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社会の変化に合わせた行政システムの構築へ。「ガバメントクラウド」が目指す未来

デジタル庁のクラウドチームでは、政府共通のクラウドサービスの利用環境「ガバメントクラウド」の設計やサービスの企画・開発・運用に取り組んでいます。

ガバメントクラウドでは最新のクラウド技術を活用することで、政府や地方公共団体の行政を効率化し、迅速、柔軟、かつセキュアでコスト効率の高いシステムを構築することができるようになると考えています。これにより、国民の皆さまに向けた行政サービスの利便性向上や効率化にもつなげることできます。

この記事では、ガバメントクラウドの役割や実際の開発・運用に従事するクラウドチームの具体的な業務内容をご紹介します。

プロフィール:
CCO(チーフクラウドオフィサー) 山本 教仁
クラウドエンジニア 本間 裕大(クラウドユニット)
クラウドエンジニア 武田 一馬(クラウドマイグレーションユニット)


デジタル庁が取り組む「ガバメントクラウド」とは

インタビューにこたえる山本 教仁 CCO(チーフクラウドオフィサー)の写真。
CCO(チーフクラウドオフィサー)の山本

――はじめに、デジタル庁のクラウドチームが取り組んでいる「ガバメントクラウド」について教えてください。

山本:
「ガバメントクラウド」とは、国や地方公共団体が利用する政府共通のクラウド環境です。将来的には医療、教育、防災など準公共分野の団体の方も利用することを想定しています。

これまで行政システムはそれぞれの行政機関がベンダーさんと契約し、独自に開発・整備していました。ただ、これではシステムを導入する手間や費用がかかってしまいます。

クラウドを共通化することで、契約周りの共通化だけでなく、システム導入についても共通化ができ、テンプレートというかたちで技術的に共通化したり、ナレッジを共有したりすることでより効率化ができると考えています。

また、地方においては、行政サービス利便性向上や効率化を図るために行政機関の間で相互にデータを利用したいと思っても、そもそもデータの仕様が組織によってバラバラだったため汎用性がありませんでした。

デジタル庁では関係省庁と連携し、それぞれの地方公共団体でバラバラになっていた住民基本台帳や税、国民健康保険、介護保険など、国民の皆さまの暮らしと密接に関わる地方公共団体の基幹20業務システムについて、データの仕様やシステムを標準化し、ガバメントクラウドで扱えるようにすることを目指しています。

――基幹業務システムをガバメントクラウドで扱えるようになることで、住民の暮らしにはどんなメリットがあるのでしょうか。

山本:
たとえば、ガバメントクラウド自体は共通のインフラですが、インフラを共通化することで同じ仕組みを横展開等しやすくなり、いつでもどこでもオンラインで手続きできる環境を実現しやすくなります。

新たな行政サービスを始める場合も、ガバメントクラウド上に業務システムを用意すれば、全国の地方公共団体に速やかに横展開しやすくなります。行政機関が保有するデータ仕様の標準化、インフラの共通化が進んでいけば、データの管理・やりとりもしやすくなり、システムやアプリケーションの開発工数や費用を減らせますし、業務の効率化も図ることができます。

――ガバメントクラウドが整備されることで、行政サービスをより早く、より広く提供できる環境を目指しているわけですね。

山本:
ガバメントクラウドが整備されることで、インフラ運用の負担を軽減することにもつながると考えています。

少子高齢化による労働力不足が深刻化する中、国民の皆さまに向けたサービスやアプリケーションを開発・維持するためには、行政業務のDXや効率化が必要です。同時に、社会の変化に合わせてサービスやアプリケーションを改善することも求められています。

最新のクラウド技術を活用できれば、迅速、柔軟、かつセキュアでコスト効率の高いシステムを構築しやすくなります。利便性の高いサービスを国民の皆さまにいち早くご提供できますし、既存のサービスをより効率的に改善できるようになります。

クラウド環境を導入する上では、デジタル庁がクラウドサービスを提供する事業者(CSP:クラウドサービスプロバイダ)と契約し、国や地方公共団体などが共同で利用できる環境を整備しています。

こうすることで各行政機関が個別に事業者と契約を結ぶよりも作業負荷を抑えられますし、システム環境の管理や可視化がしやすくなり、セキュリティやアプリケーション、サービスの品質を保つことができます。行政機関の間でノウハウの共有もできます。

行政システムの中には、ものによっては20年前のアーキテクチャから変わっていないものがあったりします。利便性や安全性の面からみて、どこかのタイミングで変える必要があります。ガバメントクラウドへの移行は、遅れが指摘されがちな行政DXを進める上では絶好のチャンスだと考えています。

私たちクラウドチームではこうした背景を踏まえて、ガバメントクラウドの環境整備に取り組みつつ、国や地方公共団体がガバメントクラウドを利用する上でのインフラ構築や運用面をサポートしています。最新のクラウド環境に移行するのであれば、アーキテクチャも“レガシー”から“モダン”なものに移行できるように、ご提案をしています。

