい」という意見があれば発せられるという機会を作りました。会議に参加するなど負担が高いと発しにくくなってしまうため、意見のしやすさを優先してシンプルなアンケートフォームで意見を募りました。
ここでのポイントは、「代案」とセットで意見を出してもらうことです。
「ここは何か違う」「こうではない気がする」という違和感があった時に、「こうではない気がする」という意見だけだと、修正が難しい。
何より、違和感を感じた本人がしっかりと「何がどう違うのか、どうすればもっといいのか」を言語化するというプロセスが大事だと考えました。言語化するというプロセスを通じて、その方のモヤモヤしたものの解像度が上がり、考えがより明確化されます。
そうした結果、受け取って取りまとめる事務局としても、その意図や課題感をクリアに受け取ることができ、より良い形で最終化をしてゆくことができたように感じます。
そして、これまでのワークショップやアンケートフォームでの議論の過程は全てオープンに公開するということも重視しました。
それぞれの意見に対して、どういう議論を経てどういう結論に至ったか。意見はあったが採用されなかった理由はどうしてなのか。こうしたことを、全て資料として整理して、メール等のコミュニケーションツールで全職員に共有しています。
こうすることで、今のバリュー案に至っている議論の経緯が後から加わったメンバーにも共有できます。そして何より、議論が透明性高く可視化されることにより、「誰のどういった意見も等しく重要で議論される組織である」ということが伝えられると考えてのことです。
フラットな関係やオープンなカルチャーとは、こういったことから作りあげられていくと信じています。
(Pexelsより)
(5) デジタル大臣・デジタル監・デジタル審議官の承認
最後は承認です。「ボトムアップ」で策定するということは、「ボトム」から議論を広げながら、最終的にはトップに提案を「アップ」することを意味します。
デジタル庁において、庁内の全体に関わる重要な意思決定は、トップであるデジタル審議官、デジタル監、そしてデジタル大臣の承認が必要です。
これはデジタル庁にきてから学んだことですが、省庁には「レク(レクチャーの略から来ているそうです)」というものがあって、幹部に説明して共有し納得いただくプロセスとして「レク」を行います。
民間企業だと、「社長プレゼン」みたいなものが近いかもしれません。
これを、幹部揃ってる場で提案するのではなくて、デジタル審議官、デジタル監、そしてデジタル大臣と、順々にレクを行って承認をとります。
このレクですが、スタートアップの感覚からすると、「まとめて提案した方が早いし、意見が分かれるならその場で一緒に話してもらって決めたほうが早い」という気も正直します。
一方で、順番に確実に上げていくことで、適切にスクリーニングされた案件しか大臣には上がらないですし、より精度の高い提案が大臣に届くということでもあります。
入庁してみて思いますが、身近で働いてる管理職の扱う案件の量がとても多いんですよね。なので、大臣や事務方トップが扱う案件は想像を絶するほどの多さだと思われます。
そうした組織の環境においては、レクを通じて適切にスクリーニングしてトップに上げていくという側面もまた、全体の効率のために必要なのだろうと個人的に思ったりしています。
なお今回、デジタル監レクについては、デジタル監の石倉洋子さんからのアイデアで、CxO含めた場で議論させていただきました。(CxOとは、CA江崎さん、CDO浅沼さん、CISO坂さん、CPO水島さん、CTO藤本さんのことで、民間から入った幹部です)
この場で、幹部全員でバリューについての議論を深めることができ、それぞれの方の視点からインプットもいただき、とても良い機会となりました。
そうした議論を経て、一人ひとりの考えを丁寧にすり合わせながら、最終承認まで完了しました。
(Pexelsより)
バリューに込めた想いと議論の背景
こうしてできたバリューについて、改めてここで掲載します。
まず、バリュー全体の考え方について説明します。
バリューの数は4つとしました。入れたい要素はたくさんありますし、アイデアも元々250あったので、集約するのは大変でした。しかし、多いと覚えられないので、バリューは3〜5個が適切だろうと考えています。アイデアを集約する中で、4つにまとめるのが一番ちょうどよくまとまりました。
バリューは日本語にしました。日本企業でも英語のバリューを掲げている会社も多いです。その方がキャッチーで使いやすい側面があるからです。でも僕たちはデジタル庁という日本の国を背負う組織なので、やはり日本語に拘りたいなと考えました。