2つユニットで構成されるクラウドチームの業務内容

インタビューにこたえるクラウドエンジニアの本間(クラウドユニット所属)と武田 (クラウドマイグレーションユニット所属)の写真。
クラウドエンジニアの本間(クラウドユニット所属)と武田 (クラウドマイグレーションユニット所属)

――現在、デジタル庁のクラウドチームではCCOの山本さんのもと、主に「クラウドユニット」と「クラウドマイグレーションユニット」の二つのユニットでガバメントクラウドの環境整備を進めています。具体的にどのような業務に携わっていますか。

本間:
「クラウドユニット」では、ガバメントクラウドの開発・運用面での技術やシステムを担当しています。

ガバメントクラウド自体の運用基盤、セキュリティを保つための機能を開発・運用しています。また、ガバメントクラウドを利用するための利用者向けの申請や管理のアプリケーションの開発・運用にも携わっています。安全性を担保しつつ、利便性を損ねないよう安全性と使いやすさのバランスには特に気を配っています。

ガバメントクラウドとして採用したクラウドサービスには、さまざま機能やサービスがあります。利用する行政機関の利便性を重視し、クラウドの機能をなるべく自由に使えるようにしつつ、セキュリティを確保する。これを両立させることは、とてもやりがいを感じます。

開発・運用面では、実際にガバメントクラウドを利用する行政機関の感想やご意見を参考にしています。何らかの機能や統制を導入する際には、事前に利用機関向けの検証環境を用意するなど、細心の注意を払って進めています。

武田:
「クラウドマイグレーションユニット」では、ガバメントクラウドを活用する行政機関等のクラウド移行やクラウド活用の支援を担当しています。

ガバメントクラウドを利用する職員の方に向けたガイドを整備したり、ガバメントクラウドをさらに便利に使っていただけるようなナレッジをお伝えしたりもしています。

ガバメントクラウドにシステムをスムーズに移行できるようなノウハウの共有や、導入後の活用方法などの支援に携わっています。現在特に注力しているものが「モダン化」への対応です。

――「モダン化」とは、具体的にどのような取り組みですか。

武田:
これまで使っている既存の業務システムをガバメントクラウドに移行することは、例えるなら「引越し」のようなものです。技術的にはそこまで難しいものではありません。

一方でガバメントクラウドの真価を発揮するためには、業務で使うアプリケーションの「モダン化」が必要になります。

「モダン化」とは、既存のシステムで用いられているアプリケーションを見直して、現在の業務プロセスに最適化し直しつつ、古い技術から脱却して比較的新しい技術で置き換えてつくりかえることです。そのためには既存システムとクラウドを初めとする最新の技術の理解に加えて、行政の業務に関する知見も必要です。難易度が高く、どうすれば「モダン化」をうまく進められるのか。世界中の組織がこの課題に直面しています。

デジタル庁でも、府省庁や地方公共団体の皆さまにモダン化の重要性について丁寧にお伝えしています。モダン化のプロセスを省いてしまうと、これまで通りを繰り返す考え方に引っ張られてしまい、業務改善につながらず、古い技術が残って今後のメンテナンス負荷が上がっていってしまいます。

クラウドサービスを効果的に使えば、柔軟なシステムの組み直しやリソースの追加削減が可能になるため、業務の改善もしやすくなり、比較的新しい技術への対応も実現しやすくなり、モダン化の取り組みを推進できると考えています。

一方で、たとえクラウドを使ったとしても、既存の業務システムをガバメントクラウドに単純移行するだけだとクラウドの本質的な価値を引き出すことは難しく、効果は限定的になります。クラウドをスマートに利用しその真価を享受しつつ、システムの「モダン化」を行い、行政サービスの継続的な改善につなげていくことが重要と考えています。

こうした取り組みを推進していけるように、デジタル庁ではガバメントクラウドの導入を進める行政機関からの技術的な相談をお受けしたり、モダン化のポイントをご紹介したりしています。モダン化していくには時間と労力もかかりますので、複数の段階を踏んでモダン化へ取り組むこともガイドしています。場合によっては、導入にあたっての見積書を精査するなど、様々な支援に取り組んでいます。

インタビューにこたえる山本CCOの写真。

山本:
実際にガバメントクラウドを導入した行政機関の皆さまからは、「ガイドや支援を受けたことでコスト削減できた」といった声を寄せていただき、非常にありがたいです。

一方で、導入にあたっての課題も把握しており、適切なサポートができるように体制を整えていますし、継続的な改善も行っています。また、より多くの方にガバメントクラウドの利便性や効果をわかりやすくお伝えすることも必要だと感じています。

たとえ話になりますが、クラウドは「乗り合いバス」と似ている点があると思います。自家用車であれば、車を購入し、自分で車検に入り、エンジンやブレーキのメンテナンス、洗車も必要です。

でも、乗り合いバスであれば、みんなが一定の料金を支払えば、乗るだけで目的地へとたどり着けます。自分で車体を洗ったり、車をメンテナンスしたりする手間は必要ありません。

クラウドをうまく使えていないケースとして、これまで通りのやり方でクラウドを使おうとしている、つまり、バスに乗るのに洗車を始めたり、メンテナンスを始めたりして、たいへんだ、コストがかかると言われているケースがあります。こうしたケースにも丁寧な説明とガイドが必要だと考えています。

武田:
全体のコストを削減しつつ、ガバメントクラウドの真価を発揮するためにも、「モダン化の重要性や効果をお伝えするにはどうすれば良いか」と、チーム内では日々議論をしています。

導入を進める機関の皆さんともノウハウを共有し、丁寧にコミュニケーションを重ねてガバメントクラウドの導入をお手伝いしていきたいと考えています。

“未来”へ向かうための「技術的正しさ」を軸に、クラウド人材を募集

インタビューに答えた山本CCO、クラウドエンジニアの武田と本間が並んだ写真。

――現在、デジタル庁ではクラウドエンジニアほか、ガバメントクラウドに関わる複数の職種を募集しています。チームではどのような方が活躍されていますか。

山本:
全員がクラウド技術に精通したクラウドエンジニアであり、高いレベルでクラウドサービスを駆使する業務に従事しています。キャリアのバックボーンはそれぞれで、クラウドサービスプロバイダ、クラウドインテグレータのほか、金融機関やユーザ企業、少数ですがコンサル企業から入られた方もいます。

皆さんそれぞれが高いスキルとモチベーションをもって活躍されていますし、クラウド技術が好きなメンバーが集まっており、みんなが共通知識を持っているのでコミュニケーションや意志決定がスムーズで早く、お互いに助け合ったり知識を共有する文化が根付いていることもチームの良さだと感じています。

――実際にデジタル庁で働いてみて、入庁前と入庁後でイメージにギャップはありましたか。

武田:
民間との違いは、いい意味であまり感じません。テレワークもできますし、コミュニケーションはチャットがベースです。JiraとかGitHubなど、民間で広く利用されている一般的な開発支援ツールも使えますので安心してください。

本間:
チーム内では行政官との連携する機会も多いですが、皆さん勉強家でクラウド技術にも詳しいです。物事を進める上で問題は感じません。

行政機関なので全てが民間と同じというわけではありませんが、行政官と密にコミュニケーションが取れるので、常に納得感を持って仕事を進めることができます。

山本:
民間企業と最も異なる点は、自分が関わるプロジェクトのユーザがこの国に暮らすすべての人が対象だということです。

どんなプロジェクトでも、はじめはスモールスタートであっても、いずれはすべての人(国民や住民)が対象になることをロードマップに引いた上で想定する必要がありますね。

――多くの人に向けたサービスを開発できるのは、デジタル庁のエンジニアならではのやりがいと言えそうです。

武田:
すでに「ある」ものを運用することに加えて、新たに企画して施策を立ち上げる機会も多く、最終的にはそれが世の中に大きな影響を与えることになります。

特にガバメントクラウドのチームでは、品質を担保しつつ、優先順位をつけてスピード感をもって業務を進めることが必要です。エンジニアであっても、プロダクトマネジャーに通じるスキルも磨くことができます。積極的に「これがやりたい」と見つけられる人は活躍できる場面が多いと思います。

本間:
国内では類を見ない規模でベースとなるクラウド基盤の設計構築に参加できることは、とても大きな経験になると思います。

ガバメントクラウドはサービス利用者が多いですし、徹底した運用の自動化設計やそのベースラインの分析基盤、マルチクラウド環境における接続やデータ連携なども手を挙げれば担当する機会に恵まれます。

答えのないところに答えを出していくという実践的なクラウド技術を学べる点でも技術者にとって魅力的な職場だと思います。

山本:
デジタル庁には「手を挙げれば挑戦できる」というカルチャーがあり、目的意識や意欲をお持ちの方であれば大きく成長できると思います。チームメンバーはみなクラウド技術や新しい技術を貪欲に学んでいますし、チャレンジしやすく、協力も得られやすい環境です。

クラウドの実践的スキルや開発経験、「高さ」と「深さ」があるクラウドの知見をお持ちであることが前提にはなりますが、実際に手を動かして社会をよりよくしていくことに興味がある方、新しい技術を学んで知識を共有し、実践することが好きな方にはぴったりな職場だと思います。

私たちは、“未来”へ向かうための「技術的な正しさ」を重んじています。新しい技術を活用し、困っている人を助けていくことが、私たちのチャレンジです。こうしたミッションに共感していただける方には、とても適した環境だと思います。ご興味を持っていただいた方のご応募をお待ちしています。

◆クラウドチームの採用情報はこちら。

◆クラウドチームでは、デジタル庁Techブログで解説記事を公開しています。


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