繋げて一つの文章になるバリューにしました。英語のようなキャッチーさに欠ける分、覚えやすさ、分かりやすさを向上させるために、4つを繋げて文章になるようにしています。「この国に暮らす一人ひとりのために、常に目的を問い、あらゆる立場を超えて、成果への挑戦を続けます」という一文です。
なお、この文章の構成は、「誰のために」「どうやって」「どうやって」「何を成すか」という4つの構成です。
最初に、「最も優先するべき対象」を定義し、誰のために働くのかというWHOを明確化しています。その対象のために、どういうやり方をするかHOWを2つに整理し、何を成すのかというWHATで最後を締めくくっています。
ここから、それぞれのバリューについての議論の経緯をご紹介します。
(Pexelsより)
(1)この国で暮らす一人ひとりのために
このバリューは、デジタル庁の職員は「誰のために働くのか」ということの優先順位を決めたものです。
職員一人ひとりとしては、協働する関係省庁のために働く、自治体のために働く、町内の職員のために働く、という要素の強い方々もいます。目の前にしているある種の顧客でもあるので、そう感じるのは当然です。
ただ、忘れてはならないのは、最終的な顧客である「国民」です。
サービス提供者としてのデジタル庁としては「ユーザー」とも言えます。
最終顧客であるユーザーであり国民のために働くことを最優先しようということを約束したのが、一つ目のバリューです。
特に議論を要したのは、「国民」の定義です。
日本在住者だけでなく、日本国籍を持ち海外に住む人もユーザーの一人であり、もちろん国民に含まれます。
一方で、日本で生活している外国籍の方々もいます。彼らも税金を納めていたりしてユーザーになり得る訳なので、対象に入れたい。
そうした想いから、「この国で暮らす一人ひとりのため」という表現にしました。
物理的にこの国で暮らしている日本国籍・外国籍の方もそうですが、物理的には海外にいる日本国民という方も「この国で暮らしている」と捉え、解釈しています。
もう一点、強調しておきたいのは、「誰もがデジタル化の恩恵を受ける社会」という表現です。
デジタル庁は、ミッションで「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化。」を掲げています。これについては、「日本国民全員がデジタル化しないといけないのか?」という議論を見受けることがあります。
この点については、「アナログを全て止めよう」ということを必ずしも指しているわけではないと庁内で議論しています。
つまり、必要に応じてアナログも並行するし、デジタルに慣れない方がいたら周りから手助けなどしながら使っていくことも含め、「デジタル化は進めるが、取り残される人がいないように配慮していく」ということがこのミッションのもつ意味です。
そうした意味合いを込めて、「誰もがデジタル化の恩恵を受けられるようにしていくことこそが、この国で暮らす一人ひとりのためになる」という想いを込めて、バリューの説明文としました。
職員としては、この「誰もが」恩恵を受けられるようにするために大切にしないといけないことが、あらゆる立場の方々の声にしっかりと耳を傾けることです。
「声なき声にも耳を傾け」と表現したのはその想いの現れです。当初は「小さな声にも」としていたのですが、「声を挙げたくても挙げられない立場や環境の方もいる」という指摘の声が庁内から挙がりました。
日本には多様な方が暮らしているということをしっかりと認識し、想像力を働かせ、思いやりを持って接していく。そうしたことを大切にしてゆきたいと思います。
(Photo ACより)
(2)常に目的を問い
このバリューは、「生産性」に対する課題意識が起点となりました。庁内で挙がる声として多いものの一つが、生産性に対する声なのです。
生産性は、ここでは「労働生産性」と表現した方が正確だと思うので、その前提で話を進めます。労働生産性とは、労働投入量というインプットに対する、生み出した付加価値というアウトプットで決まります。
つまり、こなしている業務量の割に、生み出してる成果が大きくないという感覚が職員の中にあると言えます。
ヒアリングする限り、生産性が高まらない要因はいくつかあります。
といった具合です。
これらの声は、民間からも役人からも挙がっています。従来の省庁流のやり方からくる慣性が働いてる部分もあれば、デジタル庁というまだ立ち上げたばかりの組織だから起きている面もあると思います。
こうした状況を打破するために、「仕事の目的をまず考える」ということを職員で共通化していこうと考えました。
業務を進める上で、そもそもの目的を問うことって実は勇気のいることです。「これやってくれない?」と上司から言われたときに「そもそも目的は何ですか?」とストレートには返しづらいですよね。
そのため、「目的を問う」ことを職場内でしやすくする。そうした意図でのバリューです。「この仕事は何のためにやるのだろう?」と疑問を抱いたとき、「これの目的って?」ということを合言葉にしていきたいと思います。
その上で、大切なことは「やめる」ことを決める勇気です。行政という役割の特性上、やると決めたことをやらないのは難しいんです。
民間企業であれば、戦略方針の転換ということで、投資をストップしたり、事業をクローズしたりしますが、行政においては、法令で実施が決まっていたり、政府主導で意思決定が済んでいたりするためです。
もちろん、そうした決まったことに反し、デジタル庁が独自に何かを勝手にやめることはできません。
でも、「本当に今この瞬間に全てやらないといけないのか?それが国民のためになるのか?」と問い直すことで、やり方を改めることはできるかもしれません。
日々の業務の中で、「なんとなく習慣でこの書類作ってたけど、本当はなくてもいいのでは?」と気づいて効率化が進むかもしれません。
そうした一つ一つの積み重ねが、生産性を向上していくと思っています。
(Pexelsより)
(3)あらゆる立場を超えて
このバリューは、デジタル庁ならではの組織課題を意識しています。
バリューの必要性のパートでもお伝えしたように、デジタル庁は官・民が融合した新しい組織です。
そうした中で注意しないといけないのは、相手の背景や前提を理解せずに、「どちらが正しいか」という論争を始めてしまうことです。それぞれの前提を前にすれば、どの意見もロジックは通ります。そうなるとその論争は哲学論争となってしまって、正解はありません。これを防ぐためにどうしたら良いかという議論を多くしてきました。
そこでの一つの結論は、「学び合う組織」にしていこうということです。
民間からデジタルに関する専門性の高い人材が集まっていると、各省庁から出向で集まっている役人としては、デジタル化について民間から色々と学ぼうとします。
実際、役人の方々は皆さん、「民間ではどうしてるの?」とか、「デジタルを活用して効率化するにはどうしたら良いのか?」ということを民間の人材に結構聞いてくれます。(これはとてもやりやすい!と個人的に思っている点です)
一方で、民間人材も役人から学ぶことが多くあります。たとえば、「省庁においてプロジェクトをスムーズに推進するには、どういう仕事の進め方をしたらよいか?」という声はよく挙がっていて、民間人材も行政の仕事の進め方を学ぶ必要がります。
こうした知識・スキルや仕事の進め方もそうですが、何より大切なのは、相手がそう考える背景や考え方の違いについて、理解し、共感することです。
たとえば、行政で働いていると「この書類って書く意味あるのかな?」と思ったりします。「時間もったいないから、やめてしまえばいいのに」と言いたくなるのです。
でも、書いている方からしたら「そうは言っても必要だってことになってるから」と思ってやめられるわけでもないので、「やめたらって言われても困る」ということになり、結局のところ何も解決しません。
でも、その書類を書くには、書くに至った経緯があって、そこには当時の必要性がしっかりあって、それで今に至るんです。
その背景をしっかり理解すれば「なるほど、必要ではあるけど、この書式である必要はないので、もっと簡素なやり方に変えましょう!」という前に進む議論ができるはずなんですよね。
現状を否定することは簡単です。しかし、否定するだけでは何も変わらないんです。
それより、背景や前提に想いを馳せ、そうした経緯を汲み取った上で、その先にある新しい解決策を見出す方が、よっぽど生産的です。
そうした想いから、相手に共感し、学び合い、そして互いの強みを生かして補い合うことで、チームとして成果を挙げていこうということを皆で約束しました。
ちなみに、このバリューでは、当初は「官民が連携して」といった表現を入れていました。
確かに、官民が連携することが最重要な点ではあります。
しかし、「官民」とことさら強調することは、「官vs民」という構造を強調することにもなります。
さらに言えば、官僚同士でも出身府省によって違うし、民間同士でも大企業とベンチャーの出身者では違います。
そう考えると、究極的には一人ひとりみんな違うんです。
ダイバーシティーというのは、まさにこういう話だと思うんです。男性vs女性という構図を打ち出すことは、分かりやすさは増しますが、男性と女性だけに議論が矮小化されてしまいます。でも、本来の多様性というのは、それに限らない議論ですし、性別だけとっても、男性or女性とシンプルに二分してしまっては、あらゆる個性を反映しきれません。
だから、「官民」という表現をあえて外して、「多様性」という言葉を最終的には選びました。あらゆる多様性を尊重していくという意志の現れです。
そうした、異なる一人ひとりが最大限パフォーマンスを発揮できる環境も同時に必要だということから、説明文の後半では情報の透明性について触れています。
情報が透明に共有されていることで、必要な情報をもとに自律して判断・行動し、それぞれて有機的に繋がって連携しながら、立場を超えて成果を生んでいく。
そうした組織になってゆきたいと思います。
(Pexelsより)
(4)成果への挑戦を続けます
いよいよ最後のバリューです。ここはとてもとても悩んで、何度も何度も書き換えては意見を求めてというのを繰り返しました。
デジタル庁が他の省庁とは異なる特性の一つに、各府省から地方公共団体までの幅広い行政機能を横串しして、行政全体のデジタル化を推進するという役割があります。
そして、そのためであれば必要に応じシステム開発の内製も行います。
システム開発を組織の中心に据え、行政全体のデジタル化を推進するのであれば、開発手法や組織運営の方法も、ITスタートアップが取り入れるような最新の手法を取り入れる必要があります。
それが、アジャイルでの開発です。
アジャイル開発とは、一部のコア機能の段階で早期にプロダクトをリリースし、顧客の反応を見ながら改善を重ねて完成度を高めていく手法です。
一方、従来のスタイルはウォーターフォール型で、要件を完璧に固めて、決まった要件通りに作り上げて、完成したものをリリースするものです。
これについて、平井大臣も「アジャイルでいく」ということは明言されていて、大方針としてアジャイルを志向することは決まっています。
アジャイルというのは先の通り開発手法として使われ始めた言葉ですが、最近では組織運営の手法にも拡大解釈されてきています。プロダクトの開発プロセスは、組織運営とセットで行われるので当然と言えば当然です。
ここで難所となるのが、従来の行政での組織運営は、ウォーターフォール型を前提にしていて、アジャイルとの噛み合わせが良くないことです。
アジャイルとは、言い換えると完成度が低いまま市場にリリースして、失敗も繰り返し、そのフィードバックから学びを積み上げて、精度を高めていきます。
しかし、行政組織では当然、失敗のないように進めることが優先されてきました。「完璧なものを作り上げてからリリースしないと、国民に迷惑をかけてしまう恐れがある」と考えるのは、ある種当然のことですよね。
もちろん、法制度の整備であったり、政治的に重要な論点など、不可逆な意思決定が行政には多く存在します。そういう領域では、やってみてから変えていくということはフィットしません。
そして、従来ではシステム開発においてもこうした組織運営が踏襲され、外部のベンダーに開発を依頼し、完成したものを納品してもらう、というスタイルが多かったようです。まさにウォーターフォール型ですね。
しかしながら、システム開発における意思決定は、必ずしも不可逆ではなくて、開発しながら最適解を探っていくということが可能です。
だからこそ、アジャイルへと世の中は移行しているのであって、日本のデジタル化を加速していくデジタル庁の組織運営スタイルも、できるかぎりアジャイルに寄せるべきです。
そうした意識を庁内で共通の価値観として持つためのバリューが最後の「成果へと挑戦し続けます」なのです。
未知なことや、大きな目標へと大胆に挑戦していきたい。当然そこには失敗もある。でも失敗して終わりではなくて、失敗からフィードバックを得て学び、学びを活かして成果に繋げるまで粘り強く挑戦を続ける。
そうした姿勢を持つことが、最もスピーディーに最終顧客である国民の方々に対して提供する価値が最大化されると、デジタル庁は信じています。
そして、そうした学びを共有し、社会へと還元することを通して、デジタル庁の職員一人ひとり挑戦の影響力を広げ、より大きく日本社会へと貢献していければと、考えています。
(Pexelsより)
さいごに
デジタル庁はまだまだ始まったばかりです。
バリューも発表したばかりなので、これからが本番です。
バリューは浸透してこそなんぼです。バリューを中心に、組織全体が一枚岩となり、多様性を活かし合い学び合いながら、成果へとつなげてゆきたいと思っています。
今後は、浸透を加速させるために、組織横断的な有志として「バリューアンバサダー」の募集を庁内で開始します。そのメンバーを中心に「バリュー浸透プロジェクト」をスタートし、バリューを中心とした組織づくりを、職員一人ひとりと一緒に進めてゆく予定です。
そんな、まだまだ未熟でこれからのデジタル庁ですので、より強い組織にしてゆくため、PMやエンジニアをはじめ、民間からの非常勤職員の募集を新たにスタートしました!
私と一緒にチームになって、人事・組織開発をリードするメンバーも募集しています。
もしご興味が少しでもありましたら、ぜひ、お声がけください😀
◆デジタル庁の採用に関する情報は以下のリンクをご覧ください。
◆これまでの「デジタル庁の組織文化」の記事は以下のリンクをご覧ください。